23.視点の違い

「これは、こうまとめたら良いと思います」


 住吉さんから提案された内容を僕は、頭の中で思案してみると、自分の考えに無かった発想だった。


「面白いですね、住吉さん。これでいきましょう。皆は、住吉さんの案に目を通して下さい」


 今日は、校外学習の翌日だ。


 6時間目の授業で、昨日行った校外学習のまとめ学習を行っている。内容としては、班で協力して壁新聞を制作するものだ。


 製作期間は、今週中で、今日と金曜日の6時間目の授業をコマ変更されて、総合Bの時間になる。


 壁新聞のレイアウトを決めて、誰が、何処の箇所を担当するかを決めたが、全体をどのようにまとめるかは、まだ決まっていなかった。


 一応は、これで良いんじゃないかと言う案は出ていたのだが、これは、全体と被る可能性があって面白くないと思っていた。


 その中で、住吉さんから示された案は、これまでにない視点での案だったので、僕は、即刻採用した。


 片や、僕に、即刻案を拒否された陽葵さんは、隣で拗ねていた。


「うぅ~~悔しいけど、春乃ちゃんの方が……いいよね」


 ここで、相手にうざ絡みをすることなく素直に相手を称える事の出来る姿勢は、尊敬に値すると思う。


「あ、ありがとうございます」

「春乃ちゃん、タメ口でいいよ。同い歳なんだし」


 そう言えば、住吉さんは、ずっと僕たちに敬語で話してきていた。


 名門校であるこの学校では、表面には現れない差別が生まれる事がある。中等部から高等部に上がった生徒を本血ほんけつ。高等部から入った異血いけつ。という差別が起こる事がある。


 今は、ほとんど無くなったが、数十年前までは、かなり酷いものだったようだ。その差別を無くすことも一つの目的として警告制度が生まれたと聞く。


 守谷先生を始めとする高等部の教員陣は、この差別が起こらないかを細心の注意を払っているのだ。


 守谷先生は、自身が担当するクラスで、顔は見たが名前までは覚えていない学年主任の先生は、学年全体でこの差別が起きないように注意を払っているのだ。


 恐らく、住吉さんもそれを警戒していたのだろうし、守谷先生は僕らの班の動向を気にしている事だろう。


 なんせ、入学成績の主席から3位まで居る班なのだから。


「でも、白村くんは――」

「あぁ、詩季くんは、中等部の頃に色々あって口調を丁寧語にしているだけだから気にしなくていいよ」

「そうです。僕のこの口調は、一種の覚悟を示すものなので。僕は、住吉さんと対等に仲良くなれたら良いと思っています。何故か、陽葵さんが答えたのには、納得出来ませんが……」

「あはは!」


 住吉さんは、班員の全員の顔を見ると嬉しそうな表情になった。


「わかった。よろしくね、詩季くん!」

「な、なにぃ~~~~」

「うるさいぞ、陽葵」

「よろしくですね、春乃さん」

「な、詩季くんまでぇ!?」

「ひまりん、うるさい」


 ようやく、住吉さん……いや、春乃さんは、僕たちに気を許してくれたようで、僕の事を名前にくん付けで呼んでくれた。


 これで、高等部から入って来た新しい子と本当の意味でお友達になれたと思う。


 良い日になった。


 ガラガラガラ。


「よぉ、生徒指導室1日間は、楽しかったか?ほれ、警告の反省文の用紙だ。石川は20枚。他は10枚だ。今回は、前回みたいに猶予は与えない。金曜までに書いてこい」


 教室の前方の扉が明けられて幼馴染3人衆が、教室に入って来た。


 昨日、先生に引き継いだ後に、僕も色々と聞かれたが、状況証拠と学校に写真付きで苦情のメールが複数件寄せられていたようで、僕達は白。幼馴染衆は黒という判定になった。


 ちなみに、僕たちが、行った行動のお陰で、学校の評判は可もなく不可もなくに落ち着いたらしい。


 今日1日、生徒指導室で生徒指導担当の先生にみっちりと叱られたのだろう。


 そして、入学して1週間程で、警告の嵐になっている幼馴染達にはクラス中から冷めた視線が注がれている。


 僕の班のメンバーは、春乃さん以外は事情を理解しているようで、皆と同じように冷めた視線を向けているが、春乃さんは、事情を理解していない様で、きょとんとしている。


「ゴホン!」


 僕は、クラス中に聞こえるようにわざとらしく咳をした。すると、クラス中の注目は、僕に、集まった。


「皆さん、他人の事を面白おかしく見る前に、目の前の事に集中しましょう」


 幼馴染達は、金曜までに大量の反省文に、壁新聞をやらないといけないのだ。それだけで、十分な制裁をうけているのに、クラス内でも孤立しかけている。


 まぁ、あいつらの自業自得なので、これ以上制裁を受けようが知ったことが無いが、彼らへの見せ物のようにした事で、こっちの壁新聞制作まで影響を受けてはいけない。


 そう、人間とは、自分より立ち位置が下の人間を見つけるとだらけてしまう傾向が強くなるのだ。それも、高等部に進学クラスで入学したこのクラスなら起こりやすい。


「皆さん、今やるべきことから目を離さないようにしましょう」


 僕の一言をキッカケに、周辺は壁新聞の制作に戻った。


「君たちも、やるべき事をしないさい」


 視線を感じてその場に立ちすくんでいた幼馴染達は、自分たちの席に戻って行った。守谷先生は、反省文用紙を渡した後に、壁新聞について説明していた。


「詩季くん、あの人達と何かあったの?」


 やっぱり、お友達になった春乃さんには、事情を話しておいた方が良いのかもしれない。


「皆さん、今日の放課後に学校近くの図書館に行きませんか?壁新聞の制作も含め、春乃さんに事情を説明するためにも」

「いいねぇ~~」

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