165.情勢調査①
『分裂選挙!校内1のベストカップル、古河裕大と松本優花が、別々の候補を支持!』
翌日に、新聞部から発行された新聞の題名には、大々的に、古河先輩と松本先輩の分裂が報じられた。
内容は、何故分裂してしまったのかをほとんど憶測で書かれていた。
・政策面で一致しなかった
・星川支援を断った事で、松本が反旗?!
色々な考察がされていた。
ほとんどが、噂話を元にしていた。
「凄いですねぇ〜〜新聞部の妄想力は」
この学校では、生徒会長候補には選挙対策本部として選挙期間中は空き教室を自由に使っても良いとされている。
僕も春乃さん・奈々さん・松本先輩と共に、部屋にいる。
「そうだね。本当の理由は、知らないのにね」
本人の口から理由が語られた訳ではないので、題名の下に、新聞部による推察とは記されている。
「ただ、情勢調査も載ってるよ」
今回、発行された新聞には候補者の現段階の情勢が載っていた。
橋渡剣候補 40%
星川愛里候補 35%
白村詩季候補 10%
情勢不明 15%
新聞が発行されたのが、選挙期間入って直ぐなので、分裂選挙になる前の支持率が掲載されている。
やはり、橋渡先輩と星川先輩が8割に近い支持を集めているのは予想通りだが、僕の支持率が10%もあったのに、少しの驚きがある。
「白村くんの支持率は、10%か。厳しいね。昨日、打った第1の矢が、どんな感じに影響するかだね」
「むしろ、僕に、10%の支持率があるのが驚きですね」
「え、私は妥当だと思うけど?」
奈々さんが、僕の現段階の支持率は妥当だと言って来た。
「昨日から選挙期間入ったから、あまり、宣伝出来ていないんだよ。だけど、これだけの支持率は中等部時代の働きを知っている1年生に多いと思う」
「確かにね、中等部時代の白村くんの働きを知っていたら将来的な期待も込めて支持していてもおかしくない」
中等部時代の実績と将来に向けての期待か。
つまり、今年はダメでも来年立候補した際にも支援すると表明しているという事か。
「ごめん、ちょっとトイレ」
「私、飲み物買って来る」
奈々さんと春乃さんは各々の用事がある事で、一旦、教室を後にした。
「あれから、古河先輩に何か言われていますか?」
「しつこいよね。メッセージで、今からでもこっちに合流しろってさ」
「……うふふ」
「あら、白村くん。何だか、面白そうな顔しているね」
面白いというか少しがっかりしたという方が、正しいと思う。
1番支持率を集める候補に勝つのが難しいと思っていたが、案外、簡単なようだ。1番の好敵手は、星川陣営なのだと思う。それは、橋渡陣営には致命的過ぎる欠陥が浮き彫りになったからだ。それの疑惑が確信に変わるとしたら次に情勢調査が出る時だろう。
「面白いと言うか、予想以上に橋渡陣営を決選投票の舞台から引きずり降ろせると思うと歯ごたえが無いと思いまして」
「でも、油断禁物なんでしょ」
「当然でしょう。油断せずに、徹底的に叩き潰しますよ」
僕は、プライベート用のスマホに送られてきたメッセージの返信をした。
最終的なカードも順調に手配が出来そうだ。
「それで、松本先輩。本当にいいんですね?」
「いいよ。私にとって、この選挙は古河くんとの決別の意味があるからね」
松本先輩の古河先輩に対する呼び方が、名前呼びから苗字呼びに変わっている。
「別れるんですか?」
「別れるよ。もう、古河くんにはうんざり。彼の理想論に付き合わされるだけならまだしもね。Hまでも向こう主義なのは、キツかった。私だって、体調的にしたくなくても盛ってたからね……」
「では、作戦通りにいきましょうか」
「了解」
友人関係が壊れるのは、異性関係。恋人関係が壊れるのは身体関係。
この言葉の重みをひしひしと感じる。
松本先輩は、古河先輩に日常的にも身体的にもうんざりしていたのだろう。
「ただいまぁ~~」
奈々さんと春乃さんが、用事から帰ってきた。
春乃さんは、人数分の飲み物を買って来てくれたようで、それぞれの席の近くに置いてくれている。
一方の奈々さんは……
「奈々さん。シャツ直しするならトイレでしませんか?」
スカートの中に手を入れてシャツを直していた。
「別に、ズボン履いてるし良くない?」
そうだった。
この女の子は、そういう価値観だったんだ。陽葵さんに慣れているせいもあるのだろう。
「それで、松本先輩。明後日に新聞部から取材の依頼が来ているそうで」
「そうだね。今回の分裂の理由を聞きたいんだって」
奈々さんの行いに関しては無視して、松本先輩の元に来ている取材依頼について聞く。
「古河くんは、理由が解らないとの一点張り。だから、私の元に来たみたい」
「なら、そこですね」
「第3の矢?」
「そうです。よろしくお願いします」
明後日には新聞部の取材が入る。その翌日には、2回目の情勢調査が掲載されてから投票日に向かうのだろう。
「抜かりの無いように進みましょう」
「「「はい!!!」」」
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