22.風評被害

「お昼は、ファミレスでいい?」


 10時に、生田神社に到着して、現在12時30分を丁度過ぎた。


 夢中になっていて、奈々さんのお腹が、空腹を告げる音を発してスマホで時間を確認したらこんな時間なるまで、熱中していたようだ。


 僕たちは、生田神社を後にして昼食を食べに行く事にする。


 2時間半も、生田神社を散策していたが、本当に楽しかった。


 普段は、見に行けない所も見ることが出来たので非常に有意義な時間だったと思う。


 昼食は、学生に優しい値段設定の全国チェーン店のファミレスに行くことになった。


 ちなみに僕の水みくじの結果は、「凶」だった。陽葵さんは、「大吉」で、その他は、「吉」周辺で、散らばっていた。


 僕のおみくじの内容も、凶に見合った物がほとんどだった。


 昨年に、水みくじをやったら確実に、大凶を引いていただろう。


 運気は、今、確実に上がっている最中だろうと信じておくことにしよう。


 少しばかり歩いて、センター街にある目的のファミレスに、到着した。


 平日昼間の高校生の来店は、珍しいのか少しばかり店員さんが、驚いていたのは面白かった。


 6人での来店な事もあり、急遽席を作ってくださり、ソファ席に、陽翔くん・奈々さん・瑛太くんが座り、椅子席に、陽葵さん・僕・住吉さんが座る形になった。


 というか、この席配置が、このメンバーの定位置になりつつある。


「ねぇねぇ、何食べる」


 相も変わらず、元気な陽葵さんが、僕の前にメニュー表を置いてきた。


「住吉さんも遠慮なく見てくださいね」


 ソファ側と椅子側で、それぞれメニュー表を共有している。


「じゃ、僕は、マルゲリータピザにします」

「詩季くん、それだけで大丈夫?もっと食べないと大きくなれないよ?」

「陽葵さんは、僕の母親ですか?」


 他の男性陣は、プレートとセット物を頼んでいた中で、僕は、マルゲリータピザ1枚だけ。


 確かに、少ないと言われれば少ないように思えるが……。


 元々、小食気味だったのが、退院後には、更に、小食になっていた。心配した祖父母が、少しずつご飯の量を増やしてくれている。


「じゃ、このパンと生ハムのやつも食べます」

「それでも、少ないんだけどなぁ。仕方がない」

「だから、陽葵さんは、僕の母親ですか?」


 何だか、周り……主に、ソファ席に座っている人達から生温い視線を感じてしまうのは、気のせいかだろうか。


 いや、気のせいではない。


 むしろ、日常に頻発するイベントのように、見ている。


 注文を終えて料理の到着を待つ間に、午後、何処に行くかの相談した。


 生田神社に関しては、僕的には、十分に回ったので他のところでも大丈夫なのだ。


 だけど、集合時間もあるのであまり遠くには行けない。かと言って、お店に長居するのは、お店側に迷惑だ。


「お待たせしました!」


 注文していた料理が届いたので、話を切り上げてどんどん運ばれて来る料理を受け入れていく。


「最後、マルゲリータピザです!」

「ありがとうございます」


 6人分の料理を運んでくれた店員さんに、各々がお礼を言って、食べ始める。


 ファミレスのピザと言えば、切った状態で運ばれてくるのもあれば、お客さん自ら切る店もある。


 このファミレスは、自分で切るお店なので、僕としては、これが楽しみでもあるのだ。


「詩季くん、私が、切ってあげる」

「僕が切ります。切らせてください!」


 陽葵さんに、ピザをカットする楽しみを取られないように、ピザカッターを取って8等分にカットして食べ進める。






「ありがとうございましたぁ〜〜」


 お会計を済ませて、ファミレスを後にする。


 6人のお会計を個別にしてしまったら、お店の運営に迷惑が掛かるかもしれないので、陽翔くんに代金を渡して払ってもらった。


「集合時間まで1時間だし、ここら辺散歩しようか。詩季、そうするか?」


 陽翔くんの提案に、僕は、同意する。


 後付けで、僕の疲れ具合によって休憩しやすい所を中心に散歩をしようも言うことになった。


 センター街に、入ってのんびり歩いている。


 隣には、陽葵さんが、「私の定位置」と言わんばかりに、くっ付いている。


「なぁ、詩季あれ?」


 陽翔くんに言われた方向を見ると、見知った顔が大喧嘩をしていた。


「なぁ、全然、計画通りに行かへんやん!」

「仕方ないやろ。俺だって忙しかったねん!」

「そんなん、あんたがやらかしたからやんか!」


 ここが、人混みの中だとわからないのだろうか。


 巻き込まれないように、避けて歩く人。遠目で面白おかしく見ている人。子どもの視線を外そうとしている親。


 高校の制服を着て悪目立ちをしていたのは、僕の幼馴染達だった。声をあげて喧嘩していたのは、石川くんと岡さんだった。


「どうする?」


 陽翔くんが、どうするかを僕に尋ねて来た。


 正直な所で言うと関わりたく無かった。


 だけどだ。


 同じ制服を着ている以上、ここで僕たちが見て見ぬフリをすれば学校の評判を下げかねない。だから、慎重な対応をしないといけない。


 そして、班長である僕は、冷静な判断を心がけないといけない。


 大丈夫だ。天才の僕なら出来る。


「奈々さん、校外学習に関してのプリントに守谷先生の連絡先を書いていたと思いますので、連絡してください。守谷先生が無理でも近くで巡回している教員を至急で向かわせるように手配してください」

「わかった」

「陽葵さんと住吉さんは、この場に居て下さい。陽翔くんと瑛太くんは、一緒に来てくれますか」

「「「「了解」」」」


 僕の指示で、各々が行動を始めた。


「何をしているのですか、石川くんに岡さん」

「なんだよ!」


 石川くんは、イライラした表情で僕を見てきた。


「し、詩季」


 僕の存在に気がついた高梨さんが僕の名前を呼ぶと、幼馴染達は、僕の顔を見た。


「何をしているのですか。制服を着ているという事。この意味わかりますか?」

「な、なんだよ」

「何で、揉めているのか知りませんが、貴方達がここで騒ぎを起こせば、関係の無い生徒にまで風評被害が及ぶことを考えなさい」


 石川くんは、僕に、指摘されたのが気に食わなかったのだろうが、僕に近寄ろうとしてきたが、陽翔くんと瑛太くんが、僕の前に出てきた事で、動きを止めた。


「そもそも、お前が――」

「僕が何ですか?」


 石川くんが言いたい事は、ある程度予想がつく。


 この幼馴染達の関係性が上手く回っていたのは、僕のお陰だと自負出来る。


 現に、僕が抜けた幼馴染達は、こうも歯車が噛み合っていないように感じる。


「僕が何なのですか?」


 石川くんは、僕に何か言いたげな様子だったが、僕が彼の目を見た途端に、怯んだように大人しくなった。


「何が、言いたいようですが、場所を選びなさい。貴方、二度目の警告を受けたいのですか?」

「ううっ――」


 警告と言う単語に、石川くんは、更に大人しくなった。


「何が、あったんだ」

「おやおや、先生。予想よりも早い到着で」


 奈々さんに要請していた教員が到着したので、事情を説明してその場を離れる事にした。

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