31.楽しくするには?

 週が明けた月曜日。


 洗面所で、顔を洗い終えて、リビングに移動する。


 陽葵さんは、学校がある日の朝は、当たり前のように家に来ている。


「あれ、陽翔くん、今日は来ていないんですか?」


 いつもなら、陽翔くんも一緒に来ていたのだが、今日は居ない。もしかしたら、風邪でも引いてしまったのかもしれない。


 陽翔くんは、来れない日とかは、前日とかに、言われていたが、今回は、無かったのだ。


「今日は――」

「まさか、置いて来たとかですか?」

「そんなんじゃないよ!」


 土曜日の1件もあったので、またもや陽葵さんの策略に、ハマってしまったのかもしれないと思ったが、そうでは無いようだ。

 あの陽翔くんが、何度も陽葵さんの策略にはまるとも思えないので、何故、来ていないのだろう。


「陽翔は、瑛太くんと奈々さんと一緒に、学校に行くんだって」

「そうなんですね」


 陽葵さんと会話しながら、僕は、陽葵さんが立っている前にある椅子に腰かける。 


 前の机には、鏡が置いてあり隣に、置いてあるブラシを取って髪を梳いてくれる。


 学校に行く日の朝は、こうして陽葵さんに、髪を梳いてもらってから結ってもらうことが、ルーティンとなっている。


 土日などは、自分で髪の手入れをして後ろに、1つに束ねるポニーテールの髪型にしている。

 この前、西原さんのお家に行く際は、陽葵さんに髪をやってもらってから家を出ていた。


 両サイドの髪を三つ編みにして後ろで束ねる髪型を、僕は、かなり気に入っている。それに、陽葵さんに髪を梳いてもらっている感覚が、かなり病み付きなのだ。


 身体のスタミナが回復した時には、美容院に行って散髪をしようと思っているが、当分は、陽葵さんに髪をしてもらうとするか。

 いや、陽葵さんに、頭を下げて散髪後も髪をやってもらうのもアリか。いや、流石に、それは引かれてしまうか。


 髪を結って貰ったら部屋に移動して、通学用のリュックを背負って玄関に移動する。


 基本的に、陽葵さんに僕のサポートは、「陽葵さん自身に、無理のない範囲で」とお願いしている。


 だから、陽葵さんは、自宅で朝食を摂ってから家に来るが、そのタイミングまでに、僕は、朝食を済ませて制服に着替えていて、後は、髪を結って貰うだけなので、お互いに、丁度いい距離感だと思う。


「では、行ってきます」


 陽葵さんと一緒に家を出て、学校に向かう。


「また、1週間始まったよぉ~~」


 学生・社会人問わずに、1週間の初めの月曜は、憂鬱に感じてしまう人が、殆どな物だ。

 僕も、陽葵さんたちと出会う前までは、そうだった。


「そうですか?僕は、陽葵さんたちと出会えるので、月曜は楽しいですよ。授業以外は――ですけど」

「ねぇ、それ、勉強のできる詩季くんが、1番言ったらいけないセリフだよ?」

「陽葵さんも出来るでしょう。高等部に上がる際の試験は、総合10位だったでしょうに」

「あはは、詩季くんが、本気だした事であっという間に、追い抜かれたよね」


 普段の言動から見ると、バカにしか見えない陽葵さんだが、学力は非常に優秀だ。まぁ、天才の僕には遠く及ばないですが。


「5月の中旬にある中間テストまでは、勉強に、勉強ですよぉ」

「ご要望が、あれば勉強を一緒にしますか?」

「うん!」


 5月の中旬は、高等部に上がってから、初の中間テストがある。


 テスト1週間前になれば、クラス中殺気立つだろう。


 僕の通っている高校は、50点以下を取ってしまうと補習で、放課後の時間がほとんど潰れてしまうのだ。


 それでいて、この学校のテストは、難しいと言うなのだから手に余る。


「高等部のテストは、どんなのかな?」

「難しいと聞きますからね」


 僕らは、実際に高等部のテストを受けたことが無いので、噂を元にした妄想の中で話しているだけに過ぎない。


 そいうなれば、テスト範囲が発表されれば、クラス中が、色々な感情が渦巻いて殺気立つだろう。


「でも、陽葵さんは、楽しみなんですね」

「えぇ〜〜楽しまないと損じゃない。僅か、3年の高校生活だよ」


 高校3年間をどう捉えるかは、人それぞれだと思うが、陽葵さんは、3年間を短いと思っているようだ。


「同意見ですね。高校生活は3年しかありません。この、3年間、本気で、楽しまないと今後の長い生活を楽しめないと思います」

「おぉ~~同じ考えを持っているという事は、私たちは、パートナーだぁ~~」

「そうですね。楽しむためにやる事は、何だかわかりますか?」


 何かをやっていて楽しそうな人の共通点。


「何をするかは、人、それぞれだけど――大前提に余裕を持つ事でしょ♪」

「うふふ、やっぱり、陽葵さんは気が付きますね」


 これは、引っ掛けを含めた問題だったが、陽葵さんは引っ掛かる事は無く平然と答えて見せた。


 今の僕たちは、保護者が、居るからこそ余裕を持っているだけだ。大人の世界に仲間入りした際は、僕たちは保護者の保護から解き放たれる。


 その際に、余裕を持てるかは、保護者に保護されている期間に、どれだけ努力をして余裕を持てるかだろう。


 それは、天才である僕も同じだ。


 入学式以降は、自宅から学校までは歩いて通っている。


 これも、陽葵さんたちのサポートがあってこそ出来ている事なので、本当に有難い。


「中間テストは、何位になれるかなぁ~~」

「僕は、主席をキープするために、全力を尽くしますよ」

「次の中間は、私も主席狙っちゃうよぉ~~」


 本当に楽しそうだ。


 陽葵さん1人だと暴走しないか心配だが、そこは、僕がストッパーになればいいだろう。主に、僕に対して暴走してくる陽葵さんをどう止めるかは、未定だが。


「陽葵さんには、無理だと思いますよ?」

「むぅ~~言ったなぁ!もし、私が、詩季くんに勝ったら何でも言う事1つ聞いてもらうから!」


 何ともべたな事を言ってきた。


 これも、これで面白いかもしれない。


 2人で登校する時間は、あっという間で、既に校門を潜っていた。


「よろしいでしょう。受けて立ちますよ」

「男の言葉に、二言は無いからね。約束だからね」


 僕と陽葵さんは、楽しく言い合いながら、校舎に入って行った。




〇〇〇


「え、詩季と西原陽葵さん。何で、2人で登校してるの……」

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