29.恋愛観

「陽葵。陽菜、部屋に連れて行くね」


 西原母が、ぐっすり眠っている陽菜ちゃんを抱っこした。


「詩季くんが、帰る少し前になったら起こしてあげよう。陽葵、2人でのんびり話したら?」


 西原母が、陽菜ちゃんをベットに寝かしに行った。


 やはり、育児のプロと言うのは凄い物だ。寝ている陽菜ちゃんを起こさないように、優しく抱っこしている。


「ねぇ、詩季くん。私の部屋に来て?」


 陽葵さんに、自室に誘われた。


「ここじゃ、ダメなんですか?」

「その、2人の空間でゆっくり話したいと言うか――」


 おままごとでの事もあるのかもしれない。


 同い歳の女の子の部屋に入るのは、緊張するが要望通り陽葵さんの部屋に移動する事にする。


「ベットに、座って」


 陽葵さんの指示通り、陽葵さんのベットに座る。


 高梨さんとお付き合いしていた時は、お部屋にお邪魔する事もあった。だが、その時には、感じなかった〖緊張〗という感情を抱いている。


 年頃の女の子らしい飾りつけをされている部屋に、いい匂いがする。壁には、中等部と高等部の制服が掛けられている。


「詩季くんは、中等部の制服まだとってあるの?」

「前の家で、僕の部屋だった場所のクローゼットの奥底に眠らせています」

「取ってはいるんだね」

「陽葵さん、少し、立ってくれませんか?」


 座って早々、陽葵さんに立ってもらった。


「羽衣とは、歳も近いし……大丈夫かな?」

「どしたの?」

「ん~~また、色々な事が、確定したら頼み事したいんだけど……不仕付けなお願いになるんだけど、中等部の制服と体操服取っておいてくれないですか?」

「なにぃ~~そう言う趣味でも――」


 本当に、陽翔くんというストッパー役が居ないと直ぐに、変なテンションになるのだから、僕がストッパー役にならないといけない。


「――あっいたぁ」


 陽葵さんのお凸に、優しくデコピンをしておいた。


「何するのさぁ、詩季くん」

「あなたは、誰かがストッパーにならないと、暴走しますからね」

「ちっ、陽翔を追い出したのに」


 今日1日で、陽翔くんが、物凄く可哀そうに思えた。


 何と言うか、妹に、雑に扱われている感じがとにかく可哀そうだ。僕が、羽衣にそうされたら、1週間はへこむ自信があるぞ。


「ねぇ、詩季くんはさぁ……高梨さんとどこまでいったの?」

「……それは、そう言う意味でいいですか?」


 男女交際において最終的な終着点は、結婚するか別れるかだ。


 そこまでに、デート・キス・Hなど色々な過程を踏んで、結婚か別れかを決めていく。


 陽葵さんが、聞きたいのは、その過程がどこまで行ったかだろう。


「うん」


 陽葵さんの表情を見て、これは、はぐらかしたらダメだなと判断した。もし、ここではぐらかしたら将来的に、陽葵さんとの関係性が相当拗れてしまう事が、直感的に予想出来た。


「天才の直感は、従っておくべきとも言うとか言わないとか言いますしね」

「どうしたの?」

「なんでもないです」


 こう言うときは、濁さずに直球的に話すしかない。


 高梨さんと交際していたという経歴は、消すことが出来ないのだから。


「キスまでです」


 高梨さんとは、キスまでだった。


 中学2年の秋頃に交際を始めて、中学3年の夏頃に、向こうから別れを言われた。


 約1年近いお付き合い期間だったが、その間、キスまでだった。


 石川くんと岡さんは、キスの先まで行ったらしいが、僕らは、行かなかった。瑛太くんと奈々さんカップルも既に、経験済みだろう。


 6人で遊んだ後の帰り際に、2人のどちらかの家に泊まりに行っていたりもしていた。


「そうなんだね。ところで、詩季くんはさぁ……」


 陽葵さんは、何だか大事な事を聞きたいが、本当に聞いていいものか躊躇っている部分もあるように見える。


 さっきの件も相当な覚悟を持って聞いてきたのだろう。


 今も、言葉に詰まっている。喉元まで出てきた言葉を発する勇気が少し足りないのだろう。


「大丈夫です。ゆっくり話してください」

「うん、詩季くんは、高梨さんとヨリを戻したいとかは、思わないの?」


 そりゃ、緊張するはずだ。


 もしかしたら、僕に嫌われる覚悟を持っていたのかもしれない。人によっては、聞かれたくない人も居る話だからだ。


 僕だって、出来るものならしたくない話だ。


 だが、陽葵さんになら話してもいいと思う。それに、僕が前に進むためには、徐々に、昔の関係性等を整理していかないといけないから。


「無いですね。僕の中で、1人の女性との男女交際は、1度だけだと思っています」

「――!!」


 途端に、陽葵さんは、嬉しそうな表情になったが、同時に、険しい表情にもなった。


 本当に、感情が表情に出る人だと思う。俗に言う、嘘をつけない人だ。


「それは、何で?」

「本気の男女交際じゃないからですかね。上手に言葉に表せなくて申し訳無いのですが」


 何とか、脳内にある語彙を集結させて、陽葵さんに説明を試みる。こればっかりは、勉強していい成績を残しても難しい。


 1組の男女が、1度、男女交際をしたとする。キッカケがあり別れたとする。


 別れた後、それぞれフリーになり別の異性と関わっていくことになる。


 そして、新たなパートナーを作ったり作らなかったりして、何かしらのキッカケで再度、カップル関係になる事は、僕の考えでは、無しだ。


「なんと言うか、1度別れて、もう1回付き合うのは妥協している感じがして嫌なんです」


 恋愛感は、人によりけりだと思う。


 だから、他人の恋愛感に関してとやかく言う気は、一切ない。


「そうなんだね」

「だって、1度別れると言うことは、その人が自分に合わないって思った理由が有ったということでしょう?」

「うん」


 陽葵さんは、僕の言うことに相槌を打って聞いてくれる。


「他の異性と接していてやっぱり元のパートナーが良いってのは、なんと言うか、嫌なんですよね。言葉にするのは難しいですけど」

「うん、何となく解ったよ」


 陽葵さんは、少し何か考えていた。


「頑張らないとな」

「どうかしましたか?」

「うんうん、こっちの話!」


 この時の陽葵さんは、今日1番の笑顔だった。



――――後書き――――


昨日、更新した分の裏話です(*'ω'*)


陽葵さんの猫に関しては、


陽菜ちゃん → 陽葵さん 「猫役なら詩季にぃちゃんとイチャイチャ出来るよ!」


この一言でノリノリに。


しかし、両親に盛られていた事で、羞恥心が増した。だが、完全におままごとの世界に入り込んだ陽菜ちゃんに猫役止める事は許されなかった。


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