34.イライラ

「それは、ただ単に僕と高梨さんや岡さんや石川くんは、クラスメイトという関係性だからじゃないですか?」


 エレベーターは、2階に到着した。エレベーター前には、陽葵さんと奈々さんが、待っていた。


 高梨さんは、何か言いたげな様子だったが、そのまま、2人と合流して図書室に向かう。


 図書室に入り、4人席に陣取って座る。


 同じ内容を調べているペア同士なので、目的の書籍が置いてある場所も同じだ。


 4人で、参考資料となる書籍を持って机に移動した。


 同じく参考にする書籍は共有して、ペア独自の書籍は、ペア事のスペースに置いて調べ学習を初める。


 陽葵さんと奈々さんペアは、息が合っているみたいで、協力をして調べ物を進めて行った。


 しかし、僕と高梨さんのペアは、僕が高梨さんに、1から2と指示を出して調べさせて、納得出来なかったら、リテイクを出して調べさせている。


 恐らくだが、事故に遭うまでの中等部時代ならイライラもせずに、1回調べてもらって協力したと実感させてから、僕自身で手直ししていただろう。


 だが、今の高梨さんの調べ方に対して、イライラをしてしまっている。今までは、しなかったのにだ。


 僕も大分変わったな。


 これまで、協力と言うなの押し付けを受けていた僕にとって、校外学習で初めて陽葵さん達と本当の協力を覚えた僕は、イライラをしてしまっている。


「詩季くん。少し、冷静になろう?」

「ありがとうございます。陽葵さん」


 陽葵さんは、僕がイライラしていると読み取ってくれたようで、落ち着かせる目的で声を掛けてくれた。


 有難かった。


 それに、助かった。


 お陰で、頭を冷やす事が出来そうだ。


 そこからは、高梨さんが調べてくる内容には、期待しないようにして、僕も調べ学習を進めることにする。


 そうだ、期待するからがっかりすんだ。期待をしなければ、いいんだ。中等部時代は、期待をしていなかったから平気だったんだ。


 そうだ、期待する人物は、取捨選択していかないといけない。関わる人間全員を期待していたら、〖心〗が、持たないから。


「詩季くん、そろそろ戻らない?」


 陽葵さんに言われて時間を見てみたが、確かにそろそろ戻らないといけない時間だ。


「え、まだ10分位は、出来るでしょ?」


 高梨さん的には、まだ、出来る時間は有ると思っていたようだ。


 先生からは、授業終了の10分前に帰ってくるように言われている。


「そうですね、戻りましょうか。僕の移動スピードは、女性陣より遅いですから。陽葵さん、教材持ってくれますか」

「わかった!」


 僕の言った事で、高梨さんは事情を理解したようだ。


 本を片付けて、図書室を後にする。


 本当に、僕が、先に返答をして良かったと思う。


 先に、返答しなければ、奈々さんと高梨さんが言い争いを起こしかねなかった。陽葵さんも、高梨さんの言い分聞いて、ピリ付いていたが表情に出さない事を心がけていた。


 奈々さんも決して短気なのではない。姉御肌な性格をしているので、自分の友達だと認識した人が、傷つけられたりしたら黙っておけない女性なのだ。


 特に、僕と幼馴染達との出来事を聞いた際にも、かなり、怒っていた記憶がある。


「ねぇ、詩季。全然、まとめれてないけど――」

「基本的に、僕が、まとめますので大丈夫ですよ」

「で、でも、1人に――」


 高梨さんは、何かを思い出したように、黙りだした。


 気が付いたのだろう。


 中等部時代に、どれだけ、僕1人に、色々な事をさせて来たかを始めて自覚したのだろう。


「今回は、協力するから」


 「今回は」か。


 だったら、何で一緒に居た時から協力してくれなかったのだろうか。


「本当ですか?」


 エレベーターに、高梨さんと乗り込み、4階に上がる。


「放課後、何処でやる?学校近くの図書館とかどう」


 どうやら同意と捉えたようだ。高梨さんから場所の提案をされた。


 祖父母から言い渡されているのは、外を出歩く際は、緊急時を除いて誰か一人と一緒に出歩くように言われている。

 それは、まだ、杖を突いた状態での歩行に関して、まだ心配だからだそうだ。もしも、歩行途中に倒れたりした時に、手助けをしてくれる人が近くに居てくれた方が、安心だそうだ。


「場所は、こっちで決めるから」

「うん。じゃ、メッセージで――」

「放課後に、また、話しかけて。その時に、場所話すから」


 メッセージと言われても、高梨さんの連絡先は、削除しているので、連絡手段は、口頭のみだ。


 というか、何も不審に、思っていないのか。何とも、ご都合主義なのだ。


 4階に付いて陽葵さんたちと合流して教室に戻ったのは、丁度、先生に指定された時間だった。






 放課後になった。


「――詩季」

「よぉ、詩季」


 高梨さんが、約束通りに僕の傍に来た。しかし、オマケも付いてきたようだ。


「何だよ、お前らぁ」


 高梨さんの近くには、岡さんや石川くんも居た。


 高梨さんと放課後に調べ学習をする事は、事前に言っていたので皆、認識していたが、予想外の2人もセットになっていた事で、瑛太くんと陽翔くんが、僕の前に出た。


 多分、石川くんが、居るからだろう。


 入学早々で、暴力行為で警告を受けて校外学習の際に、学外で問題を起こして2枚目の警告を受けた。しかも、その2つに、僕たちは関わっているのだ。


 警戒するなと言う方が、無理がある。


「高梨さん、どう言う事でしょうか?」

「あのね、大海と莉緒も一緒でいいかな?」


 正直言って、ペア学習においては、部外者だ。


「何故でしょうか?」

「久しぶりに、話したいんだよ」


 石川くんが、声を振り絞って出してきた。


「そう言って、何かするつもりなんじゃないか?」

「そんな事は――」

「瑛太くん、落ち着きましょう。仕方がありませんね。学校近くの図書館でやりますよ」


 これ以上の口論は、こちら側に影響を受けかねない。ただ、彼らはただでさえ悪目立ちするのだ。だから、僕らが折れる事にした。


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