108.どっちを選ぶ?!

 夕方になったら、陽翔くんと陽菜ちゃんが、家に来た。今日は、皆で夕ご飯を食べるみたいだ。


「詩季にぃちゃん!」

「あわわ、陽菜ちゃん!」


 リビングに着て、僕を発見した陽菜ちゃんは、僕の近くに駆け寄って来た。陽菜ちゃんが、来たことで陽葵さんは押し出される形となってしまった。


「詩季にぃちゃん。陽菜、お勉強頑張ってママに褒められたんだよぉ~~」

「陽菜ちゃん、勉強頑張っていましたものね」


 僕は、陽菜ちゃんの頭をなでなでしてあげる。


「陽菜、家に帰っても勉強を続けたんだよ」

「それは、偉いですねぇ~~」


 お家に帰った後も、勉強を頑張ったというのは偉いものだ。

 1日で、3日分こなしたのなら2日休んでも文句は、言われないだろうが、陽菜ちゃんは、勉強を続けた。


 これは、褒めてあげねばならぬなぁ〜〜


「あははぁ〜〜」


 僕に撫でられてご満悦な、陽菜ちゃんは、表情が緩みきっている。


「陽翔くん、お久しぶりですね」

「おう、妹達がお世話になったな。特に、大きい方は大変なご迷惑を……」

「陽翔、何言ってんの?ねぇ〜〜?」


 陽葵さんは、陽翔くんに対して、その口閉じねぇと縫い付けるぞと言わんばかりの視線を向けている。


「そうですね、小さい方の妹さんは、素直で可愛かったですが、大きい方の妹さんには、振り回されて疲れましたねぇ〜〜」

「なっ、詩季くん、裏切ったな!」


 僕からの裏切りに、陽葵さんがあたふたし始めた。


「お姉ちゃんがお世話になりましたぁ!トン、トン!」


 陽菜ちゃんは、僕の後方に移動すると、肩をグーの手でトントンと叩いてくれた。


 口で「トン、トン!」と言いながら叩いてくれている所が、可愛さポイントが高い。


 何だか、おじいちゃんのお世話をされているみたいだが、これはこれで、極楽浄土なので堪能しよう。


 カシャ♪


 すると、スマホのシャッター音がした。


 陽葵さんが、スマホのカメラをこっちに向けてきていた。恐らく、この様子を撮影したのだろう。


「詩季くん。これ、羽衣ちゃんに送るよ」

「別にどうぞ?」

「なぬぅ!」


 陽葵さん的には、写真を羽衣に送る事で、陽菜ちゃんとベッタリしているのをやめさせようと思ったのだろう。


 しかし、羽衣も陽菜ちゃんを気に入った以上、被害は、最小限に済むだろう。


「なら、送るからね。ほら!」


 陽葵さんは、羽衣とのトークルームを見せてきた。


 既に、既読がついている。


 ブー♪


 僕のスマホにメッセージが来たようだ。送り主は、羽衣だった。


『(うい) 日本に、帰ったら甘やかせ!!』


 僕は、羽衣から来たメッセージを陽葵さんに見せた。


 陽葵さんは、予想外の事が起こったのだろう。目をぱちくりしている。


「実は、羽衣も陽菜ちゃんの事を気に入っているんですよ」

「なぬぅ、大好きなお兄ちゃんを取られて怒ると思ったのにぃ〜〜」

「くふふ、残念でしたねぇ〜〜」


 陽葵さんは、悔しそうにしながら、陽菜ちゃんを連れて、お泊まりから帰る準備をしに行った。


 ここまで、来たのだから、洗濯していた自分の着替えは、自分で処理しなさいと言うことか。


「陽翔くん、夏休みは、何をしていたのですか?」

「基本的には、勉強だな。1日だけ、春乃の遊んだな」

「おぉ〜〜どうでしたか?」


 陽翔くんは、女っ気を見せてこなかったので、この話は、気になる所だ。


「面白い話なんて無いぞ。基本的に、詩季の事を聞かれたからな。詩季に、好意があるんじゃないか?」

「そうですかねぇ〜〜春乃さんが、僕に好意があるとは思えないんですよね。と言うか、春乃さんの事、気になっているでしょ、陽翔くん」

「――!」


 図星を付かれたのが、陽翔くんは、少し、表情を強ばらせた。


「悪いかよ。気になる人が、詩季の話ばかり聞きたがるんだからいい思いはしないよ」

「そう言う物なんですね」


 陽翔くんは、春乃さんが気になるのか。そして、一緒に遊んだと思ったら、僕の話題だらけか。やっぱり、狙っている異性が、別の異性の事を言われたら面白くないか。


 僕の場合は、陽葵さんがぁ~~と想像するが、陽葵さんの身近にいる男子は、僕以外に、双子の兄の陽翔くんに彼女持ちの瑛太くんだ。それに、陽葵さんは、僕と居る時は、ほとんど他の男性の話をしていなかったな。


「それで、詩季は春乃の事どう思っているん?」

「ん~~よく解らないですね。そう言う、異性に関する感情は、理解出来ていないんですよね」


 だから、陽葵さんに好意を伝えられるという告白をされたのに、返事を保留している段階なのだ。


「にしても、春乃さんが、僕の事を知りたがっていたんですか。リハビリの時に、こけた時に、スカートの中見えてしまうのも構わず、助けてくれましたけど……」

「……詩季に、好意ないか?」

「そうなんですかね……スパッツが丸見えになってしまって、その後に恥ずかしがっていたのが可愛いと思いましたけど」

「やっぱり、詩季に好意あるだろ。どうするんだよ、妹と春乃」

「何で、僕がどっちか選ぶ前提なんですか」


 僕は、軽く陽翔くんに手刀をした。


 僕が、陽葵さんと春乃さんのどっちかを彼女に選ぶ。それだけの価値のある男だと思わない。むしろ、陽葵さんに好意を伝えられた事すら好運だと思っている。


 正直な所、陽葵さんが僕に好意を持った理由がわからないのだ。

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