59.離脱
教室に入っていくと、石川くんが、彼の両親と向かい合って座っていた。
その後方に、高梨さんと岡さんの両親が立っていた。
僕が、教室に入ると同時に高梨さんと岡さんも一緒に入ってきた。
「お久しぶりですね。白村詩季です」
僕は、改めて自己紹介をする。すると、懐かしい顔を見たかのように嬉しそうな表情になっていた。
高梨さんの父親を除いては。
「おぉ〜〜詩季くん。久しぶりだなぁ〜〜」
石川くんの父親が、近づいてきて握手を求めてきたが、僕は、それを拒否する。
「どうしたんだ、詩季くん?」
拒否されるとは思っていなかったようで、石川父は、驚いている。
「これ、許可取ってますか?」
「きょ、許可とは?」
僕の問い掛けに、石川父は、あたふたしている。
「ここは、学校施設です。僕達生徒が使う分には問題ありませんが、貴方たち、保護者が使う分には学校側に許可をとる必要があるはずです。それに、文化祭は、もう終わっています。だけど、あなた達は、校舎にいる」
生徒の保護者であっても来校する際には、学校側にアポイントを取るべきだ。
学校行事等で、入る事が許されていても行事が終了した後も校舎に残りたいなら何かしらのアポイントを取るべきだ。
「何の許可も取らずに、校舎に残っているならそれは、違法行為になると思いますが、担任の守谷に許可は取っていますか?」
石川父は、顔を下げた。
やはりか。
僕は、放課後に石川くん達と話したいと思い守谷先生に許可を取っていた。
だから、石川くん達が話していても守谷先生は、教室に寄り付かなかったのだ。
許可をとる時に、こういったことの許可を出しているなんて話は無かったので、もしやと思い聞いてみたが、黒なようだ。
「陽翔くん、守谷先生を呼んできてください。流石に、これは報告しないといけません」
僕の両親の入校証の1件しかりだ。これを黙って見逃せば、僕も警告を受けかねない。
ともあれ、僕は、この人たちに訂正しなければいけない事が山ほどある。
これを機に、この関係性も精査しないといけないだろう。
「それに、幾分か、訂正しないといけない所があります」
「な、何かな?」
冷静を装っているが、内心は動揺しているのだろう。
その人に現れる特有の表情をしていた。
「これだけ言えば、石川くんが嘘を言っていたのが分かりすよね」
石川くんが、父親にどういう説明をしていたかは、2人の話し合いを聞いていればある程度分かる。
そして、この事を言えば全ての歯車が、噛み合わなくなるか一目瞭然だ。
「僕は、石川くんを初めとする3人とは、和解していませんよ」
この一言で、ある程度の事情を察していたが、僕は続けて説明する。
そして、僕は、証拠として正副委員長を決める際に、僕と春乃さん(名前は伏せる)が対立候補になって、石川くんが負けたこと。
文化祭に関しては、文化委員の2人の指示が上手くいかなくてクラスが崩壊した事。
そして、クラスが崩壊した後に、僕が変わって指揮を取ってここまで立て直した事を話した。
これらの説明で、この場にいる大人陣は、表面的な事に気がついた。
そう。
自分の子供たちが、嘘をついていた事を。
「どういう事だ?」
「すみません」
「本当に、何度期待を裏切ったら気が済むんだ。嘘もついて」
可哀想だと思う。
彼は、常に父親からの強い期待と結果を求められてきた。
そこに関しては、強い同情を持てる。しかし、その同情を持てなくなるキッカケはあったのだ。
すると、石川父は、僕の方に歩み寄ってきた。
「詩季くん。やっぱり、君の実力は凄いものだよ。君が、居ないとうちのバカ息子は、何も出来やしない」
僕は、本能的に心の中で身を守る体勢を取る。
何となくこういう時の話は、自分にとって表面的にはいい話でも、内面的にはマイナス方向な話が多いのが定番だ。
「詩季くんに、私達の会社の次期社長になってもらいたい」
「拒否します」
僕は、即答で拒否をした。
まさか、拒否されるとは思っていなかった石川父は、驚いていた。
「な、何でかな?」
「社長の座に興味が無いからです」
「なら、副社長でもいい。大海を形だけの社長にして――」
「拒否します」
社長の次は、副社長を打診されたが拒否する。
確かに、中等部時代は、僕も親が設立した会社で働く前提だった。だから、幼馴染達と行動を共にして、将来のために動いていた。
「な、何でなんだ。詩季くんも将来は、僕らの会社に――」
「僕、貴方たちの会社に就職しませんよ」
これまた石川父は予想していなかったようで、言葉になっていないようだ。
「り、理由は――」
「別に、僕の人生なので、僕が決めたって良いでしょう。僕たち子どもは、貴方たちの道具じゃないですよ。まぁ、納得してなさそうな表情なので、1つだけ理由は、話しておきましょう」
僕の人生は、僕のものだ。
だから、親だろうと幼馴染で幼少期からお世話になった人あっても僕自身の人生に干渉して欲しくない。それは、幼馴染であっても陽葵さんたちでも同じだ。
「これまで、石川くんたちのお世話をしてきましたが、大人になってまでお世話したくないですね」
本音の理由を話した。
石川父は、気が動転したのか石川くんに掴み掛ろうとした所で石川母が止めに入っていたが、それと同時に、教室の扉が開かれた。
「おいおい、お前ら、また警告喰らいたいのか?」
守谷先生が、教室に到着した。
守谷先生は、かなりの呆れを見せていた。
4月から同じ生徒が何度も問題を起こせば、教員として呆れを見せても仕方が無い。
ただ、今回は、僕も僕で動いているので、変に巻き込まれても仕方が無い。
「守谷先生。これに関しても僕が事前に申請した内容にして貰えませんか?」
「……いいのか」
「一応、僕が絡んじゃっていますので」
「わかった。取り敢えず、石川くん、岡さん、高梨さんのご両親は付いて来てください」
守谷先生に連れられて両親たちは教室から後にして行った。
教室には、僕と西原兄妹と幼馴染達が残った。
「じゃ、僕たちは、僕たちの話し合いを始めましょうか。近くの席に座りましょう」
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