67.懐かしい

 高等部と中等部の校舎は、『交流会館』という建物を隔てて別れている。


 『交流会館』で、生徒に関わる施設と言えば、食堂だ。食堂に関しては、中等部と高等部で同じところを利用するので、自然と中等部と高等部の生徒の交流の場になっている。


 一般生徒なら食堂だが、一部の生徒において、この『交流会館』という建物は、特別な物だ。


 それは、生徒会だ。


 ここには、中等部と高等部のそれぞれの生徒会室がある。


 僕も中等部時代は、生徒会に入っていたので、ここに良く来ていた。まぁ、幼馴染に言われて入っていたのだけど。そして、生徒会任期の最後は、入院していて仕事はしてないんだけど。


 この前、中等部の生徒会の記録を見たら途中で解任されていた。


 まぁ、残りの任期が少なかったので、問題が起こる事はなかったのだろう。


 今日は、ここには用事が無いので、前を通り過ぎて、中等部の校舎に入る。


 本当に久しぶりだ。


 中等部3年の2学期からは事故の影響によって長期の入院生活を送っていて、中等部から高等部に上がる際に必要なテストを受けに来た1回しか来ていなかった。


「懐かしいですね」

「詩季くんは、そうだよね。中学3年の後半は、殆ど通えなかったもんね」

「ここでの最後の思い出は、陽葵さんにスカートの中の体操ズボン見せられた事ですよ……ある種の黒歴史ですね」


 最後に来たのが、テストを受けに来たことで、唯一あったイベントとしては、陽葵さんにスカートの中の体操ズボン見せられた事だけなのだ。


「黒歴史ってぇ~~詩季くんガン見してきたじゃん?」

「僕だって思春期の男の子ですよ。同い年の女の子が、目の前でスカート捲ったら見てしまいますよ」

「むっつりスケベェ~~」


 あぁ言えば、こう言う。


 陽葵さんに揶揄われないように、選択したつもりが、これも揶揄われた。


 羽衣に似ていると思うが、揶揄いに関しては陽葵さんの方が強い……いや、同じ位か。


「でも、そん時とは違うのだぁ~~」


 バシッ!


 僕は、陽葵さんに手刀を喰らわした。もちろん、羽衣にするように優しく手加減をした。


「イタァ!詩季くん、なんでぇ!?」

「だから、僕の前でスカート捲って中見せようとしないで下さい!一応、学校ですよ」

「二人きりの場所ならいいんだぁ~~」


 陽葵さんは、こう言えばこう言う状態だ。


 取り敢えず、スカートを捲る事は防いだ。それだけでも大成功だろう。


「もう、職員室に行きましょう」

「あぁ~~逃げるんだぁ~~」

「うるさいですよ。明日、陽翔くんにチクりますよ?」

「卑怯な逃げ方するなよぉ~~陽翔は、ズルいよ!」


 逃げるが勝ちとも言うし、逃げて何が悪いと言うのか。


 懐かしい校舎を歩き、中等部の職員室まで歩いて行き、扉をノックする。


 コン♪コン♪コン♪


「はぁ~い」


 学校の職員室に入るには、学校ごとのルールがある。この学校の場合は、ノックをして中から返事があったら入って用件を伝える」


「失礼します。高等部1年1組の白村詩季です。白村羽衣の編入試験の結果を受け取りに来ました」

「「「白村!!!」」」


 僕が、名乗ると数人の先生が近くに寄って来た。


 顔を確認すると、中等部1年の頃から中等部3年まで持ち上がりで学年団に所属していた先生方だ。


「久しぶりだなぁ~~高等部から復帰したと聞いていたが、元気そうで良かったよ」

「本当に、事故に遭って入院したって聞いた時は、皆、心配してたんだから!」


 入院中に病室で受けたテストや1回学校に来て受けたテストに関しては、学年団以外の先生が担当していた。中等部3年という忙しい時期も重なりお見舞いに行きたくても行けなかったようだ。


「お久しぶりですね。先生方」

「おっ、西原も久しぶりだな」

「先生方も元気そうですね」


 陽葵さんにも先生方が集まっていた。


「先生方、少し落ち着きましょう」

「「「すっすみません……」」」


 1人の若い女性の先生の呼び掛けに、僕たちの周りに集まっていた先生方は、一歩下がった。


「お久しぶりです。涼森先生」


 涼森春菜すずもりはるな中等部3年の時の担任の先生だ。


「白村羽衣さんの編入試験の結果だね。場所を変えて話をしたいと思う」


 羽衣の事だから落ちる事はない。


 涼森先生の後ろをついて行き、話し合いが行われる部屋に移動する。


「涼森先生、今は、進路指導部になったんですね」

「うん。今年は、クラス担当になれなかったよぉ~~」


 人一倍クラス担任で、生徒と関わる事を望んでいた涼森先生からしたら、少し納得出来ていない部分もあるのか?


「でもねぇ、進路指導部は色んな子ども達と関われるから、ここにはここの良い所があるよ。お陰で、白村くんの妹さんと関われた訳だからね。お母さまにも久しぶりに会ったよ」

「可愛いでしょう。羽衣は」

「妹さんを大事にしているんだね」

「もちろんです」


 雑談に華を咲かせながら、案内されたのは、涼森先生の今の働き場所である中等部の進路指導室だ。


「白村は、向こう側に座って。西原は、どうする?」

「陽葵さんも同席して貰います」

「OK」


 陽葵さんも同席した事で、羽衣の編入試験結果の話し合いが始まった。

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