45.お泊り翌日の朝

「おはようございま――」

「キャーー詩季くんのエッチィ~~」


 朝起きて、学校の制服に着替えてからリビングに移動すると、陽葵さんが制服のスカートを履いていた。既に、上は着替え終えていたのと下に、体操ズボンを履いていたので、下着姿に遭遇するハプニングは回避できた。


「陽葵さん。着替えるなら、客間で着替えてくだいよ」

「だって、客間まで持って行くの面倒なんだもん」


 陽葵さんの制服や肌着類は、家で洗濯して、うちの中では一番乾きやすいリビングで干していた。もちろん、下着類は、僕の目の届かない所に干して貰った。


「――陽葵さんは、警戒心無いのですか?僕だって、男の子ですよ?」

「詩季くんだから見られても平気だもん。他の男の子には、こんなに心許さないよ」


 前回の恋で失敗してしまったことが原因なのかはたまた、元々なのか女性との距離感とバランスを取るのが、苦手だと思う。だから、陽葵さんの距離感は、友人なのか、恋人候補としてなのか。


 どういう意味の距離感なのだろうか。


「詩季くん、髪やってあげるから」


 そう言うと陽葵さんは、僕の髪を整えだした。


「陽葵ちゃん。良く寝れた?」

「はい!詩季くんと、一緒に寝れなかったのは、残念ですけど」


 昨晩、僕と一緒の部屋で寝ようとしてきた陽葵さんを客間に行くように説得するのには、大変だった。


 これは、友人としての距離感なのだろうか、それとも、僕に対して好意があるのだろうか。


「おはよぉ~~陽葵ちゃん。良く寝れた?」

「はい!」


 祖父母が起きて来た。


 何時もは、朝の7時30分に陽葵さんが、家に来て髪をやってもらっている。だけど、今日は、お互いに6時頃に起床して制服に着替えて髪をやって貰っていた。


「2人、仲良いね。詩季が陽葵ちゃんに、髪やって貰うのが、我が家の定番イベントになりつつあるよね」

「うむ、うむ。孫が、美女に甘やかされているのを見ると、白米3杯は、いけるわい」

「あらぁまぁ~~じぃさん」


 昨日から祖父母は、ニヤニヤした表情で、僕たちを見てきている。


「詩季の表情もうっとりしているわぇ~~」

「それほど、陽葵ちゃんに髪やって貰うのが気持ちいんだな」


 今すぐにでも部屋に戻って、とでも言いたくなるが、朝食を作りに来てくれているため、大人しくしておくしかない。


 祖父母と陽葵さんと朝食を食べ始めた。


「静ばぁ、6月に、羽衣と母親が、日本に帰国してくるみたいです」

「――何をしに来るの?」

「羽衣が、中等部の編入試験受けるのは、話したと思いますけど、その試験が、文化祭の翌日に、あるみたいです」

「あぁ、しずかは、保護者的な立ち位置ね」


 陽葵さんは、昨日の僕の電話の理由を理解したようだ。


「2人は、文化祭に来ますか?」

「取り敢えず、行く方向で」

「わかった。入校証に関して手続きしておきます」

「羽衣ちゃんは、どんな子なんですか?」


 陽葵さんは、僕の可愛い妹が、気になるようだ。


 そうだなぁ~~羽衣の可愛さに関しては、無限に喋られる自信はある。


「羽衣はね――」

「あっ詩季くんだと長くなりそうだから、静子さんと健三さんに聞いて良い?」

「何でですかぁ!」


 そりゃ、羽衣の事となると無限に喋れるけども!


「羽衣はねぇ、詩季の事大好きだけど、しっかり、線引きしているんだよね」

「線引き?」

「結婚したいレベルで、好きだけど。兄妹として血が繋がっている以上出来ない。だから、兄を束縛したくない。だったら、家族として最大限の愛を注ぎたいんだって」

「だから、僕も、羽衣には兄妹として最大限の愛情を注ぎたいんです。どこの馬の骨かわからない男には、嫁に出しませんよ」

「これ、詩季くんの愛重すぎませんか?」

「いや、お互いがお互いよ。この兄妹愛は、付け入る隙はないよ」


 それを聞いた陽葵さんの表情は、険しくなった。


 この表情は、西原家で陽葵さんと恋愛観を話した時と同じ表情に似ている気がする。


 ピンポ~ン♪


 インターフォンが、鳴ったので健じぃが、出迎えに行った。


「おはようございます」

「おぉ~~陽翔。頼んだ物は、持って来てくれた?」


 陽翔くんが、家に陽葵さんの荷物を持って来た。


 僕の不注意で、陽葵さんがお泊りする事になり、巻き込む形になったので、本当に申し訳ない。


「陽翔くん、すみません。僕の不注意で、ご迷惑お掛けしました」

「いや、いいよ。むしろ、楽しんでたのは、陽葵の方だろうから。なぁ、陽葵?」


 そう言うと、陽葵さんの肩に手を置いていた。


「あぁ〜〜体操ズボンも持ってきてくれてるぅ〜〜陽翔、さっすがぁ〜〜」


 陽葵さんも、何か不気味な空気を感じ取ったのか、必死に話題を変えようとしている。


「すみません。陽葵が、お手間をお掛けしました」

「いぇいぇ、詩季も陽葵ちゃんと一緒だと嬉しそうだったからねぇ〜〜」

「静ばぁ!」


 どうやら、この場所では、僕と陽葵さんは、何も言えないようだ。


「では、俺は、学校に向かいますね」

「――?陽翔くんも、一緒に行きましょうよ」


 せっかく、家まで来たのだから一緒に行きたい物だ。

 それが、お友達なら尚更だ。何故、先に行こうとするのかがわからない。


「朝食を食べ終えましたし、歯磨きをすれば、もう、学校に行けます。待っていてくれませんか?」


 陽翔くんは、陽葵さんの表情を一瞬見た。陽葵さんは、少し、複雑そうな表情になったが、何かを察したようで、1回頷いた。


「うん。詩季、一緒に行こう!」

「ありがとうございます。それと、この場で、体操ズボンを履き替えようとしている陽葵さんをどうにかしてくれませんか?」

「んにゃ、裏切ったな!」

「ひ〜ま〜り〜?」

「わ、わかったから!怒らないでぇ〜〜」


 3人での、この空気も大好きだ。この空気を守っていけたらと思う。

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