38.戦略

●●●


「詩季くん、この後、少しいいですか」


 昼休み、昼食を食堂で食べ終えたタイミングで、春乃さんから話しかけられた。今日のお昼ご飯は、僕と春乃さんが、お弁当で、他は、食堂利用していた。


 春乃さんが、話しかけてきたのは、4人が、食べ終えて食器を片付けに行ったタイミングだった。


 これは、二人で話がしたいと言う合図だろう。


「わかりました」


 今朝、委員長になるための挨拶で、春乃さんは、石川くんに、きつい事を言われていたので、その相談かもしれないと思った。


 食器を返し終えた4人が、帰ってきたタイミングで、僕は、春乃さんと話してから教室に帰るから、先に、帰ってと伝えた。

 その際に、陽葵さんは、頬をプクッーと膨らましていたが、陽翔くんが、連れて帰ってくれた。


 春乃さんと、人気の少ない場所に移動して、ベンチに腰掛けた。


「どうかしましたか?」

「うんとね」

「やっぱり、気にしていますか?今朝の事」


 春乃さんは、首を振った。


 という事は、今朝の事は、既に、春乃さんの頭の中では、整理が付いているという事だ。


「なら、どうしたのですか?」

「うん。6時間目に、委員長と副委員長決めるじゃない?」

「そうですね」

「私、立候補しようと思うんだけど、どうだと思う?」


 春乃さんからの相談は、委員長・副委員長に関してだった。


「皆には、相談したんですか?」

「ううん。詩季くんだけ」

「それは、何ででしょうか?」

「だって、今の私があるのは、詩季くんが仲間に入れてくれたから!」

「ただ、春乃さんの勉強方法が知りたかっただけですよ」

「もぉ〜〜素直じゃないねぇ〜〜」


 春乃さんの僕に対する口調も、柔らかくなっている。


 言葉を丁寧な感じに、置き換えている素振りは、もう微塵も見えない。


「でも、石川くんも立候補しますよ?」

「それでも」

「まぁ、彼の立ち位置的に、信任投票だったとしても無理でしょうけどね」


 委員長・副委員長は、立候補して対抗馬が居ない場合は、信任投票になる。


 そこで、過半数以上の不信任があれば、今度は、クラス内で推薦で選ぶルールだ。


「例えね、相方が、石川くんでも立候補したい」


 春乃さんからは、強い覚悟を滲ませている。それに、目標に向かっている目をしていた。


「何で、しようと思ったのですか?」

「だって、委員長か副委員長になれば、クラスメイトと交流する機会増えると思うし」


 春乃さんの理由を聞いて、鳥肌が立つ感覚になった。


 自分を変えたい。


 自分を変えるために、クラスのリーダーになりたい。


 これまで、誰かのサポートに徹してきた、白村詩季と言う人間には、かなり刺さる事だった。


 僕も変わりたくて口調を、喋り方を変えた。


 だが、これは、自分のあり方を変えただけだ。行動に移した訳では無い。

 

 僕も春乃さんを見習って、行動を起こすべきだ。


「なら、僕と委員長・副委員長のコンビを組みますか?」

「え、詩季くんも出るの?」

「嫌ですか?」

「ううん。むしろ、心強いよ」


 僕と春乃さんは、共闘と言う意味を込めて握手をした。




○○○




「と言う、話し合いをしていたんですよ」

「へぇ〜〜休み時間、陽翔に、聞かれた時は、一考中って言ってたじゃねぇか」

「いぇいぇ、あの時は、委員長になるかと、聞かれただけですから」


 帰りに、6人で、駅近のファミレスに来ていた。


 お店に入って注文を済ませると、話題は、当然の如く委員長と副委員長の件になった。


「それにしても、はるるんが、立候補表明した時は、驚いたよ。そっかぁ〜〜だから、6時間目、チラチラと、しきやんのこと見てたんやぁ」

「う、うん。話し合っていたけど、不安があったから」


 どうやら、僕と春乃さんが、アイコンタクトでコミュニケーションを取っていた事は、バレバレだったようだ。


 と言うか、さっきから陽葵さんが、左脇腹を抓っているのが、気になる。

 必死に、声をあげないように我慢しているが、まぁまぁ痛い。


「一瞬、あの時間で、はるるんが、告白したんかなぁと思ったよ」


 奈々さん的には、冗談で、言ったのだろうが、陽葵さんが、抓る強さが、気持ち強くなった。


「あの、陽葵さん。痛いんですけど?」

「むぅ〜〜」


 陽葵さん、拗ねてる?


「春乃ちゃんみたいな、女の子が好きなの?」

「ん〜〜そう言うタイプとかよく分からないんです」

「そっか」


 やっと、陽葵さんは、脇腹から手を離してくれた。


「まぁ〜〜おふざけは、ここまでとして、何で、しきやんが副委員長で、はるるんが委員長の順番になったん?」


 奈々さんのいい所の1つは、真面目な話になると、声のトーンが変わることだ。


「私的なら、委員長・副委員長、逆なんだけど?」


 奈々さんが、言いたいのは、高校からこの学校に入学して、まだ、慣れていない春乃さんより僕の方が委員長の方がいいんじゃないかと言う事だろう。


「そこは、作戦ですよ」

「作戦?」

「まぁ、私情を挟んでいますけどね」


 今日は、石川くんに対して、強い怒りを覚えていた。

 理由は、春乃さんに対しての態度だった。


 僕と春乃さんが、コンビで、委員長・副委員長をやる事になった。そして、石川くんも委員長になりたがっている。


 そして、石川くんの今朝の行動含めて、クラス内での彼の立ち位置。


 やり返すには、十分な材料が揃っていた。


 僕と春乃さんが、何方がどっちの役職をやるかは、やり返し方で決まった。


 まずは、委員長の投票で、自分より下に見ていた春乃さんに、負ける。

 次に、副委員長の投票で、これまで、自分の為に動いてきてくれた僕に、負ける。


 この負け方は、石川くんにとって、プライドをズタズタに、壊される負け方だろう。


「――詩季くん。凄い、腹黒。絶対に、怒らせたらダメな人だ」

「でもさぁ、はるるんが、スッキリしているの良かったね」


 皆が、ドン引きしていたが、モチベーターの奈々さんの機転もあり、あっという間に、何時もの空気に戻ったのだ。




――― 後書き ―――


明日は、39話・40話の2話投稿の予定です(*'ω'*)


39話は、いつも通り 朝の8時頃。

40話は、17時頃。


に投稿します!


噓真 蓮都

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る