51.完成
「終わったァァァァァァァ!」
「「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」
瑛太くんが、最初に声をあげる。そして、それに、釣られるように、クラスの一部の男子も声をあげた。
この木曜日までは、午後の2コマ分の授業時間から始まり下校時間のギリギリまでを使って、展示物が完成した。
本当に、クラスメイトには、無理を強いたと思う。だけど、皆のおかげで見せられる展示が出来上がったと思う。
「皆さん、元気ですね」
「そりゃ、この4日間は、皆、死に物狂いで頑張ってたから、仕方ないよ。ある種のハイ状態なんじゃないかな?」
「それは、大丈夫なんですか。そして、陽葵さんもお疲れ様です」
クラス内は、それぞれのグループで展示物の完成を称えあっている。
本当に、ギリギリ間に合った。
最悪、明日の朝までは見ていたので、本当に頑張ってくれた。
「白村、少しいいか」
守谷先生から呼ばれたので、陽葵さんを伴って教室に移動する。
皆、展示会場の方に荷物を持って居るので、教室は無人だ。
「空いている席に座ってくれ」
僕が座った席の向かい側に、守谷先生が座った。陽葵さんは、教室前で待機している。
「これ、白村が申請していた入校証だ――」
「――僕だけ、この場での受け渡しは、申請者の中にある母親の事ですよね」
「解っていたか」
「当然です」
解り切って来た事だ。羽衣に頼まれて、羽衣と母親の入校証を申請した時点で、面談が組まれる事は。
「他人の入校証を使った一件があり、学校内では要注意人物の1人になっている。一応、今回は入校証を発行するけど、大丈夫だろうな」
「はい。前回は、父親が暴走しましたけど、今回は母親だけですので大丈夫かと思います。何か、問題を起こせば、僕に問答無用で警告を出してください」
僕は、入校証をカバンに入れながら守谷先生に頭を下げる。
「白村の覚悟は、解った。だけど、警告は出せないな。あくまで、生徒自身がやらかした時に出すものだからな。……もし、文化祭で白村のお母様が、何か問題行動を起こしたら警察を呼ぶことになる」
「解りました。そのように伝えます」
今回、入校証の発行には、運営部で少しばかり議論になったようだ。
前回は、人目が少ない中だったので良かったが、今回は人が集まるのだ。そこで、問題を起こされてしまえば、学校として印象ダウンは、避けられない。
学校側の判断としては、本校に在籍している生徒の親族だという事で、今回は許可を出すことにしたそうだ。
学校側の配慮には、感謝だ。
「話は、終わり。好きにしていいぞ。あっ、クラスの何人か職員室に向かわせてくれ。準備頑張ったご褒美だ。内緒だぞ」
僕は、陽葵さんと合流して展示会場に戻って、3人程を職員室に向かって貰った。
守谷先生からは、お高いメーカーのアイスをクラス分差し入れてくれた。クラス中、準備の疲れもあり各々食べていた。
僕は、ストロベリー味を選択して椅子に腰かけて食べる。
「ねぇ、詩季くん」
「何ですか、陽葵さん」
「学外の文化祭の日ね、6人で回る予定だけど、どこかで2人で回らない?」
陽葵さんから2人で文化祭を回らないかと誘われた。
学外の文化祭の日は、詩季くん同好会!メンバーで回る事を約束していた。
「皆は、どう思って――」
「「「「――いいよ」」」」
どうやら、外堀は埋められていたのか、今の話を聞いて即座に反応して来たのか4人を観察してみる。4人は、なにやら甘い?視線を向けている気もする。
「では、回りましょうか」
「うん!」
金曜になり、文化祭の学内の部の日だ。今日は、体育館で2年生の舞台を鑑賞する日だ。2年生の舞台を見終えると今日は、下校になる。
「詩季くん。緊張してるの?」
陽葵さんが、教室で座っている僕の背中を摩ってくれている。
陽翔くんも隣に座っている。
春乃さん達は、既に帰宅している。陽葵さんと陽翔くんは、今日の事情を知ってくれている。
「――しますよ」
昨日に、羽衣と母親は日本に帰国した。
そして、今日、明日の文化祭の入校証を貰いに家に来ることになっている。
羽衣が貰いに来るのか、母親が貰いに来るのか、2人で貰いに来るのかは、解らない。ある意味、来てみてからのお楽しみなのだ。
「とやかくしていても、始まりませんから帰りましょう」
詩季は、2人と家に帰る事にした。
2人は、不安な心を持っている僕に気を使ってくれて、関係の無い話題を振ってくれた。
「では、今日もありがとうございました」
2人に、家まで送ってもらった。2人の姿が見えなくなるまで見送ってから家に入る。
「ただいま、帰りました」
「あっ、おかえりぃ〜〜」
部屋の奥からは、懐かしい声が聞こえてきた。
本当に、懐かしいな。
この声を聞いて、1つわかった事があった。
陽葵さんと仲良くなれた1番の要因が、リビングにいるという事だ。
僕は、リビングまで移動するとそこには、羽衣が静ばぁと健じぃと居た。母親は、居なかった。
「もう、来ていたんだ、羽衣」
「おうよ、愛する詩季にぃさんに、早く会いたいからなぁ!お母さんは、まだ来ていないよ」
4月に会った時より様変わりしているように見えるが、こっちの羽衣が素だ。日本で一緒に過ごしていた時もこんな感じだった。
4月に日本で会った時は、色々な問題もあっていつもの調子ではなかったが、今回は元のままに戻っていた。
「うっさい」
「キャッ!」
僕は、羽衣の頭をポンと優しく叩いた。
「懐かしいのぉ~~」
「えぇ、そうね」
祖父母は、懐かしい何かを見ているように見える。
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