49.私物化
「では、文化祭準備に関しての報告会を始めまぁーす」
学校の図書室の6人がけのテーブルに、詩季くん同好会のメンバーが集まった。
文化委員では無いが、実質的に、文化祭準備の指揮に関する実権掌握したので、こうして、報告会を開いている。
「何か、ひまりんが司会務めると会議らしくないね」
「んなによぉ〜〜奈々ちゃん!」
「それは、同感。バカな妹には向かないな」
「陽翔までぇ〜〜」
僕たちは、いつも通りだ。陽葵さんが、ボケを担当してその他がツッコミ役になる。
今日も今日とて、聞きなれた、見慣れた展開を繰り返している。
「では、皆さん。気を取り直して、報告会をはじめましょう。」
「やっぱり、しきやんの方が向いてるね」
「――」
「そうだな。詩季は、一見すると堅物メガネ委員長みたいな雰囲気だもんな」
「――ねぇ、奈々さんに、陽翔くん。口喧嘩売っていますか?」
何故か、陽葵さんの次に、僕がターゲットにされてしまった。
普段は、ツッコミ役な僕にとって少し返しに困ってしまった。
テキパキと返事を返せる陽葵さんを、悔しいが凄いと思ってしまった。
と言うか、このグループは、時と場合によってボケ役とツッコミ役が変わるのだろう。
「春乃さん。展示班の動きは、どうですか?」
「うん。陽翔くんの支えもあって軌道には乗せる事が出来たと思う。来週からブースト掛けられるよ」
「ありがとうございます」
今日、クラス展示を行う教室の初の下見だったのだ。
ただ、事前準備がゴタゴタな事もありそっちまで、手が回っていなかったのだ。
「詩季くんは、どう。作品自体の軌道修正は?」
「そうだな、完璧な作品のためにどうするかよな」
やはり、皆、完璧を目指すのだろう。
ただ、完璧と言う言葉に拘りすぎると作品が変な方向に向きかねない。
今のクラスは、文化祭準備でクラス崩壊を起こしてしまった。
到底、完璧を追い求める環境ではない。なら、基本に立ち返るべきだ。
「完璧は、目指しません。見せられる作品にしたいと思います」
完璧な作品は、あくまで、自分たちの自己満足だ。
自分たちが完璧だと思っていても見る側が見にくいと思えば完璧が崩れるのだ。
だったら、基本中の基本である見せる作品を目指すべきではないだろうか。
「それは、何故だ?」
瑛太くんから、質問された。口調も負けず嫌いが本気モードだ。
「完璧ってのは、僕たち作る側の主観なだけであって、見る側が完璧だと思わないと、本当の完璧じゃないんですよ」
「だから、見せられる作品を作るの?」
「春乃さん、そうです。見る側に完璧だと思ってもらうためには、まずは、見せる作品を作らないといけません。自分たちで、完璧だと自負した作品は、大抵コケます」
「ふぅ〜ん。これが、首席の見る視点か」
春乃さんと瑛太くんの負けず嫌いな2人は、別の方向でモードに入っている気がする。
そして、2人を静観する奈々さんと陽翔くんは、2人でボソボソ話し出した。
「なぁ、あの2人負けず嫌いモード発してない?」
「んなぁ〜〜、瑛太を止めろよ、奈々?」
「そっちも、はるよんを止めてよね。準備の時は、いい感じだったしぃ〜〜?」
「うっせ」
意外な一面を見せると思った。さっきの陽翔くんは、今までに見たことの無い表情だった。
幸いにも、2人の負けず嫌いモードは、ギリギリのラインで留まったので、話し合いの続きを進める。
この6人は、文化祭準備における幹部クラスだ。
この話し合いで、綿密な情報を共有しておかないと、来週以降の準備に支障をきたしてしまう。
クラスの皆は、全て100%を目指すだろう。
しかし、正直言って残り時間を考えると、80%の展示物を100%のように見せる展示をした方が全体としての完成度は高くなると見ている。
そして、その方向に進む予定だ。
「話し合いは、終わったかぁ~~」
図書室に、守谷先生が入って来た。呼んでもない人の登場には、何かしらのイベントが付き物だ。
「何でしょうか、クラス崩壊を見て見ぬフリをした守谷先生」
「んだよ。教師の出番は、正副委員長でも崩壊を止められなかった時に動くものなんだよ。……何だよ、結果的に、崩壊は収まったからいいじゃねぇか。……わかったよ、次からは、気を付けるから、冷めた目で見ないでくれよ」
僕たち6人から冷たい目で見られた事が、少々、精神的に来たようで、守谷先生は、ほんの数分間で白旗を揚げた。
「それよりもさぁ~~石川たちも大概そうだが、白村も文化祭私物化してるよな?」
「えぇ~~僕は、私物化しつつもクラス展示を見られるものしますよ」
若くして進学クラスの担任になった理由が、解る。生徒の観察力は凄い物を持っている。
「それに、ここからは、私物化しないですよ。私物化は、ここまでです」
僕が、文化祭を私物化していたのは、準備期間の中で、石川くんの指揮系統でクラスが崩壊するまでだと決めていた。
文化祭準備を私物化してクラス崩壊を起こしたのだからその責任は、最大限に取らないといけない。
そして、幼馴染達というよりかは、石川くんだな。石川くんが、今の状況や人格形成の一端を担ってしまった責任を取らないといけない。
「んまぁ~~楽しみにしているよ。やっと、白村が、先頭に立って指揮を執るんだからな」
それだけを言うと、守谷先生は嵐のように去って行った。
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