70.合否報告

 羽衣の編入試験合格の通知を貰ってから、僕と陽葵さんは、一緒に帰っていた。


「羽衣ちゃん。合格かぁ〜〜私の後輩になるのかぁ〜〜」

「変なことしたら許しませんよ?」

「しないよ!」


 もちろん、陽葵さんが、他人が嫌がる事は、やらないと思う。


「制服とかは、先に、持ってこようか?」

「羽衣が、帰ってくるのが、8月に入ってからになるんですよね。サイズとかは、女の子同士でして欲しいので……」

「なら、詩季くんのお家借りれたらいいと思うよ?」

「でしたら、時間ある時に、持って来て貰えますか?」

「りょーかい!」


 この事は、事前に羽衣に伝えて「陽葵ちゃんが良ければ!」と言う下知を取っていた。


 初対面だったはずなのに、ちゃん呼びになっているのはあ、羽衣のコミュニケーション能力の高さが伺える。


「じゃ、明日持っていくね。学校帰りに、持っていくね」

「お願いしますね」

「羽衣ちゃんが、着る前に使っても――」

「――しばかれたいのですか?」


 直ぐに、僕をからかおうとしてくるのは、勘弁して欲しい所だ。






「陽葵さん、また、明日です」

「うん、またね!」


 家に着いたので、陽葵さんと別れる。


 本当なら、陽葵さんを僕が送って行かないといけないが、それが出来ず申し訳無い。


「ただいま」

「「おかえり」」


 リビングに入ると、祖父母が出迎えてくれた。


「羽衣ちゃんの編入試験どうだった?」

「余裕の合格でしたよ」

「なら、羽衣ちゃんに早く伝えてあげないとね!」

「催促のメッセージが沢山来てますよ」


 僕は、スマホの通知画面を祖父母に見せる。


『ねぇ〜〜合否まだ?』 ×124


「あらぁ〜〜羽衣ちゃん。本当に、気になってるんだねぇ〜〜」


 静ばぁは、こう言っているが、文面が変わればある種怖い話になっている。


 僕は、自室に移動すると、羽衣に電話をかけた。


 こんなに、頻繁にメッセージを寄越すという事は、常にスマホと睨めっこしている証拠だ。

 今、大丈夫なんて、確認を取らなくてもいいだろう。


 おかしいな。


 時間が経てど、電話に出ない。


『あぁ〜〜もしもし、詩季にぃさん?』

「……」

『詩季にぃさん?羽衣だよ?』

「やっと、出ましたか。何していたんですか?」

『トイレ行ってたのさぁ!タイミング悪すぎだよ!一言、確認してよ!』

「だって、あんなにメッセージ送って来ていたので、暇なのかと」

『私だって暇じゃないよ!』


 どうやら、羽衣の逆鱗に触れてしまったようだ。


 だけど、こっちだって、ひっきりなしにメッセージを送られて、少し怖かったのだ。


「僕だって、暇じゃ無いのに、沢山メッセージ送って来ましたよね?」

『それは、ごめん』


 イギリスに居るからなのか、日本のようにふざけてはいない。


「近くに、母さんはいますか?」

『うん。居るよ!』


 それから、少しすると、物音がしてから母さんが電話越しに話してきた。


『詩季?』

「はい。母さん」

『よかった……』


 母さんは、何か不安を感じていたようだが、吹っ切れたようだ。


 それは、それとして、本題に入らないといけない。


「羽衣の編入試験だけど……」

『待ってましたぁ!』


 羽衣の声がうるさすぎるので、スピーカフォンにして机の上に置いた。


『ねぇ、詩季にぃさん?早く、結果教えてよ。新手の放置プレイは、やめてよ!』


 どうやら、スピーカフォンにする作業の間すら待てないようだ。なら、前回の帰国時の仕返しも出来るだろう。


「羽衣の声がうるさいから、スピーカフォンにしていただけですよ」

『うなぁ~~可愛い妹の声が。うるさいだと!』


 本当に、簡単に挑発に乗って来るな。


 簡単に、話を逸らすことが出来たでは無いか。


『羽衣、結果について聞くんじゃないの?』

『あぁ~~そうだった、それで?』


 母さんが、軌道修正したお陰で、話がもとに戻ってきた。


「……合格だよ。先生も、余裕で合格点超えていたって言ってたよ」

『わぁ~~い!9月から詩季にぃと同じ学校だぁ~~』


 羽衣は、電話越しで物凄い嬉しそうにしている。母さんも近くで「おめでと」と言っていた。


「母さん。近々、編入に関する書類をそっちに送るから記入して帰国の際に持って帰ってきてください」

『期限とかは?』

「事情も考慮して8月末まで待ってもらえるみたいですが、不測の事態があった場合は、すみやかに連絡お願いします」

『わかった』

「それで、羽衣。中等部の制服の件だけど」


 羽衣にも事前に話していたので、細かい事は省いて話す。


「陽葵さんのをお借り出来る事になりました」

『おぉ~~詩季にぃ、私が着る前に使ってもいいけど――』

「――羽衣、それ以上言ったら帰国後、一緒に暮らす事、認めないからね?」

『あわわ、ごめんなさいぃ~~』


 羽衣が、即効で白旗をあげた時、向こうの家の扉があく音がした。


 どうやら、父親が帰って来たようだ。母さんが、相手をしていた。


『詩季にぃさん。8月の中旬位に帰国する事になりそうです』


 羽衣の口調も、硬くなっていた。


 これだけでも、羽衣と父親の関係が冷えっ切っているのだろう。


「わかりました。羽衣の帰国を待っていますね」


 そう言って、羽衣との通話を切った。


 遠目に聞こえた、両親の会話を聞くに、向こうでの仕事が、上手くいかなくなっているようだ。


 母さんは、会社を辞職する事になったので、向こうでは、仕事をしていないようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る