36.グループの雰囲気
4月も下旬に差し掛かり、5月が近くなってきた週明けの月曜日。
現代社会の課題も無事に、提出を終えて評価は、最高ランクの評価を受けた。
そして、今日は、クラスの委員を決める日だ。
他の学校では、新学期を迎えて最初の数週間のオリエンテーション期間で決めているみたいだ。だが、この学校では、中等部から高等部に上がった高校1年生は、入学から1ヶ月が経つタイミングで、クラス委員を決める事になっている。
委員を決めるにあたって、クラス内のある程度の人間関係が出来上がったタイミングで決めた方がいいだろうという方針だそうだ。
「委員長には、俺で頼むな」
クラス内では、委員長の座を狙っているのだろう。石川くんが、朝からせっせとクラスメイトに挨拶回りをしていた。
委員長・副委員長に関しては、立候補してからクラス内での投票を行う事になっている。その他の委員に関しては、立候補からの早い者勝ちだ。
「おう、詩季。委員長には、俺によろしくな」
「そうですか。一考しておきます」
先週の図書館の1件があったのに、この調子で僕に挨拶をしてきた。僕は、右耳から左耳に聞き流した。
西原兄妹と瑛太・奈々カップルは、苦手なのか、それとも、この4人の票が無くても委員長になれるとでも思っているのか挨拶はしなかった。
「何なん、気分悪」
「気にすんなよ、奈々。ああいう奴や」
やはり、皆は、気分を害したようで奈々さんと瑛太くんは、言葉に出ている。
「春乃さんは、大丈夫ですか?」
「うん。ありがとう、詩季くん」
ただ、春乃さんには、挨拶と言う名の投票願いという名の脅しに近い挨拶をしているように見えた。
「気にしたら、ダメですよ」
「そ、その、」
「どうしたの?」
春乃さんとは、席も近いので、石川くんが春乃さんに挨拶していた内容は耳に入っていたのだ。
「春乃さん、入学に関して言われてました。石川くんに」
一瞬にして、緊張感が走った。
「春乃ちゃん、大丈夫?」
「はるのん大丈夫?」
女性陣が、近くに行って背中を摩るなどして慰めている。
「入学に関して」は、僕もあまり使いたくない言葉だ。
本血と異血という、入学差別が一部で起こりうるこの学校。僕は、確認の意味で使ったが、使い方を間違えれば学内で差別用語となってしまう。
「春乃さん。何かあったら僕達の元に来てください。大切なお友達を傷つけるのは許せませんから」
「うん、皆、ありがとう」
それにしても、クラス内での自分の立ち位置を理解せず、差別まで持ち出すとは。
石川くんの考えていることが、全く解らない。もしかしたら、何も考えていないのか。
「詩季くんは、委員長にならないの?」
「うぅ~~ん。僕が、委員長になって対抗馬にならずとも、クラス内における彼の立ち位置的に、どちらにもなれないでしょう」
委員長・副委員長に、関しては、最初は立候補→クラスメイトの投票(1人でも信任投票)を行ってクラスメイトに認められないとなれないのだ。
それで、委員長と副委員長のなり手が居なければ、クラスメイトからの推薦になる。
石川くんは、挨拶回りをして、今のクラス内での自分の立ち位置を上げようとしているのだろうが、たった、1日の数時間で、どうにかなる問題ではない。
「なぁ、白村。石川に関しては、中等部みたいに?」
普段は、別のグループに属しているクラスメイトが、僕に話しかけて来た。
そう言えば、中等部の3年間、石川くんはクラス委員長を続けていたっけ。それも、陰で、僕がフォローをしてきていた。
なるほど、だからさっきの挨拶だったのか。そして、石川くんが、そこまでの自信があるのは、中等部時代の3年間があるのだろう。
クラスメイトは、中等部時代と同じような体制に、なるのかを確認しに来たのだろう。
「なりませんよ。ただ、彼が都合のいいように解釈しているだけでしょう」
「良かった」
クラスメイトは、それだけを確認すると去って行った。
何だろうか、石川くんがこうなってしまった一種の責任は、僕にあるのかもしれない。
「詩季くんは、委員長にならないの?」
「そうですね。悩みどころですね」
僕の自己分析では、自ら人前に立って、皆を鼓舞して引っ張って行くタイプでは無い。つまりは、物語の主人公的なリーダータイプでは無い。
そう言うタイプで言えば、陽葵さん・奈々さん・瑛太くんが、相応しいと思う。
僕は、どちらかと言うと、ナンバー2辺りで動くタイプなのかもしれない。
「詩季くんなら、きっと、クラスをまとめられるよ」
「僕は、皆の前に積極的に、立つ人間じゃないですよ」
「だからだよ。委員長としては、しっかりしているだの、人前に積極的に立つだのが、求められてきたけどさぁ。詩季くんも委員長の素質を持っていると思うよ」
何だろうか。
何時も、僕の前では、ふざけるしか頭にないような言動を繰り返している陽葵さんが、真面目な事を言っていると、何故だか変な震えを感じてしまう。
「あの、陽翔くん。今日の天気、お昼過ぎぐらいから崩れませんかね?」
「確かにな――あの、陽葵が真面目な事、言ったからな。お昼からは、崩れるかもな」
「ね~~えぇ~~2人とも、私、良い事言ったよね。言ったよね!」
やっぱり、僕たちは、暗い雰囲気より明るい雰囲気の方が良い。
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