19.仇
入学式の翌日、普通の高校はどうか知らないが、僕の高校は、既に、授業が始まっている。
高等部の校舎案内等は、午前の1時間目と2時間目で終了して、3時間目から高校の範囲を始めている。
まぁ、基本、中等部から上がってきている生徒が大半なので、ほとんど影響は無いだろう。
ただ、高等部から入学してきた生徒には、少し厳しいシステムだと思う。
キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪
4時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
教科担任の先生が、教室を出た後は、各々、昼食タイムだ。
「ねぇ、し――」
「詩季くん、動ける?食堂行こうよ!あ、春乃ちゃんも一緒に行こ〜〜」
どうやら、高梨さんが、声を掛けてきていたみたいだが、陽葵さんが、遮った事で1歩下がったので、僕に対しての用件は、無いものと判断した。
高等部に上がってからのイツメンに、住吉さんも加わる事になるだろう。
校外学習の班で、食堂に向かうことにする。
「住吉さん、お弁当だったのですね。陽葵さんが、食堂に誘っちゃいましたが大丈夫ですか?」
「ううん、大丈夫だよ。お母さんが忙しい時は、食堂使う予定だったしオリエンテーションでも案内無かったから」
「そうですね。必要最低限度しか案内されませんでしたからね」
食堂に関しては、中等部と高等部で同じ所を使う。
中等部の頃は、基本は、食堂近くの購買でパンを買って食べていた。時折、高梨さんのお母さんが、僕の分のお弁当を作ってくれていたっけな。
「どんなメニューがあるの?」
「そうですね、1番のオススメは――」
「A定食だよ、春乃ちゃん!」
僕が答えようとすると、僕の右隣を歩いている陽葵さんが、僕を遮って答えた。
ちなみに、左側に、住吉さんが立っている。
後ろにいる3人からは、何か変な視線を送ってこられている気がするが――気にしてしまったら負けだ。
「A定食はね、主菜が日替わりなんだけどね、副菜が絶品なの!」
陽葵さんは、既に、住吉さんと打ち解けているようだ。
食堂に着いて、お弁当組が先に席を取っておいて、購入組が券売機の方に向かって行った。
ちなみに、僕は住吉さんと同じくお弁当組だったりする。奈々さんもお弁当組だ。
僕を中心にして、左右に、陽葵さんと住吉さんが座っている。
住吉さんの向かいに、奈々さんが座って西原兄妹と瑛太くんは、券売機へと向かい昼食を買ってきた。
詩季・住吉さん・奈々さん → お弁当
陽葵さん → かけうどん
陽翔くん → A定食
瑛太くん → カツカレーうどん付き
と言った感じになった。
「校外学習、どこに行く?詩季の事もあるし、一か所に集中していきたいよな」
やはり、話題の中心は、校外学習だ。陽翔くんが、どこに行くかの議題を出してきた。
「一応さぁ、今日の6時間目に話し合いの時間あるみたいだけど、今でも良いわけだし」
今日の5時間目に校外学習の全体説明会を行い、6時間目に、クラスHR教室で各班で話し合うことになっている。
そして、陽翔くんの昨日からの気遣いは、嬉しい。
守谷先生から、僕が入る班は、特例でのバス移動が認められているが、その事を1回も僕の前で話題に出してこない。
お友達になって、まだ日は浅いが、僕の事をよく見てくれているという事が嬉しくて仕方がない。
今僕は、新たな友達としての人付き合いが楽しくて仕方がない。
「バスとかは、使わないの?」
僕と知り合って、2日の住吉さんが、疑問に思ったのだろう。
「あ、白村くんが邪魔とか―—」
「大丈夫ですよ、住吉さん。ただ、僕がこの脚を言い訳に、特別扱いを受けたくないだけです。僕の我儘に付き合わせる形になるのは、申し訳ないんですけどね」
「そうなんだね」
「まぁ、陽葵さんたちには、沢山、助けてもらっていますけどね」
僕の我儘が強いと思う。
僕の我儘を受け入れるという事は、行動範囲を制限されてしまうという事だ。
「でもさぁ、行動範囲が狭いなら、そこでいっぱい楽しめばいいじゃん!」
陽葵さんが、胸を張って言った。
「まぁ、私が居れば、詩季くんは、難なく校外学習を乗り切ることができますとも!」
「陽翔くん、陽葵さんが張り切ってるの何か、怖いのですが――」
「すまん詩季。俺も怖い。何か、やらかしそうで」
「ちょっと、2人とも酷くない?!」
陽葵さんは、自然とグループの盛り上げ役に、落ち着いている。
「嘘ですよ。頼りにしてます」
「やったぁ〜〜詩季くんに頼りにされたぁ〜〜」
「やっぱり、心配ですね」
6人での昼食は、楽しい時間だった。
5時間目の校外学習に向けた集会も終わり、クラスルームでの班での話し合いの時間になった。
「岡・高梨・石川。お前ら何処の班に入るんだ?それとも、お前ら3人で班になるのか?」
どうやら、幼馴染3人だけが、まだ、何処の班に所属するか決まっていなかったようだ。
班員に関するプリントは、5時間目開始までに担任に、提出しないといけなかったはずなので、提出していなかったのだろう。
「あ、あの、詩季と――」
「白村なら既にほかの班に入る事になっている。それに、白村の班は、定員1杯だ」
「な、なぁ詩季」
石川くんが、助けを求めるように、僕を見て来た。
中等部時代は、何度も、石川くんを始めとする幼馴染たちの尻拭いをしてきた。
だけど、もう知らない。
彼らは、僕の頑張りに対して、仇を返してきたからだ。
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