21.水みくじ

「詩季くんのおなぁ〜〜りぃ〜〜」


 開口一番に、陽葵さんのおふざけが入ってきた。


 今日は、校外学習当日だ。


 先週の木曜日に、HRで何処に行くかの打ち合わせをして週明けの月曜に、校外学習に行く。


 中々のハードスケジュールな気もする。もう少し、新たなクラスに慣れさせて欲しい所だが、許してくれないようだ。


 現状――


・入学式当日に、班決め(水曜日)


・集会、HRの時間で班打ち合わせ(木曜日)


・校外学習当日(月曜日)


 こんな、過密日程の上で行われる校外学習なんてのは、中等部から上がってきた生徒が大多数を占めて、ある程度の交流関係が出来上がっていないと出来ないだろう。


 その反面、高等部から入学してきた生徒からしたら、出来上がっている交流関係の中で、かなり苦労するだろう。


 現に、住吉さんは、1人班が決まっていなかったし、他クラスでは、高等部から入ってきた者同士で同じ班になっている傾向が強い。


 まぁ、中には、抜群のコミュニケーション能力を発揮して中等部から上がってきた人達と同じ班になっている人も居るには居る。




 今は、クラスの集合場所である駅に着いた所だ。


 ここには、1組の他に2クラス程集まっている。


 西原母に、車で送ってもらったので、西原兄妹と同じ時間に到着した。


 既に、瑛太くん・奈々さん・住吉さんは、到着していたみたいで、重役出勤をした気分だ。


「皆さん、おはようございます」

「おう、3人セットさん。おはようございます」


 まだ、入学して1週間も経っていないのに、僕と西原兄妹は、3人セット扱いになっている。


「にしても、いつから、ひまりんは、詩季くんの下についたん?」

「えっへん。私は、下ではなく、対等なのだ!」

「……陽葵さんが部下は、嫌ですね」

「詩季くん、酷くない!?」


 本来なら、副班長がこの調子は少しばかり心配になってしまう。


 だけど、陽葵さんなら大丈夫だと思えてしまう。


 陽葵さんは、平常運転な様子でご機嫌も良さそうだ。


 まぁ、その反面、彼女のテンションの高さには、僕が被害を受けかねないのだが。


「白村班は、全員集合してるな」

「はい、若干1名ほど、頭おかしくキマっている女の子が居ますが、皆、元気ですよ」

「ねぇ、ちょっと詩季くん。誰のこと言ってんのかな?」


 陽葵さんに、優しい視線で睨まれている。周りは、そんな様子を微笑ましく見ている。


「2人は、仲が良いな。全員、集合したのを確認した。向かってよし!」


 守谷先生に、三宮に向かう許可を得られた事で、僕達は、電車に乗るために、改札機を通って行く。


「おはようございます……」


 今にも、死にそうな声を出しながら幼馴染達が、到着していた。


 そんな事は、気にせずに駅のホームに向かっていったのだ。






 

 僕達は、一礼をする。


 生田神社に到着して門の前で一礼をして入る。


「私、初詣やお祭り以外で来たの初めてかも」

「俺も」


 各々が、境内に入って周りを見渡している。


 初詣でや夏祭りなど人が、集まるタイミングでしか来ることが無いので、イベント事が無いタイミングで来ると、何か新鮮に感じる物がある。


「僕は、今日、生田神社の隅々まで回りたいと思います!」


 僕は、張り切っていたりもする。


 神社巡りは、大人になって自分の手でお金を稼ぐ事が出来るようになった時に、やりたかった事でもあるのだ。


「詩季くん、楽しそう!」

「それもそうですよ。これまで、色々あって来ることはあってもゆっくり見れませんでしたし」


 これまで、時間を見つけては、家の近所の神社回りはしていた。


 中学生になってからお小遣い制(中学2年からは、別方式)になった。


 だけど、中学生のお小遣いの額なら三宮まで来て1日ゆっくり生田神社を見て回るだけでお小遣いがピンチになるのだ。

 

「それに、生田神社は、色んな見所、あると思うんです!」

「そうだよな。普段は、手前までしか見ないけど、奥の方にも、色んな所あるよな」

「さっすが、陽翔くんです!」


 境内の地図を見ながら、話している。


 まずは、本殿に行って参拝する事にする。


 途中、階段を登らないといけない所もあったが、陽葵さんが手助けをしてくれた。


「ここ、水みくじあるみたいだから行かない?」


 陽葵さんが、提案した。僕と住吉さん以外の班員は、ニヤニヤと陽葵さんを眺めていた。


「縁結びの水占いみくじ所と言うみたいですね。面白そうですし、行ってみましょうか」


 僕達は、まず、授与所にて水みくじを購入して生田の森に向かう。


 生田の森に入り、目印となる立て札を探して歩いていく。


「先に、女性陣どうぞ」

「わぁ〜い!」

「奈々、はしゃぐと落ちるぞ」

「落ちないもぉ〜ん!」


 女性陣を先に、水みくじをさせに行く。場所が狭いので、6人一気だと危険だと判断した。


「皆で、一斉にみよ!」


 恋愛関係のおみくじとあって女性陣、特に、陽葵さんのテンションが、異様に高い。


「詩季くん、来て!」


 奈々さんと住吉さんが戻ってきて、陽葵さんに呼ばれた。


「行ってこい」

「そうや、俺らは後に行く」


 陽翔くんと瑛太くんにも言われて、陽葵さんの隣に移動する。


「詩季くん、しゃがむのしんどいでしょ?私がしてあげる」


 陽葵さんに、自分の分のおみくじを渡した。


「最後に、皆で見るよ。はい!あっ、私、見てないから!」

「わかってますよ」


 陽葵さんからくじを受け取り、陽翔くんと瑛太くんに、場所を譲り、全員が水につけ終えた。


「じゃ、いっせーのでで見るよ!」


 陽葵さんの元気な合図で、皆、水みくじを見た。

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