28.おままごととオーバーキル?
「ごちそうさまでしたぁ~~」
陽菜ちゃんが、元気よく挨拶をした。
頂いた昼食は、オムライスだった。
西原母は、料理上手だ。これまで食べて来たて料理の中で1番だと思う。
ケッチャプライスは、お米の一粒一粒までケッチャプの味が染み渡っていて、卵も半熟で食べやすい焼き加減だった。
「おそまつさま!詩季くん、どうだった?」
「美味しかったです。何というか、こういった食事は久しぶりだったので、美味しかったですし、楽しかったです」
祖父母との食事は楽しい。だけど、西原さん一家との食事を共にして、両親と妹が、イギリスに行く前の食事風景を思い出した。
住環境が変わったことは、頭では慣れていたようだが、心では慣れていないという事だろう。
「静子さんと健三さんとは、上手く行って無いの?」
「そう言う訳じゃないんですけどね。祖父母には、感謝しています。何というか、思い出したんですよ、まだ、家族関係が上手く行っていた頃を……」
「詩季にぃちゃん?」
過去を思い出してしおらしい空気になるのは、良くないな。
陽菜ちゃんの前では、「面白くて遊んでくれる楽しいお兄ちゃん」の立ち位置に、居るべきだと思う。
「大丈夫ですよ。さぁ、おままごとをはじめましょう!」
「うん!」
食卓から、ジェンガをして遊んだ場所に移動すると陽菜ちゃんが、おままごとセットを持って来てくれた。
「パパ、おかえりぃ〜〜」
「ただいまぁ〜〜」
「にゃ〜にゃ〜」
おままごととしては、定番のパパが、仕事から帰ってきたという流れから始まった。
僕の脚に配慮してくれて、リビングのソファに腰掛けたまま、おままごとに参戦中だ。
目の前には、ママ役の陽菜ちゃんが立っていて、猫役の陽葵さんが四つん這いでいた。
何と言うか……僕に、ひれ伏しているみたいで、ある意味見ていて楽しいかもしれない。
「にゃ〜〜ご。ゴロにゃ〜〜ご」
陽葵さんは、おままごとにしては猫役になりきっている。猫の鳴き声が、かなりリアルだ。
そして、僕の隣付近に来て、スリスリをしようとしてくる。
いや、待て。
おままごとで、そこまでリアルにする必要は無いだろう。
と言うか、最初は、猫役に乗り気じゃなかったのに、今は、ノリノリだ。
「にゃ〜〜にゃ〜〜」
流石に、リアルに、スリスリをやられてしまっては、僕の平穏な心が乱されてしまうので、陽葵さんの肩を掴んで、スリスリをやらせないようにする。
「シャ~~!シャ~~!」
ガードにご不満な様子の陽葵さんは、猫が怒っている時に使う鳴き声で抗議してきた。そして、後方からは今日の朝に、祖父母から向けられた視線と同じ視線を感じる。
西原さんの両親から生暖かい視線を感じる。
身内から向けられるのも恥ずかしいが、これもまた、恥ずかしい。何とかして、陽葵さんに、気が付かせる必要があるだろう。
「シャ~~!ん?」
猫役になりきって、自己欲求を満たす事に、頭が一杯の陽葵さんに、後ろを指すと、その方向を見た。
陽葵さんは、直ぐに、頭がフリーズしてしまい、状況を把握した時には、顔がトマトのように真っ赤になっていた。
「シャうぅん」
一瞬で、借りていた猫のようになって、僕の隣に座ってしまった。
「やっとひまちゃんが大人しくなったね!ほんと、パパが好きなんだからぁ〜〜」
グサッ!
隣に座っている陽葵さんに見えない矢印が心を撃ち抜いてHPを削る音が聞こえた。
後ろでは、そんな陽葵さんを眺める西原両親の暖かな視線がある。
そして、無自覚で無邪気な小学1年生の攻撃は、留まる所を知らない。
「はぁ〜い、ご飯でしゅよぉ〜〜パパになでなでして貰ってから食べてねぇ〜〜」
グサッ!グサッ!
陽葵さんのHPが、0に近くなっているのが見える。主に、羞恥心による攻撃で。
おままごとの猫役に本気になって自己欲求を満たそうとしたら物凄いカウンターを食らっている。
「こぉ〜らぁ、頭、近づけないとよしよししてもらえないでしょ!」
羞恥心から頭を遠ざけようとした陽葵さんだったが、ママ役になりきっている陽菜ちゃんが、よしとしなかった。
「うぅ〜〜にゃん」
羞恥心が心を占めている陽葵さんは、もはや、猫語以外も話し始めている。
僕は、平穏な心を意識しながら陽葵さんの頭を数度撫でた。
ここで、要らぬ感情を覚えてはいけないと、本能が言っている。
「んにゃぁん」
どうやら、なでなでは、陽葵さんに、好評だったようだ。
「ほぉ〜んと、ひまちゃんは、パパが大好きなんだから、私にも同じぐらい甘えてよね!」
グサッ!グサッ!グサッ!
陽葵さんのHPは、0を優に超えた。
陽菜ちゃんは、無自覚に、陽葵さんをオーバーキルしている。
慰めの意味で、励ましてもいいかもしれないが、今の状況的に、僕からのオーバーキルは、しない方がいいだろう。
「ひ、ひなぁ〜〜。少し、休憩しよ?」
遂に、陽葵さんは、猫役になりきる事が出来なくなり、陽菜ちゃんに、白旗を振っていた。
しかし、おままごとモードに入っている陽菜ちゃんを止められる人は、ここには居ない。
「やだ、お姉ちゃん!猫!」
願いは、無情にも却下されてしまった。
「陽菜ちゃん、疲れたのですかね?」
「うん、詩季くんが、沢山遊んでくれたからね」
あの後、陽菜ちゃんの気が済むまでおままごとを行った。
疲れ果てた、陽菜ちゃんは陽葵さんの膝を枕にして眠っている。
オーバーキルで、HPが限界突破してしまった、陽葵さんは、ヤケになったのだろう。全力で猫役に徹していた。
それが、陽菜ちゃんのおままごと欲に、更に、火を付けたのは、言うまでもない。
結局の所、僕が何とか平穏な心を保つのにおままごとに参加しながら心の中で精神統一を並行して何とか保った。
「陽葵さん、疲れましたか?」
「――うん。色々と感情の限界が、突破しちゃいましたよ」
「小さい子は、限界を知らないですね」
同じ、妹を持つと言っても羽衣は、歳が近いのでこう言った遊びをした記憶がない。
「詩季くんは、妹さん居るんだっけ?」
「うん。顔覚えてるかな?」
「詩季くんの両親の近くに居た子だよね?めっちゃ可愛かった!」
「でしょ、自慢の妹ですよ」
恐らく、シスコンな兄だと思われているかも知れないがどう思おうが、気にしなくていいだろう。
可愛い妹を愛して何が悪ののか。
「その気持ち、わかるかも。歳に関しては、離れてるけど、自分を慕ってくれる姿見ると守りたくなるよね」
これなのだ。
この前、羽衣の久しぶり会った時、今までと変わらず、僕の事を慕ってくれていた。
それが、嬉しかった。
「陽葵。陽菜部屋に連れて行くね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます