86.グループトーク

「何処がいいかな?」


 机の上に置いてあるスマートフォンから、陽葵さんの声が聞こえる。


 僕は、お風呂から上がって自室で髪を乾かしている。


 今は、僕含めた友人6人のグループルームで電話している。


 議題は、夏休みに何処に遊びに行くかだ。


 日程に関しては、お盆の初めの方の日なら瑛太くんと奈々さんの部活もお休み、僕たち3人の生徒会もお休みという事で、その日になった。


 そして、今は、何処に遊びに行くかを話し合っている。


「詩季が、直ぐに休める所がいいよな」

「そうだね。しきやんの移動スピードも考えると、屋内施設の方が良くないかな?」


 瑛太くんの提案に、奈々さんが、内容を付け足している。


 何処に、遊びに行くかに関しては、僕の体調面を考慮してくれている。


 屋内施設なら何処がいいかを話し合いながら、最初にプール案が出てきた。


「でも、プール内、杖ついて歩けるかな?それに、詩季くんも楽しめないと」


 プールの提案に、春乃さんが問題点を指摘する。


「確かに、一般施設のプールだと厳しいかもな。例え、杖OKでも、床は、相当濡れてるだろうしな」


 プールに関しては、お釈迦になりそうだ。


 少しばかり、残念な思いはある。


 女性陣の水着姿を拝めないのは、残念だ。


「あっ、そうだ。プールで思い出したんだけど……」


 陽翔くんが、何かを思い出したかのように、話し出した。


「守谷先生から、学校の屋内プールの清掃を頼まれたんだよ」


 プール清掃と言っても、プールの中は既に綺麗なので、授業とかで使う更衣室やプールサイドの掃除を頼まれたみたいだ。


「それで、掃除が終わったらプールで遊んでいいみたいだ」

「それいいね!私達でやろう!」


 陽翔くんの話を聞いた、陽葵さんが、ノリノリで返事をしてきた。


 ちなみに、陽葵さんと陽翔くんは、陽翔くんのスマホで通話している。


 仲のいい兄妹なのか、陽翔くんが、陽葵さんに良いように使われているだけなのか。


 どっちなのだろう。


「ひまりん、積極的だねえ〜〜」

「もう、奈々ちゃん。今、言わないで」


 陽葵さんは、何を積極的になっているのだろう。


 奈々さんの言うことを、陽葵さんが止めているのには、何かを理由があるのだろうか。


「ねぇ、陽翔。それって、学校指定の水着じゃないとダメなのかな?」

「……守谷先生からは、プール内を掃除する訳では無いから必要ないだろうと。もし、遊ぶ場合は、授業じゃないから私物の水着を使っていいとさ」

「じゃぁ!!…………じゃぁ、皆で、プール掃除をしてから遊ぼ!」


 陽葵さんは、何だかプールに関して拘りを見せるかのように、意見をまとめて皆に提案した。


  皆……特に、肌を見られる事になる他の女性陣も難色を示す事なく賛成された。


「詩季くんは?」


 僕は、賛成していなかったので、陽葵さんから尋ねられた。


「しきやん〜〜今なら、ひまりんだけでなくはるのんの水着も見られるよ!それに、彼氏有りだけど、私の――」

「おい、何処ぞのバカ女。何、彼氏の前で別の男を誘惑しようとしてんだぁ、あぁん??」

「んいゃ〜〜どうせ、あんたもひまりんとはるのんの水着姿ジロジロ見るくせに。私と言う彼女が居ながらァァ?」


 急に、バカップルの痴話喧嘩が始まった。


 陽葵さんは、飄々としていそうだが、春乃さんは、スマホ越しに顔を真っ赤にしている事が予想される。


「おい、バカップル共。喧嘩とイチャイチャは、2人きりでやれよ」


 陽翔くんが、すかさず、ツッコミを入れると、2人は、「「すみません」」と謝罪していた。


「春乃さん、生きていますか?」


 勝手に、自分の水着を餌にされていた春乃さんの安否を確認する。


 恥ずか死んでいないといいが。


「……生きてるよぉ〜〜」

「それは、良かったです」

「ねぇ、詩季くんは、どんな水着が好みなの?」

「う〜ん。僕の好みが春乃さんに合うのは限らないですからね。春乃さんなら、例えば、ビキニでも谷間とかをしっかり隠す方が似合いそうですし、下心持っている瑛太くんの心をへし折る事が出来ますよ」

「おぉ〜〜しきやんいい事言う!」


 スマホから、大きな物音がしたので、恐らく瑛太くんは、ダメージを受けたのだろう。


 女性に水着の好みを聞かれたのは、初めてだ。


 特段、好みというのは、無い。強いて言うなら、露出が少ない水着が嬉しいと思う。例え、ビキニだとしても谷間が隠れるレベルには布面積があって欲しい。


 でないと、僕とて男の子だ。何処とは言わないが、反応しかねない。


 僕の事を信じてくれている友人を裏切る真似はしたくない。


「あの、詩季と春乃?」

「どうしたのですか、陽翔くん?」


 陽翔くんが、恐る恐ると言った感じで話いしてきた。スマホからは、ギシギシという音が聞こえる。


「陽葵が嫉妬して、俺のスマホをへし折りかねないんだよ」

「嫉妬してない!ただ、陽翔のスマホをへし折りたいと思ったから!」


 何とも傍若無人だ。


 電話口で、皆、こう思っているだろう。


「でも、ひまりん。はるるんのスマホへし折ったら水着買いたくなっても買えなくない?」


 すると、スマホからカタンという音がした。


「奈々、助かったよ」


 陽翔くんが、奈々さんに感謝を述べていた。


 どうやら、陽葵さんがスマホを解放してくれたようだ。


「そ、れ、で、しきやん。一緒に、行く?」


 奈々さんが、返答を催促して来た。


「行きます。学校のプールとは言え、皆さんとプールに行けると思いませんでした」


 行く事にした。


 決して、女性陣の水着が楽しみなのではない。これは、後者で45%程だ。本質は、皆と楽しく遊びたいのだ。

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