32.ペア学習
「おはようございます」
1年生のフロアは校舎の4階にあるため、殆どの生徒は、階段で昇り降りしている。
僕に関しては、特例で職員室横にあるエレベーターを使わせて貰っている。
ルールとしては、基本的に、僕と僕のサポートをしてくれる生徒の2人で乗ること。常識的な範囲を超える私的な利用の禁止を言い渡されている。
「おう、詩季おはよ」
先に、登校していた陽翔くんは、瑛太くんたちと一緒に居た。そして、春乃さんもその輪に入っていたので、彼女の交流関係構築の手助けになったのなら嬉しい物だ。
「おはようございます、陽翔くんに、皆さん」
「よぉ、陽葵と2人で登校どうだった?」
「大変でしたよ~~陽翔くん、2日に1回は、一緒に登校しませんか?」
「大変そうに、見せてるけど、2日に1回は、2人での登校でいいんだなぁ?」
いやぁまぁ、僕と2人だったら陽葵さんが暴走しかねない問題はあるが、2人で居る事は苦ではない。むしろ、心地いいまで感じている。
ただ、陽翔くんとの時間も大事にしたいのだ。初めてできた同性のお友達なのだから。
「そう言えば、時間割が変更になったみたいよ、しきやん」
奈々さんに言われて、前の黒板を見ると、2時間目に予定されていた数学Aの授業が担当教諭の体調不良でお休みにより、1時間目の現代社会が、2時間続くことになったようだ。
「あらら、大変ですね」
ちなみに、守谷先生は、現代文の担当だったりする。
「おぉ~~席に、座れぇ~~」
守谷先生が、教室にやって来てHRが、開始となる。守谷先生は、チョークを持つと黒板に2つの連絡事項を書いてチョークをチョーク置き場に投げ捨てた。
「今日の連絡事項。読んどけぇ~~はい、朝のHR終わり」
そう言って、他クラスでは、担任教諭がHRを始めたばかりのタイミングで爆速で、朝のHRを終了させてしまった。
まぁ、長々と話を聞くよりは、端的に連絡事項を伝えてくれる守谷先生のHRは、クラス内で、かなり好評だったりする。
そこから、1時間目の開始まで授業準備をしてお手洗いも済ませたタイミングで丁度良く現代社会の担当教諭が到着して授業開始のチャイムが鳴ったので授業が、始まる。
今は、現代国家と民主政治の単元を行っている。
「今の単元は、ペア学習を行いたいと思います。ペアは私の方で、あみだくじで決めておきました!」
ハイテンションな女性教諭が、電子黒板に、ペアの組み分けを表示しだした。
春乃さんは、陽翔くんとペアだと表示された。これに関しては、春乃さんが、交流関係の構築中である中、いい機会だと思う。
瑛太くんは、クラスメイトの他の男子とペアになり、陽葵さんは、奈々さんとペアになっていた。
あみだくじだが、基本的に校外学習の班メンバーで、ペアに、なっているだから本当に、したのかと思ってしまう。ただ、交流関係が良好な人同士をペアとしたとも思える。
だけど、瑛太くんが、クラスメイトの男子とペアになっていたり、僕のペアの相手を見て、本当にあみだくじをしていたんだなぁと、確信を持てる。
『 ㉔ 白村詩季 高梨琴葉 』
24番目のペアは、僕と高梨さんだと表示された。
一瞬にして、陽葵さんたちに、緊張が走った。
「それでは、ペアごとに指定された席に移動してください」
電子黒板にペア番号が書かれた席に、移動するように促された。
「詩季くん」
陽葵さんが、心配そうに、僕の顔を見て来た。近くには、皆が居る。
心配してくれている事が、嬉しい。それに、今回のペアに関しては、関係性を精査する上で丁度いい機会になるかもしれない。
「あ、すみません。今、移動しますね」
この席を使うペアが来たので、移動する事にする。
僕の分の教材は、陽葵さんが、持ってくれている。
あと少し、杖で歩くことに慣れたら、肩に掛けるタイプのバックに教材類をいれて移動できるかもしれないが、今は、もしこけた時のために片手だけでも自由にしておきたい。
「――詩季」
先に、高梨さんが、㉔ペアの指定された席に座っていたので、隣に腰かける。
「詩季くん、ここ置くね」
「ありがとうございます、陽葵さん」
陽葵さんは、尚も心配そうな表情で自分のペアのもとに移動していく。
「ね、ねぇ、詩季――」
「先生の説明が始まりますので、取り敢えず聞きましょうか」
先生の説明が始まった。
プリントが配られ、概要に則って説明を始めた。
今回のペア学習は、皆の前で発表はしないが調べた内容を教諭に提出してそれを評価すると言う。そして、題材は、世界にある政治体制に関してだそうだ。
A3サイズの用紙に、まとめて次回、木曜日の授業で提出だそうだ。
お題自体は、簡単だった。
インターネットが普及している現代。調べれば、及第点のレポートを提出することは、出来る。しかし、及第点以上を取るには、さらに奥深くまで調べないといけない。
1人ならいくらでも出来るが、今回の学習の狙いからすると――かなり、難しいな。
「君たちは2時間も調べる時間もあるんだから、しっかり調べろよ。図書室も利用可能だ。ただし、移動する前に申告して移動すること」
嫌味のように聞こえるが、壁新聞で幼馴染の班の出来栄えを見てしまった先生は、釘を刺してくるだろう。
「期間は、今日も含めて4日ですか。余裕ですね」
「ねぇ、詩季――」
「では、高梨さん。あなたは、ここを調べて下さい」
「話を――」
高梨さんは、何やら話をしようとしている。
腐っても10年近く関わって来た人間だ。今、何を言いたがっているのか位想像が、付く。
「なんですか?」
「ねぇ、何で、何も言ってくれなかったの」
「何のことですか?」
何なんだ。振った男に対して執着心を見せているこの女は。僕に、魅力を感じなかったから振ったのだろうに。
「あ、あし――」
「授業に、関係の無い事ですね。では、僕が言った所を調べてください」
僕は、授業中は、私的な話は受け付けないという意思も込めて、再度、ここを調べるように高梨さんに言った。
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