63.両家顔合わせ

「旦那も話し合いの場に参加させていただきます」

「はい、わかりました」


 車を発進させた、おばさんからそう告げられた。


 僕と母親が隣同士で座って、陽葵さんと陽翔くんが、後ろで並んで座っている。


「詩季、聞いてたよね」

「そうですね」

「詳しいことは――」

「いつかは、話して欲しいですけど、今は、羽衣の日本への帰国に集中してください。その間に、情報を整理して話してくれたらで、いいですよ」

「相変わらず、羽衣には、甘いね」


 母親は、僕の頭を撫でてきた。


 以前なら、嫌がって避けていただろうが、今は、嫌という感情は湧いてこない。


「あ、ごめんね」


 母親は、手を引っ込めた。


 恐らく、急に距離を詰めた事を気にしたのだろう。


「別に、嫌では無かったですよ」

「良かった」


 母親は、ホッとした表情になった。


 やはり、僕からの完全な拒絶を恐れているように思う。

 4月に面と向かって会った際に、「母親として見れない」と言ったのが、かなり効いているみたいだ。


 今、少し【後悔】という感情が湧いてきている。


「こっちで、何があったかは、本当に羽衣の帰国が落ち着いてからでいいの?」

「はい。僕も混乱しているので。出来れば、僕の整理が着くまでは、待って欲しいです」

「うん。それは、待つよ」


 今日は、色んな事が目まぐるしく動いた。


 幼馴染達のグループから完全な離脱を、親の会社への就職というレールからも離脱した。

 そこに、母親と幼馴染の両親のやり取りだ。


 いくら、天才の僕でも頭の整理が追いつかない。


「それより、かっこよかったですよ。自分の意見をしっかりと話す姿」

「そりゃ、詩季と仲直りしたいからね」

「そうですか。まぁ、僕ばっかり受け身も嫌なので、今は、これだけで勘弁してください。母さん」


 何ともチョロいんだと思う。


 4月に、母親として見れないと宣言しておきながら、あの一幕を見て母親を母さんと呼べた。


 羽衣の時と同じような感覚だ。


「――詩季!」


 母さんが、抱きつこうとしてくるが、それは、ガードする。


 流石に、そこまではまだ無理だ。


「母さん、落ち着いてください」

「ごめんね。母さんっ言ってくれたのが嬉しくてつい……。少しずつだからね」


 母さんのこう言う所は、羽衣に引き継がれているように思う。


 車を走らせると、家に到着した。


「陽翔と陽葵もお邪魔しな。静子さんには、話してあるから」


 先に、家に入った僕と母さんに続いて、陽葵さんと陽翔くんが家に入ってきた。


 おじさんは、既に到着していたようだ。おばさんは、車を家の駐車場に停めて入ってきた。


「じゃ、陽菜ちゃん。お母さん達は大事なお話するからこってこようね」


 陽菜ちゃんは、祖父母と共に、2回に上がって行った。


「詩季にぃ、おかえりぃ〜〜」


 羽衣もこっちに来ていたようだ。



 陽葵 おじさん おばさん 陽翔


      [テーブル]


   僕  母さん  羽衣


 テーブル越しに向かい合って、白村家と西原家が座る。


「改めまして、陽葵と陽翔の母の西原桜にしはらさくらと言います。旦那は、政伸まさのぶともうします。詩季くんには、大変お世話になっております」


「ご丁寧にありがとうございます。私は、詩季の母親の白村しずかと申します。こちらこそ、詩季が、いつもお世話になっております」


 親たちは挨拶を終えた。


 見ものは、どっちが先に口を開くかだが、先に口を開いたのはおばさんだった。


「先ほど、静子さんたちと2階に行った子は、陽菜と言います。陽菜がボールを追いかけて車道に飛び出して、車に轢かれそうになった時に、詩季くんが助けてくれました」


 おばさんが、母さんに僕が遭った事故の事を話した。


 母さんは、羽衣からの又聞きでしか僕が遭った事故の内容を聞いていなかったようで、真剣な表情で聞いていた。


「詩季くんが、陽菜を助けてくれたお陰で……陽菜は元気に過ごせています。だけど、その代償として詩季くんは、右足の自由を失いました。まずは、陽菜を助けて頂いたことに対しての感謝を言わせてください。ありがとうございました」


 西原家の皆は、頭を下げた。


 いつもハイテンションな陽葵さんが頭を下げているのは、想像出来ないので、空気が緩い場面ならお腹を抱えて爆笑しているだろうが、今は、堪える。


「そして、陽菜のせいで詩季くんの自由を奪ってしまい申し訳ございません」


 再度、西原家の皆は、頭を下げた。


「顔を上げて下さい。私としましては、息子が人助けをしたと言うのは、誇らしい事です。それに、感謝をするべきは私の方です。本来なら、詩季の家族である私達が、サポートしないといけなかった。詩季のサポートをして頂きありがとうございます」


 今度は、母さんが頭を下げた。


「いぇいぇ、私どもとしては、陽菜を助けてくれた恩に報いているだけですので……」

「おばさん。僕の入院費を出して頂いた事で、僕としては、十分恩返しして貰いましたよ。逆に、僕がどこかで恩返ししたい位には、よくして貰っています」

「詩季くん。私たちにとってはね、大事な子どもを助けてくれた事でね、返すに返せない恩を感じているんだよ。病室では、恩を返すために補償って言葉使っちゃったけど」


 上手いな。


 多分、僕が目覚める前に祖父母と話していて、僕に恩を返すために『補償』という言葉を使って納得させたのか。

 僕なら、恩返しと言われれば、普通に遠慮していただろう。


 やはり、大人には敵わない部分がまだあるな。


「私からお願いしたい事があります」


 母さんが、頭を下げていた。


「私は、詩季の妹の羽衣の日本への帰国と一緒に帰国する予定です。本来ならそこからは、私が詩季のサポートをしないといけないです。しかし、私の行いのせいで、家族としては崩壊してしまっています」


 母さんは、白村家としての現状を話し出した。


「私は、詩季との親子としての関係性の再構築が、第一にあってサポート処ではないんです。今後も、詩季のサポートお願いできませんか?」


 母さんは、再度、頭を下げていた。


「いぇいぇ、詩季くんのサポートは、陽葵が独占しているので」

「ちょっと、お母さん!」

「いいじゃん?サポートの名目で、詩季くんと一緒に居る時間増やしているんだし?」

「詩季くんの目の前で言わないでぇ~~」

「うふふ」


 母さんは、目の前の親子漫才を見て笑っていた。


「どうしたんですか?」

「詩季が、陽葵ちゃんに心開いた理由がわかりました」

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