68.編入試験の結果

「さて、羽衣さんの合否だけども」

「もちろん、合格ですよね。羽衣は、可愛い上に勉強も天才的に出来ますから」

「白村くん。妹さんを溺愛しているのね」


 涼森先生は、どこかドン引きしている様子だ。


 何故だろうか、可愛い妹を自慢する兄の何処かおかしい所でもあっただろうか。


「と言うか、合否伝えたいから。少し、落ち着こうね」

「はぁ〜い」


 涼森先生から、合否の入った封筒を受け取った。


 僕は、封筒から中身を確認する。


『白村羽衣。貴殿を、本校への編入を許可する』


 この文言を見た、僕は、涼森先生に対して自分が出来る最大限のドヤ顔を向けた。


「おぉ、白村くん。凄いドヤ顔だね」

「羽衣、天才でしょう!」

「まぁ、イギリスで通っていた学校見たら余程の事が無い限り合格だと思っていたけどね」


 ひとまずは、羽衣は、合格した。


 イギリスの名門校に通っているのだ。落ちたのなれば、白村家(主に、詩季)が、大慌て間違い無しなのだ。


「じゃ、編入までの流れについて話すね」


 涼森先生は、続いて編入に関する書類を封筒で手渡してきた。


「編入に関する書類の提出期限ですが、白村くんのご家庭の事情も考慮して8月一杯まで待ちます。何かあれば、直ぐに連絡してください」

「母親が、イギリスに居ますので、一度イギリスまで書類を郵送する事になりますので時間は少々掛かるかと思います」


 僕は、起こりうる不測の事態を涼森先生に伝えた。


 編入に関する書類は、一度イギリスに郵送して向こうで確認記入後、羽衣と母さんが帰国するタイミングで持って帰ってきて貰う事になる。


 編入に関する書類を持ってくるのは、母さんになる事も伝えた。


 涼森先生もメモを取り、気になった点は、質問してきた。


 難しいことに関しては、母さんが来たタイミングで聞いて欲しいと逃げている。


「それで、中等部の制服の件なんだけど。新しく買うにしても採寸しないといけないし……」


 制服の事になった。


 羽衣が、中等部として通うのは、2学期と3学期だけだ。


 だから、新たに買うにしてもかなり痛い出費になるだろう。


「その件なんですけど……」


  僕は、スマホを操作しておばさんとのトーク画面を陽葵さんに見せる。


「おばさんからは、許可を貰ってて、後は、陽葵さんなんです」


 僕は、陽葵さんにお願いしたい事があった。だけど、それは、男性から女性だと躊躇する部分があったので、外堀を埋める形でおばさんから許可を貰った。


「陽葵さんが、使っていた中等部の制服と体操服を羽衣に貸して頂けませんか?」

「うん?全然いいよ」

「…………?」

「何さぁ、詩季くん」


 すんなりと陽葵さんが、了承すると思っていなかったので、僕は、頭を傾けた。


「いや、陽葵さんにかなりからかわれる事は、覚悟していたので……」

「私だって、内容は選ぶよ?!」


 僕と陽葵さんのやり取りを見ていた、涼森先生は、微笑ましく見ていた。


「とにかく、使っていいよ!」

「ありがとうございます。涼森先生、そういう事ですので、体操服に関しては、学年色が違いますが……」

「仕方がないね。半年程度のために新たに買うのもアレだろうし。特例で認めるよ。白村くんも高等部で頑張っているみたいだし!」


 どうやら、僕の所属していた学年団だった先生内で、噂になっているようだ。


「私たちね、白村くんが本気を出さない理由を探っていたんだよ。それが、高等部になってから本気出しているみたいだし、何か、吹っ切れたんだね」

「そうとも言えますね」


 そりゃ、先生方にはバレているか。瑛太くんに、気が付かれていたのだから。


 すると、涼森先生は、僕の頭を撫でて来た。


「何するんですか?」

「口調は、敬語だけどさ。白村くんが明るくなったのが嬉しんだよ。私は、君の担任として何もしてあげられなかったからね。私に、もっと余裕があれば良かったんだけど」


 涼森先生は、若い先生だ。


 僕が中等部1年の時に、新卒で赴任して1年2年と副担任として関わり、一人の先生が産休に入った事で、担任に抜擢されていた。


 守谷先生が初担任を持ったクラスの生徒だったのだ。


「いえ、守谷先生への引継ぎをしっかりして頂いたお陰で、何の不自由なく高等部の生活に入れています。これは、涼森先生のお陰です。ありがとうございます」

「それは、教師として当たり前の仕事をしただけなんだけどなぁ~~でも、生徒に感謝されるのは、嬉しいね」


 涼森先生は、何処か照れ臭そうだ。


「西原さんも白村くんと仲良くしているんですね。常に一緒に居るんでしょう?」


 何やら、涼森先生は、高等部の事情に精通しているように感じる。


 僕と陽葵さんが、ニコイチのように行動している事を知っているようだ。


「はい。詩季くんとは、今は、大切なお友達なので。一緒に居ます」

「何か、含みを持った言い方だね」

「そりゃ~~持ってますとも」

「公に言っても良いのかな?」

「安心してくださいな。詩季くんの鈍感さはここまでしても気が付かないのですから!」


 何やら、陽葵さんにバカにされているように感じるので、手刀の構えでもしておこうと思うが、陽葵さんが楽しそうな表情になっているのでいいか。


「編入に関しては、以上ですか?」

「そうだね。今日は、久しぶりに白村くんとお話出来て嬉しかったよ」

「僕もです。遅くなりましたが、中等部では、3年間。特に、3年生の時はお世話になりました」


 これは、中高一貫校の良い所かもしてない。


 言えていなかった、お礼の言葉を言って、涼森先生と別れて陽葵さんと共に帰路に就く。

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