46.付け入る隙

 僕は、陽葵さんと陽翔くんの3人で久しぶりに登校できて、僕は、上機嫌だ。


「おぉ〜〜しきやんとそのボディーガードさんおはよぉ〜〜」

「私は、ボディーガードじゃなくて、パートナー!」

「ボディーガードじゃねぇよ。まぁ、おはよ」

「おはようございます。奈々さん」


 教室に入ると直ぐに、奈々さんから元気がいい挨拶が飛んでくる。


 陽葵さんと陽翔くんが、ボディーガードか。サングラスを掛けて貰ったらそれっぽくなるのだろうか。


「詩季くん、おはよ。今日から文化祭の準備が始まるね」

「春乃さん。おはようございます」


 瑛太くんは、部活の朝練で、片付けの当番に当たったらしく今は、不在だ。


 さっき、春乃さんが言ってきたが、今日から文化祭の準備が始まる。


 1年生が、展示。2年生が、舞台発表。3年生が、模擬店を行うことになっている。


 文化祭は2日間行われて、1日目は学内で、2日目は学外で、保護者などが学校に見に来る。


 そして、文化祭に関しては、文化委員と正副委員長が、協力して進める事になる。


 そして、文化委員になった人物は、石川くんと岡さんだ。


 石川くんが、文化委員になれたのは、他にやる人が居なかったからだ。ただ、委員長と副委員長で、惨敗を喫したのに、文化祭でクラスを引っ張ろうと思うのか。


 まぁ、他がやりたがらないから、引っ張る姿勢があるだけ、一応、マジではある。






 6時間目になり、文化祭の話し合いの時間になった。


 まずは、守谷先生の説明から始まる。


「6時間目は、文化祭に関しての話し合いだ。1年は、展示をやる。お題は、自由だ」


 意地悪だなぁ〜〜お題を設定してくれた方が、こっちとしては、やりやすい。

 しかし、お題が自由となるとかなり、難しい。


「調べ学習に関しては、校外学習で練習したよな?」


(あぁ、なるほど。校外学習をさせた意味は、こういう事か)


「それを、クラス全体でやってもらう。後は、文化委員と正副委員長頼むぞ」


 守谷先生からバトンを受けたため、文化委員である石川くんと岡さんが、教卓の前に移動した。


 お昼休みに、文化委員である2人と打ち合わせで、文化祭の担当である文化委員が、クラスの先頭にならないといけないと言う当然の判断で、正副委員長の僕と春乃さんは、自分の席に座ったままだ。


 すると、守谷先生が、僕の近くに歩み寄って来た。


「お前は、前に行かないのか?」

「僕は、文化祭の打ち合わせに参加する権利のない副委員長ですよ。文化祭の陣頭指揮は、文化委員のお仕事でしょう。僕たちは、何かあった時の保険要因でしょう」

「まぁ、そうだろうな。クラスが崩壊しそうになったら――よろしくな」


 それだけを言うと、守谷先生は、教室の後方に移動していった。


 シレっと、釘を刺してきたが、委員長である春乃さんには、何も言っていない。守谷先生からは、肩書は、副委員長だが、実質的な委員長は、僕だと言わんばかりだ。


 確かに、春乃さんも頑張っているが、僕のフォローが無ければと言った感じだ。まぁ、春乃さんをフォローする分には、嫌な気持ちにならないので苦ではない。


「それで、お題なんだが、この学校の歴史で行きたいと思う」


 石川くんは、クラスで話し合うという事は、しない方針のようだ。


(これは、荒れるな)


 僕は、直感した。


『 (白村詩季) 皆さん。文化祭準備に関して、かなり荒れます』


 メッセージアプリのグループ名『校外学習班 ⇒ 詩季くん同好会!』にメッセージを送った。グループ名に関しては、何度か変更をお願いしてみたが、即刻拒否された。


 最初は、新手の羞恥プレイかと思ったが、今では、慣れてしまった。


『 (陽葵) 確定なんだね』

『 (陽翔) 詩季が言うなら確かなのかもな』

『 (えいた) 何が、起こるんだ?』

『 (奈々) バカは、聞いても無駄じゃない?』

『 (はるの) 詩季くん。大丈夫なの?』


 皆、反応が早いな。ただ、瑛太くんの扱いには、笑うしかない。


『 (白村詩季) クラス崩壊はするでしょうね』

『 (陽葵) それ、ヤバくない?どうするの?』

『 (白村詩季) 取り敢えず、静観します』


 メッセージアプリ上で、仲間間で情報共有をしておく。そうしておけば、僕が、動く際にスムーズに動き出してくれると思うから。


「それで、学校の歴史を調べるにあたって、役割分担を行いたいと思う」


(トップダウン方式で行きたんだろうけど――前提条件が、整ってないな)


 石川くんは、クラス中にここを調べて欲しいと順次、指示を出している。


「西原兄妹達は、ここの範囲をお願いしたい。そして、詩季と住吉は、俺らのサポートをお願いしたい」


 春乃さんが、僕の顔を見てきたので、僕は横に1往復首を振っておいた。


「はい。では、僕と春乃さんは、西原さん達と同じグループで動きますね。貴方方のサポートとして」

「――――」


 石川くんは、何も返してこない。


 つまりは、君たちのサポート業務に関しては、陽葵さん達と動いていいという肯定と捉えさせてもらう。


「では、そう動きますね」


 最後に念を押して、文化祭準備における僕と春乃さんの業務内容は確定した。


 石川くんが、僕が提案した業務に関して何も言い返せなかったのは、この人に何の役割を与えるかを考えていなかったからだ。


 大まかな構想だけを練って、細部には何も手をつけてない。

 何たって、僕と春乃さんが、どのようなサポート業務をするのかをはっきりさせてないからだ。


 だからそこには、付け入る隙が生まれる。僕と春乃さんは、サポート業務として陽葵さん達と行動を共にすることの言質を取ったのだ。


 その時、石川くんは、思惑が外れたと言わんばかりの顔をしていた。


 後方に立っている、守谷先生は、ニヤリと笑っていた気がする。


(相変わらず、詰めが甘いですね。まぁ、そうさせた責任は、半分、僕にありますからね。この文化祭で思い知らせないといけませんね)

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