50.文化祭準備の一幕

――――前書き――――


春乃さん視点の物語です!


では、どうぞ!


――――本編――――






「はい。ここは、こうしてください」

「詩季~~ここは、どうする?」

「そこは、こうお願いします。陽葵さん」

「わかった」


 週が明けた月曜日。


 今週末にある文化祭に向けて、怒涛の1週間が始まった。


 先週に、クラス崩壊が起こってしまったクラスは、詩季くんが陣頭指揮を執り始めた事で、団結して動いている。


 詩季くんは、凄い。


 一応、私がクラス委員長なのだが、副委員長の詩季くんが、実質的な委員長だ。


 不満は無い。だけど、悔しさはある。


 これは、明らかな人の能力の差だからだ。


 負けず嫌いな私としては、これが、かなり悔しい。


「ここは、もう展示会場に動かして大丈夫です。手の空いている男子は、運んでください。向こうでは、春乃さんと陽翔くんの指示に従ってください」


 詩季くんと目が合った。


 詩季くんは、私に展示会場の指揮を任せてくれている。


 これも、彼なりのメッセージだと思う。この機会をクラスメイトとの交流のキッカケにしろという彼のメッセージだ。


「あぁ、春乃さん」


 詩季くんが、手招きしてきたので近くに移動したら耳打ちしてきた。


「春乃さん、そういう格好になるなら、上も体操服に着替えるか、下にスカートを履いて下さい」


 今週からは、文化祭準備が本格的になるので、学校側から更衣室が用意されている。


 体操服に着替える必要があるクラスは、そこを利用するようになっている。


 一応は。


 私も含めてクラスの女子の1部は、上下体操服に着替えるのを面倒臭がって、上は、制服のポロシャツ下は、体操ズボンの格好で準備をしている。


 この学校の女子は、1部の人を除いてスカートの中に体操ズボンを履いているので、教室でスカート脱いで、即準備という流れになることが多い。


「春乃さんには、申し訳無いんですけど、同じ格好している女子に、注意してくれませんか?僕の名前を出して良いので」

「わかった」

「あっ、でも、やっぱりそのやり方は、卑怯ですよね」


 詩季くんは、何か決心したように、クラスの女子を呼んで自分の近くに集めた。

 そして、私と同じ格好をしている女子に注意とお願いをしていた。


 詩季くんから注意を受けた女子生徒は、体操服を持ってきている人は、着替えに更衣室に移動し、持ってきていない人は、スカートを履いて準備に戻った。


 私は、体操服を持ってきていたので着替えに更衣室に行った。


「白村くんって、命令じゃなくて、お願いしてくれるの本当に、いいよね」

「うん。白村くんは、私たちの目線で話してくれる」


 私と同じ注意を受けた、クラスメイトが近くで話していた。


「ねぇ、住吉さん!」

「はっ、はいぃぃ」

「あはは、住吉さん可愛い」


 突然呼ばれた事で、私は、びっくりして声が裏返ってしまった。


「ねぇ、白村くんと仲良いけど、彼、普段どんな感じ?」


 これは、チャンスだ。


 私が、この学校での交流関係を広げるために。


「普段は、物静かで天然な1面も見せるよ」

「やっぱり、天然な1面あるんだ。そこは、中等部から変わってないなぁ〜〜」


 私は、中等部の頃の詩季くんを知らない。


 どんな感じで過ごしていたのかは、彼から聞いていたが、他者目線は知ったことがない。


「中等部時代の詩季くんは、どんな感じだったの?」

「うぅ〜んとねぇ。ある種のマスコットキャラクター的な感じ?石川達に振り回されて苦労してたからね」


 以前、詩季くんから聞いた通り、中等部の3年間は、石川くんは、委員長を務めていた。


 しかし、ワンマン体制を敷く彼に対する不満は、詩季くんが、コミュニケーションをとってバランスを取っていた。


 ある種のクラスの潤滑油的存在だったと。


 詩季くんとコミュニケーションを取るうちに、彼の中の天然な1面が、クラスの中でマスコット的な扱いになったようだ。


「でもさぁ〜〜君たちと一緒に過ごしだしてからは、心が落ち着いているように見える」

「分かる!何か、心に余裕出来た感じで、更にかっこよくなったよね!」


 中等部時代から、かっこいいと有名だったみたいだ。

 そして、隠れファンが居たようだが、中等部時代は、高梨さんとお付き合いしている情報があったようで争奪戦みたいな事にはならなかったようだ。


「でもさぁ、復帰してから白村くんと高梨、全然絡まんよな」

「確かに、別れたのかな?変わって陽葵ちゃんと絡むこと多くなってるし」


 2人は、私の顔を見てきた。


 近くに居る私に、詳しい情報を聞きたいのだろう。


 一応、詩季くんからは、聞かれたら教えていいよ、とは言われている。


 これで、思ったのは詩季くんは、自分の情報統制能力はかなり高いという事だ。


 自分の口で、これは話していいと伝える行為自体が、許可していない情報を話したら縁を切ると言われているようなものだ。


「去年の夏か秋頃に、別れたみたいだよ」

「「そうなんだぁ〜〜」」


 2人は、気になる異性がフリーだと解った嬉しさよりかは、推しのアイドルの動向を見るかのような感じだった。


「でもさぁ、陽葵ちゃんとの絡みヤバない?」

「わかるぅ〜〜白村くんと陽葵ちゃん。推しカップルだよ」


 私も知らない内に、詩季くんと陽葵さんは、1部の女子から推しカップル認定されていたようだ。


「住吉さんは、白村くんの事どう思ってんの?」

「気になる!陽葵ちゃんとの三角関係とか?」


 上の着替え終えて、担当の場所に移動しながら話す。2人は、私の担当に振り分けられている。


「詩季くんとは、友達かな?お互いに、負けず嫌いだから、お付き合いしたとしても喧嘩しちゃうと思う」


 詩季くんは、友達としてならいい付き合いが出来ると思う。

 だけど、カレカノだとすると喧嘩が多くなりそうだと思う。


 持ち場に到着したので、2人に指示を出して動いてもらうことにする。






 詩季くんの事を、異性として見られるか。彼氏候補として見られるか。


 さっき、2人には嘘をついたかもしれない。


 詩季くんには、感謝がある。そして、異性として好きかもとは思った事はある。


 だけど、陽葵さんとの関わり方や陽葵さんと一緒に居る時の詩季くんの表情を見たら諦めざる得ないじゃない。


「春乃、どうした?」

「陽翔くん」

「顔暗いけど、どうした?」

「うぅん。なんでもない」

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