52.いもーと

「詩季にぃ、私が居なかった2カ月ちょっとの間、いい出会いあった?もしくは、去年とかに?」


 この妹は、本当に人の事を……いや、僕の事を良く見ているな。


「ありましたよ。新しいお友達が沢山出来たんです」

「へぇ〜〜それで、可愛い女の子とも仲良くなったんだってぇ〜〜?」


 祖父母の方を見ると、少し目線を逸らしたので、2人から聞いたのだろう。


 祖父母も久しぶりに、羽衣と話せた事が嬉しかったのだろう。


 ついつい、色んな事を話してしまったのだろう。


「そうだね、女の子も男の子も色んな人と友達になったよ」

「おぉ〜〜詩季にぃさん。日本で頑張ってて偉いのぉ〜〜妹は、嬉しゅ〜ぞぉ〜〜」


 羽衣の隣に座ったら、頭を撫でられた。


 何だか、羽衣が、僕の保護者みたいな感じになっていて少し複雑だ。


「そっちこそ、日本に帰って来るって言ってるけど、ボーイフレンドとは、どうすんの?」


 祖父母は、何か、驚いた表情と嬉しい表情を交互にして僕の方を向いていた。


 羽衣が、日本に帰ると決めた時に、遠距離が無理なら別れると言っていた、彼氏の事が気になった。


「遠距離になるよ。1回向こう戻ってから話して、私の決断を尊重するって」


 いい彼氏を持ったなぁとしみじみ思う。


 あった際には、いい男かを厳しく見るつもりだったが、そのレベルを1段階落としてもいいと思えた瞬間だった。


「まぁ、ケニーも日本について行こうとしてくれたけど、彼の両親ストップが掛かってね」


 ケニーとは、羽衣の彼氏の名前だ。


 いい人なんだろうな。そして、羽衣の事を本当に愛しているのだろうな。


 羽衣からは、同い歳の彼氏だと聞いていたので、流石に、中学3年生の息子を1人で遠く、しかも国外にまでは送り出せないだろう。


 羽衣からしたらホームだが、ケニーくんの家族側からしたらアウェーだ。


 例え、治安がいい日本という国でもだ。1部には、悪いことを考える人間もいる訳で。


「ごめんね。羽衣の恋路邪魔して」

「んな訳ねぇよ。私の1番は、詩季にぃなんだからぁ。詩季にぃと仲良く出来ない人とはセックスできねぇし、結婚なんて論外だぁ。縁を切るまである――って痛ぇぇ」


 僕は、羽衣に手刀を食らわした。先ほどの優しくではなく、少し力をいれた。理由としては、女の子が軽々しく口にしては行けないワードを発したからだ。


 健じぃは、飲んでいたお茶を吹き出してのぼせていた。


「何すんのさぁ、詩季にぃ!」

「女の子が、軽々しくセックスなんて単語発するじゃありません!それに、そこは、仲良く出来ないで良くない!?」

「いやぁ〜〜社会に出たら合わない人とも、表面上仲良くしないといけないじゃん?」

「確かに、そうかもだけど!」


 羽衣のハチャメチャは、以前からあったがイギリスに行ってからなのか、久しぶりに会ったことでのハイテンションかは、わからないが、ハチャメチャ具合が増している。


「安心しろぉ〜〜詩季のだんなぁ。私のガード固さは健在だよぉ」

「そうでないと、困るんだよ!?」

「いたたぁぁぁぁ」


 軽そうな言論を取っているが、羽衣の身持ちはかたい。そこは、信じている。


 僕は、羽衣の頭を優しくグリグリした。


「詩季にぃ、ギブアップ!ギブアップ!」

「参ったか!」

「参った、参ったぁ〜〜」


 羽衣は、大人しく降参の意思を示してきた。


「静ばぁ、どうしたの?」


 祖父母は、一緒に住み始めてから初めてと言ってもいい程に、安心しきった表情になっている。


「だって、詩季。事故にあってからずっと表情暗かったけど、羽衣と居ると以前のように明るいから嬉しくてね」


 以前の電話の時にも感じていたが、歳が近くて血の繋がりがあるからなのか、羽衣だと口調が柔らかくなってしまう。


「そりゃぁ~~私は、詩季にぃの精神安定剤なんでねぇ。私が、日本に帰ってきたら安心なのだ!」

「心強いわねぇ~~でも、超えてはいけない一線は、守りなさいね?」


 そこで、僕の目を見ないでくれますかね、詩季ばぁ。確かに、今の羽衣の言動的に、僕が自制心をもたないといけない所だが。


「安心してよぉ~~静ばぁ。法律が許さない壁は、超えませんてぇ~~まぁ、詩季にぃさんが望む――むぐぅぅ」


 僕は、羽衣の口を手で塞いだ。


「羽衣、少し落ち着こうかぁ~~?」

「もうぅ~~詩季にぃさん。だいったぁん」

「そうじゃない。これ以上は、健じぃがもたない」


 羽衣のハチャメチャは、今に始まった事ではないが、今日は、ある種のキャパオーバー気味で、健じぃが煽りを受けてしまっていて、魂が口から抜けそうになっていた。


「うむ、健じぃと静ばぁには長生きして貰わないと困るからねぇ~~ここまでとしますか」


 羽衣の暴走がやっと止まった。


 羽衣の暴走を見ていると、陽葵さんの暴走が可愛い物に見える。


 と言うか、羽衣+陽葵さんのダブルコンボは、僕の精神が危うい気がする。その場合は、陽翔くんに陽葵さんのストッパーをお願いしないといけないかもしれない。


 おっと、それとは別に片付けないといけない事もあった。


「それで、羽衣。来ているのでしょう」

「……嘘に気づいてたかぁ。口調も戻ってるし。まぁ、詩季にぃさんが、帰って来たタイミングでトイレに行ったからなぁ~~母さん、入ってきなよ」


 羽衣に呼ばれて、リビングの扉が開けられて、母親が入って来た。


「……久しぶり、詩季。元気にしてた?」


 母親は、空いていた席に腰かけた。

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