37.焦りと結果

「みんな、俺、委員長目指すから投票お願いなっ!」


 6時間目前の休み時間。


 クラス委員長と副委員長は、6時間目の総合Aの時間で決める事になっている。


 石川くんは、最後の追い込みと言わんばかりに、クラスメイトに挨拶回りをしていた。


 時間が、限られているせいか僕らには来ていない。


 何をこうも焦っているのだろうか。絶対に、俺を選んでくれと、念には念を押しているように見える。


 委員長になれなければ、自分の人生が終わるかのように、血相を変えている。


「随分と焦ってんな。そんなに、委員長やりてぇのか?」

「どうなんでしょうね、陽翔くん」


 石川くんは、中等部時代は3年間委員長を務めていた。副委員長には、岡さんを据えていた。


 まぁ、この体制は、石川くんの1人の独裁体制に近かった。副委員長の岡さんは、石川くんのイエスマンだった。


 その陰で暗躍していたのが、ぼくだったのだ。

 

「詩季は、委員長やらないのか?」

「一考中です」


 本人は自覚して無いだろうが、クラス中、石川くんに対して引いた目線を向けている。


 あまりにも、必死すぎるのだ。


 中等部時代では、見なかった光景だ。


 まぁ、中等部時代は、僕は陰で票集めをしていたから何もせずに、石川くんに人気があるように見せて委員長になれていた。

 それが、高等部に上がってからは、2度の警告を受けている。そもそもなかったクラス内の人気が下がったと思ってもおかしくないだろう。


「ねぇ、詩季くん」

「はい、春乃さん」


 春乃さんが、僕に話しかけてきた。それと、同じタイミングで教室の扉が開いた。


「お前らぁ、席に着けぇ〜〜」


 守谷先生が、教室に入ってくると同時に、チャイムが鳴った。


 春乃さんは、僕に、話しかけてくれたが、話す時間が無かった。

 僕は、春乃さんに1回頷いた。それを、確認した春乃さんは自分の席に戻って行った。


 6時間目の総合Aの授業が始まった。


「今日の総合Aは、前から予告していたクラス委員を決める。まずは、委員長・副委員長を決めさせてもらう」


 守谷先生が、黒板に、委員長・副委員長を書いた。


 僕は、チラッと石川くんの方を向いて見たが、今日1番の緊張感を発している。


 はっきり言って、今、クラス内の石川くんに対する評価では、委員長と副委員長のどれかにもなれない事は、目に見えている。


 だが、石川くんは、そういう状況判断が出来ていない。何とかして、委員長になるべくして必死になっている。


 春乃さんに対して、脅しとも言える事を言ってまでだ。


 彼が、何に怯えていようが、知った事では無い。だけど、僕の大切なお友達を傷つけた事は、絶対に許せない。


「では、立候補は、居るか?」

「はい!」


 守谷先生が、立候補を募ったのと同時に石川くんが、立候補した。


「では、前に来い」


 石川くんが、立ち上がり教卓付近に移動した。


「他に、立候補は、居るか?居ないなら取り敢えず、信任投票になるが――」


 僕の左斜め前の席に座っている、春乃さんが、僕の顔を見てきた。


 僕は、口パクで、「大丈夫」と言った。


 すると、春乃さんは、覚悟を決めたのか、安心したのか、キリッとした表情になって、手を挙げた。


「先生、私も委員長に立候補します!」

「おぉ〜〜住吉、やるか!前に、来てくれ」


 春乃さんは、石川くんが、立っている所から教卓を挟んで立った。


 石川くんは、対抗馬が出てくると予想していなかったようで、驚いた表情をしている。


 このまま、クラスの投票を行った所で、春乃さんが、勝つ可能性が格段に高いが、最後に、程よいスパイスを振るとする。


「はい」

「んおぉ〜〜白村もやるか!」


 僕は、手を挙げた。


 守谷先生は、委員長への立候補と捉えたようだが、そうでは無い。


「住吉春乃さんの委員長就任を推薦致します」


 高等部から入学した、春乃さんには、後ろ盾があると言う意味をクラスに与える意味で、僕は手を挙げたのだ。


 僕達は、校外学習で春乃さんと関わっているが、他の生徒は、まだ関わりが浅い。

 だから、関わりが深い人物が、推薦を出すことで、更に、石川くんを劣勢に立たせる事が出来る。


 それにだ。


 春乃さん以外、中等部から上がって来た生徒のクラスで、僕が春乃さん側について石川くん側につかないという事は、彼をよく思ってない人達からすると、石川くんに委員長と言う面倒臭い仕事を押し付ける意味が、無くなるという事だ。


「立候補じゃないんかよ」

「はい」

「――。まぁ、いい。投票に移る」


 ここでの定番は、投票する側か投票される側の何方かが、目線を伏せるだろうが守谷先生はしないようだ。


「石川が、いいと思う人」


 石川くんに手を挙げたのは、高梨さんと岡さんの2人だけだった。


「住吉が、いいと思う人」


 春乃さんには、石川くんに挙げた2人以外、全員が手を挙げた。


「数えるまでもないな。1組の委員長は、住吉に決定だ」


 黒板の委員長の所に、住吉春乃、と書かれた。


 春乃さんは、一安心した様子で自分の席に戻って行った。戻る途中で、安心しきった様子で、僕にニッコリと笑ってきた。


「続いて、副委員長だ。委員長が、女子だから副委員長は、男子になる」


 これは、オードソックスだ。


 委員長と副委員長は、男女ペア。委員長が、女の子の春乃さんなら副委員長は、男の子になる。


「はい、俺やります」


 教卓の横に立ち尽くしていた、石川くんが我先に、立候補した。


「まだ、何も言ってないけどな。まぁ、いい他に居ないか?」


 石川くんは、何を焦っているのか。気になるが、春乃さんを石川くんとコンビを組ませる訳にはいかない。


 春乃さんは、僕の顔を見てきた。


 まるで、「約束は、守ってね」と言わんばかりに。


「居ないかぁ〜〜なら、信任――」


 守谷先生の信任に、石川くんは、少しばかりの安堵の表情を見せた。そこで、僕は挙手をする。


「守谷先生。立候補致します」

「ふふ、狙ってたなぁ?この野郎」


 僕の立候補に、石川くんは、驚いた様子だ。ちなみに、クラスメイトも予想していなかったみたいだ。


 陽葵さん達も、「マジか」と言った感じだった。


 教卓の前まで、移動した。


「じゃ、投票と行こうか。まずは、白村が、副委員長がいいと思う人」


 たった1人、岡さんを除いてクラス中一斉に、僕に対して手を挙げた。


「わぁ~~お。どうする、石川。お前も決とるか?」


 圧倒的な大差で、僕の勝ちが、決定的だ。


「い、いぇ。……大丈夫です」


 流石に、この先の展開は、誰しもが予想出来る。僕が、同じ立ち位置なら自分の大敗を皆まで知りたいと思わない。


 委員長 住吉春乃

 副委員長 白村詩季


「じゃ、住吉も前に来て、他のクラス委員決めてくれ」


 春乃さんが、委員長。僕が、副委員長になる事が、決定された。

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