58.結果
「おぉ〜〜片付いたなぁ〜〜よし、帰っていいぞ」
文化祭のクラス展示会場の片付けを終えて、守谷先生からのチェックを終えて帰宅の許可が出た。
やりきった感を出しながらクラスメイトは、各々の仲のいい人と帰宅している。
打ち上げと行きたい所だが、昨今の時代背景もあってクラス団体での打ち上げは、禁止されている。
クラスメイトが、帰っていく中、石川くん達は浮かない顔を浮かべながら、教室の方向に向かって歩いて行っていた。
僕は、幼馴染達と少し話し合いをしたいと思っていたので、後を着いていく事にする。
出遅れる形にはなるが、陽葵さんと陽翔くんに声を掛けて事情を話して着いてきて貰う。
僕がケジメを付けたいだけなのに、巻き込んでしまって申し訳ない。
やはり、既に、距離は離されていた。
だけど、向かっている方向に目星は付いていたので教室に向かった。
「何なんだ、あの出来は、順調だと聞いていたが、どう言う事だ!」
教室から男性の怒鳴り声が聞こえていた。
そして、廊下には高梨さんと岡さんが立っていた。
本当に、何時までも変わっていないな。
一代で会社を立ち上げてイギリスに支社を作る計画をしているのだから経営陣の手腕は、凄い物だろう。だけど、同じ力を息子も持っていると思って貰いたくない。
「「――詩季!」」
高梨さんと岡さんは、僕に、気が付いたようだ。しかし、僕の隣に立っている陽葵さんを見つけると渋い表情になっていた。
僕も廊下側に立ち中の会話に耳を澄ませる。
「あの出来栄えは何だ。一見すると完成度の高い展示だが、展示物自体の完成度は、80%程度。ただ、100%に見せる技術を使って見せているだけ。お前には100%の出来に100%見せる事を求めていたんだがな」
「すみません」
「結果を残せと言っているのだよ。結果を」
僕が、石川くんを始めとする幼馴染達に甘かった理由がこれだ。
父親たちの会社は、社長が石川くんの父親で、副社長が高梨さんの父親なのだ。
そして、石川くんの父親は、社長の座を自身の息子である石川大海に継がせたいと考えていた。副社長には、僕を就かせたかったみたいだ。
必然のごとくと言っても良いだろう。中学校に上がってからは、彼への期待と言う名のプレシャーが降り注いでいた。
石川くんの父親は、石川くんに対して常に【結果】を求めるようになった。しかし、中学生の石川くんにとって、そのことはプレッシャーだったのだろう。
自分自身の結果を追い求めるあまり、僕たち以外との交流を後回しにしてしまった。その結果、中等部3年になる頃には、同級生たちとの交流は表面的なものになっていた。
「中等部までは、クラス委員長を務めたり生徒会長を務めたり結果を残していたのに、高等部に上がってからは何だ。短期間で警告2回貰うわ、委員長にはなれない。挽回すると言った文化祭でこのザマか?」
確かに、中等部時代から委員長や生徒会長を歴任して来た中で、高等部に上がったら、彼がこれまで積み上げて来た事が帰って来るかのように、警告を2回貰ったり、委員長・副委員長のどちらにもなれないなど、誰が見ても結果を残せていない。
中等部時代は、僕が、石川くんのクッション材になっていた。
彼が、無茶苦茶をやってクラスメイトに不満が溜まるタイミングで、クラスメイトと交流を図ってその場を繋げていたりした。
石川くんとクラスメイトが歯車だとするなら、僕はそれらの歯車が噛み合うための潤滑油的な役割をしていたのだ。
その潤滑油的存在が居なくなった歪な歯車と言うのは、クラスと言う歯車からはじき出される。
僕が、潤滑油として甘やかしたのも悪い所だ。
しかし、石川くんは、クラスメイトとのコミュニケーションを疎かにしてきた事が一つ目の失敗。そして、潤滑油的存在として頑張って来た僕を雑に扱って心を離させた事が、二つ目の失敗だ。
「それで、詩季くんとはしっかり協力してやっているんだよな?」
あれ?おかしいな。
高等部に上がってから、僕は、石川くんと距離を取っている。なのに、石川くんの父親は、僕と石川くんは今まで通りの関係に戻っているとでも思っているのだろうか。
「はい。あの後に、和解して色々と協力してます」
「何で、こんな出来なんだ?お前が、しっかりと指示出来てないからだろ?」
嘘ついているな。
石川くんは、僕と仲直りしたと父親に報告していたのだろう。
しかし、実情は残酷だ。
石川くんが委員長になれなかったのは、春乃さんと僕が正副委員長になった事で、それを阻止された。
しかも、文化祭に関しては文化委員と正副委員長として協力することなくクラスが崩壊するまで、静観をし続けた。
実質的に、僕と石川くんは対立関係にあるし、僕は、それを表面化してきた。
だけど、石川くんは、父親に対して体裁を整えるために、仲直りしたと〖【嘘】〗の報告したのだろう。
「ねぇ、詩季……」
岡さんが、何か期待を込めた視線を向けてくるが、僕からしたら知ったとこではない。
僕は、幼馴染達に対して1つのケジメを付けに来たのだ。
コン♪コン♪コン♪
「誰ですか?」
教室の扉をノックした。
教室の中からは、石川くんの母親の声がした。
一応、ここは、学校の教室で貴方たちの家では無い。私物化もいい所だと思う。
「失礼します」
僕は、教室の中に入っていった。
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