111.安心感

 僕と羽衣は、目が合った。


 羽衣は、頭をフリーズさせていた。そして、その表情は、僕にドッキリを仕掛けようとしたら、その対象が帰国した空港に居たのだ。

 フリーズした後に、ドッキリが失敗した事を自覚した羽衣は、悔しそうな表情になっていた。その後は、嬉しそうな表情になっていた。


 悔しそうな表情を拝めたことは、嬉しいが、本当に表情豊かな妹だと思う。


 羽衣は、キャリーケースを母さんに押し付けて、僕の方に駆け足で寄って来た。


「走るとコケますよ」

「ただいまぁ~~アニキィ~~」


 今日の羽衣は、アニキ呼びなようだ。


「何で、居るの!?ねぇ、なんで?!」

「少しは、落ち着きなさい。挨拶するべき人居るでしょう」

「あっ、そうだったぁ。アニキに会えて嬉しさのあまり、忘れちまったよ」


 羽衣は、そう言うと、陽葵さんとおばさんに挨拶をした。

 母さんと遅れて合流してきて、2人に挨拶をした。


「詩季、ただいま」

「おかえりなさい。母さん」


 母さんは、また、どこか安心した表情になっている。


「所でさぁ〜〜何で、アニキが居るの?私、帰国が早まった事、言ってないよね」

「知らなければ、ここにいませんよ?」


 すると、羽衣は、母さんの方を見たが、母さんは、首を横に振った。となると、僕に伝わった情報筋は、1つだけになる。


「もしかして、健じぃから聞いた?」

「せいか〜い!」

「あんの、スケベエロジジィめぇ〜〜」

「ドッキリ仕掛けようとしたら、逆ドッキリに合った?」

「そうだよ!」


 羽衣は、時差ボケは関係ないかのように元気だ。どうせ、飛行機の中でぐぅすか寝ていたのだろう。

 睡眠バッチリな羽衣は、元気が有り余っている状態なのだろう。


「えっへん。お兄ちゃんを驚かそうなんて10年早いんですよ」

「エロジジィから何も聞かなかったら驚かされたくせに……」


 拗ねて頬を膨らませている羽衣が、可愛すぎる件で、感想文を軽く10枚は、書ける気がする。


「それは、どうでしょうかぁ〜〜1年早く産まれてきた兄を舐めないで頂きたい」

「たった、1年じゃん!」


 僕と羽衣が、ギャグ的な会話を続けていると、自然と陽葵さんが蚊帳の外になってしまっている。


「2人とも兄妹仲良いよね」

「「もちろん!!」」

「息ぴったり」

「「もちろん!!」」


 このまま、立ち話をしていると他の人のご迷惑になるので、駐車場に移動して車に乗り込む。


 運転席におばさん、助手席に母さんが座り後部座席に、羽衣・僕・陽葵さんと座った。真ん中の運転席と後部座席の間にある席には、羽衣と母さんのキャリーケースを固定して置いてある。


 空港を出発して、家に向かう。


「羽衣、家に着いたら、陽葵さんから借りる中等部の制服試着ね」

「おぉ〜〜中等部の制服!」


 羽衣は、目を輝かせていた。


 イギリスの学校では、私服登校だったらしく制服が新鮮なようだ。


「これで、毎日の服選びから開放されるよぉ〜〜制服さえ着ていれば、正装になるもんね♪」


 おっと、僕とは別方向の感想を持っていたようだ。


「もし、サイズ合わなかったら許可とか得ずに調整してもらって構わないからね」

「良いんですか?陽菜ちゃんが通う時にとか……」

「大丈夫、大丈夫!陽菜には、陽菜のを買ってあげるつもりだから」

「あ、あのありがとうございます」

「いぇいぇ、こっちもバカ娘が詩季くんにお世話になってるんでぇ〜〜」


 おばさんの言うことに、陽葵さんは、大層ご不満な様子で頬を膨らませていた。


「それでぇ〜〜アニキィ〜〜」

「その呼び方、まだ継続するんですね」

「陽葵ちゃんから借りた制服と体操服使って――あっいたぁい!」


 羽衣の声が車内に響いた。母さんが、羽衣に声量考えなさいと注意されたのは、言うまでもない。


 羽衣が、こんな声をあげた理由として、僕が少々力を入れた手刀をお見舞いしたからだ。

 羽衣が、あの後に何を言おうとしているかは、解ったので、先手を打って口封じをした。


「羽衣、言うことありませんか?」

「陽葵ちゃんから――ごめんなさい。何もないです」


 僕が再度、手刀の構えをすると大人しく黙った。本当に、陽葵さんの前でなんて事を言おうとするんだ。


 本当に、なんて事を言うんだ。


 大切な妹が着るものにそんなヤワなことするような兄ではない。

 それに、借り物の制服で、そういうことをすれば、陽葵さんに縁を切られる恐れだってある。


「2人、本当に仲良いですね」


 羽衣を黙らせたら、運転席の方から、母親会をしている会話が聞こえた。


「たまに、距離感大丈夫かと思いますけど……」


 僕たち子ども3人衆は、聞き耳を立てる事にする。


「いやぁ〜〜うちの双子は、こんなに仲良くないですよ。まぁ、喧嘩をする訳ではないですし……年頃なので、仕方が無い部分もありますが、2人の仲良しさは羨ましいですね」

「えっへん、私とアニキの仲の良さは、未来永劫続きますん!」


 母親同士の会話に、羽衣は自慢げに答えていた。


 僕としても、羽衣とは将来的に何があろうと妹として、大切な存在であるのには変わりがない。


「そうですね、羽衣が良い子にしていたら仲の良い兄妹でいましょう~~」

「あぁ~ん、誰が仲良くしてやっていると思ってるんだぁ~~」


 帰国した羽衣は、何時もとは変わらない様子で、かなりの安心感を覚えている。

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