140.企業見学
「羽衣ちゃん、似合ってるよ!」
今日は、午前から夕方に掛けて黒宮系列企業への企業見学を行った後に、見学先の企業が招待されていると言うパーティーに出席する予定だ。
僕と羽衣は、春乃さんが持ってきてくれた衣服に着替えている。
僕は、スーツを着用して羽衣もパンツスタイルのスーツを着ている。どうやら、羽衣はスカートよりズボン派のようだ。
「うん。何か、動きにくいよ」
「そりゃ、正装ですからね。動きやすさは、あまり重視されていないでしょう」
「うぅ」
羽衣は、動きにくい事が不満なのだろう。僕としては、服のサイズを教えたのだが、こうも2人とも服がピッタリ合うのは、少々、怖い物がある。
着替えた後に、土岐さんに教えて貰った方法で、髪を整えたタイミングでお迎えが来た。
春乃さんに、案内されて車の前まで移動する。
祖父母に、挨拶をして車に乗り込む。
黒服さんは、今回はサングラスを掛けていなかった。以前、僕と羽衣が興味津々になった反省だそうだ。
「では、出発致します」
車が発進された。
母さんは、お仕事が終了してから合流する予定だ。
「詩季様、羽衣様。こちらが、本日、見学頂く企業になります」
黒宮に関する人の前なので、僕達と春乃さんの関係性も黒宮モードだ。取り決め通りに、呼び方を変える。
春乃さんから貰った企業資料に目を通す。
今回、見学する企業は、公共施設の工事に手広く活躍している企業。近畿圏では、ボスクラスで日本全国ならトップ10に入る企業だ。
「なるほどねぇ〜〜今、勢いがある企業と言う所ですか?」
「そうです。設立したのは、10年程前です」
「10年で、近畿圏ボスクラス。日本国内でトップ10ですか」
「えぇ〜と、創業者は新様の奥様のお知り合いで、最初は、黒宮から仕事を斡旋して貰っていたけどそれをキッカケにして業績を伸ばした」
「まぁ、仕事を斡旋して貰った前提があったとしても、ここまで成長したのは創業者で会長の錦戸さんの手腕ですね」
車が、見学先の企業に到着した。
僕の想像では、受付を済ませてから案内の人が降りてくるものだと思っていた。
しかし、会社の入口の前に数人の人が立っていた。
車が止まると、助手席に座っていた黒服さんが出て、後部座席の扉を開けてくれた。
先に、従者の春乃さんが出てから中央に座っていた僕を黒服さんの補助をしてもらって出た。最後に、羽衣が出てきたことを確認して、黒服さん1人を残して車が発進していった。
「本日は、お越し頂きありがとうごいざいます!」
リーダー格の男性の一言を合図に、皆が、頭を下げた。この人が、会長の錦戸さんだろう。
「詩季様――」
「皆様、顔をお上げて頂けますか?」
春乃さんのサポートの前に、僕は、顔を上げるようにお願いした。職員さんが、全員、頭を上げたのを確認したので、僕から話しかける。
「本日は、私どもの企業見学のためにお時間を作って頂きありがとうございます。私は、白村詩季。隣は、羽衣といいます」
「私は、詩季様の従者の住吉春乃と申します」
自己紹介を終えると、錦戸さんに案内して貰って企業の内部を見学させて貰う。
先頭から、錦戸さん・僕達三人・お出迎えしてくれた職員の順番で、会社内を移動する。歩行スピードは、僕に合わせて貰っている。
事務員さんが働く所に始まり、営業部に経理部など全ての部署を見学した。僕たちの後方から付いて来た職員さんは、各部署のリーダーさんだった。
各部の人たちや錦戸さんは、常に、緊張していた。
苗字が白村だが、黒宮と復縁した事で黒宮家からの視察の意味合いで捉えられているのだろう。確かに、明日には訪問した時の感想を伝えるように言われている。
最後に、社長室で今後のこの会社がどのように成長して日本においてどのように貢献するつもりかを会長と社長から伝えてもらい、一旦、企業見学を終えて、僕達3人は控室に移動した。
すると、春乃さんは、何かを取り出して部屋中をくまなく捜索していた。僕と羽衣は、喋らないように指示を受けた。
粗方、調査を終えると春乃さんは、親指と人差し指で丸ポーズを作って喋っても大丈夫だと伝えてきた。
「何を探していたのですか?」
「盗聴器だね。昔、あったみたいなの。黒宮からの視察を終えて控室で休憩している時の会話を盗み聞きした事が」
視察終了後の休憩となると、自然と視察の感想を述べる。その際に、黒宮にどう感じられたかの情報を集めていた事があったそうだ。
にしても、今は、一国のトップにでもなった気分だ。SP(黒服)が付いて、控室では盗聴を警戒。
そして、僕は、心の中に引っかかる物が、まだ、残っている。
それは、春乃さんの事だ。
春乃さんは、僕の従者になるべく引っ越してきた。そして、僕が黒宮に戻る事で正式に従者となった。
一見すると、何の不思議なことも無く、僕が黒宮と復縁した際に従者になるべく、高校生になる時に、大阪から兵庫に引越して来たと思える。
僕は、付いてきてくれていた黒服さんに、外に出てもらい、僕が許可を出すまで、この部屋に人を通さないようにお願いした。
これで、部屋の中は、3人になった。
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