69.新旧担任
私は、
私立桜宮学院の中等部で、教師として働いている。
3年前に、この学校に新卒として赴任してから教師としての道を歩み出した。
想像していた以上に、教師としての仕事は大変で難しかった。だけど、それ以上に楽しかった。
私は、この学校の卒業生だ。そして、中等部時代に憧れた先生が居た。私は、そんな大人になりたいと思い教師になった。
赴任して最初に所属した学年団に、憧れの先生は居た。
私は、その先生が受け持つことになったクラス含めて2つのクラスの副担任として、国語科の教員として憧れの先生と2年間頑張った。
憧れの先生は、受け持っている学年団が3年生になるタイミングで産休に入る事になった。つまりは、憧れの先生が受け持っていたクラスの担任の座が空くという事だ。
学年団には、その年に卒業した学年団から1人のベテラン教諭が入る事になり、クラス担任もその先生が務めるものだと思った。
しかし、空いたクラス担任には、私が就く事になった。もちろん、私の経験値も考慮されたクラス配置になった。
私がクラス担任を受け持つ事になったのは、憧れの先生からの推薦があったからのようだ。
初めてのクラス担任に、学年団の国語の授業をメインで受け持つというのは、かなり大変だった。
5クラス分の国語の授業の進み具合もそうだが、高等部に上がった時のために困らないような学力を身に付けさせないといけない。
授業準備だけでも大変だったが、それと並行してクラス運営もしないといけない。教師の仕事の責任の大きさを実感できた。
クラス運営に関しては、副担任となったベテラン教諭のサポートもあって円滑に回せていた。
と思っていた。
状況が変わったのは、クラスに所属する白村詩季くんが、交通事故に遭い長期間入院する事になってからだ。
2学期が始まってから、クラスの空気が淀んでいた。私は、原因を追究しようと思ったが出来ず、ベテラン教諭の指摘で、気が付いた。
白村くんが常に一緒に居た、石川くん・岡さん・高梨さんとクラスメイト間の空気が悪くなっていた。これまでは、白村くんが、その間を取り持っていたから上手く回っていたが、その生徒が居なくなった事で、回らなくなったこと。
私のキャパは、完全にオーバーしてしまった。
クラスの空気を保つ事や授業準備に精一杯で、白村くんの事は、副担任のベテラン教諭や他の先生に任せっきりになってしまった。
白村くんに、何もできないまま、彼は、中等部から高等部に上がって行った。
そして、今日。
彼は、妹さんの中等部編入試験の結果を受け取りに来た。
久しぶりに会った彼は、事故の影響もあって、かなり変わっていたが、表情は、中等部時代より明るくなっていた。
妹さんの編入に関して話している間も一緒に来ていて、彼のサポートをしいている西原さんと楽しそうに話していた。
彼女が、白村くんを変えた一因なのだと解った。
2人が、帰った後、私は、教員用の駐車場に向かった。
「お疲れ様です。守谷先生」
「涼森先生こそ」
守谷先生は、高等部の教員で、白村くんの現担任の先生だ。
中等部から高等部に生徒の情報を共有する際に話してから何度か食事を共にしている。
今日も食事の約束をしていた。
私の車に乗り込み(守谷先生は、免許はあるが電車通勤)予約しているご飯屋さんに移動する。
私の中で、教師陣と食事を共にする上で1つ、ルールを設けている。それは、生徒が居ない事を確認する事だ。
「守谷先生、何時もの所で良いですか?」
「よろしくお願いします」
ご飯屋さんに入り、生徒が居ない事を確認して個室に案内してもらう。
「今日、白村くんと久しぶりに話せました」
「中等部時代と比べてどうでしたか?」
「大分、明るくなっていました」
守谷先生は、白村くんの事に関して情報を共有していた。
1人の生徒だけを気にするのは、教員としては良くない事だが、中学3年の時、担任でありながら彼のサポートを出来なかった心残りがあった。
「やっぱり、涼森先生の報告通り、あいつは、無自覚に自分を下げる癖がありますね」
「石川くん達ですか?」
「その辺は、涼森先生の方が詳しいと思います。でも、今は、西原兄妹を中心として新たな交流関係を広げていますよ」
やっぱり、西原さんと仲良くなってから彼は、変わったのか。
「白村は、文化祭で石川達との関係を清算したみたいですよ」
「そうですか。そっち方面に進みましたか」
確かに、ベテラン教諭に指摘されてから白村くんと石川くん達の関係を振り返ってみたら、お世辞にも良いものと言えなかった。
これは、気が付けず放置してしまった、私たち教員の責任だ。
「責任感じていますね。でも、生徒は、時折、凄い成長を見せますよね。白村がいい例ですよ」
「本当に、白村くんに救われたと思います」
これが、生徒に助けられるという感覚か。憧れの先生も言っていた。
生徒に助けられると言うのは、嬉しいと危機が紙一重だと。
私も同じ感情を覚えている。
むしろ、生徒に助けられたと思った時は、自分の仕事がダメだった証拠だから反省しないといけないと言われた。
「本当に、この学校で先生を務めるのは難しいよ」
「同じく」
私と守谷先生は、歳が近い。
そのため、中等部と高等部の違いはあるが、同じ悩みや苦労を味わう事がある。
その時は、日程が合えば食事をして話し合いをしている。
この学校での教職は、難しい。
と言うか、教職自体が難しいお仕事なのだ。昨今、成手が減っているのも大分、やばい問題だと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます