17.生徒指導室

 今日は、高等部の入学式当日だ。


 先程、入学式を終え、HRを終えて帰宅の時間になったが、僕は、今生徒指導室に、担任の守谷先生と向かい合って座っている。


「白村……何で、呼ばれたかわかるな?」

「何ででしょうか?こんな、優等生を入学初日に、生徒指導室に呼び出すとは――もしかして、挨拶までの時間、舞台袖で陽葵さんと静かに楽しくしていたのがバレましたか?」


 僕の介助という名目で、僕の挨拶が終わるまで舞台袖で一緒に、陽葵さんが待機してくれていた。


 あまりうるさくしては、式の進行を妨害したとして、2人まとめて警告を喰らうのは、間違い無いので持ち込んだメモ帳で筆談で会話していた。


 何か、いけない会話をしているハラハラ感もあって、いつも以上に楽しかった事は覚えている。


 まぁ、案の定、2人きりというのをいい事にスカートの中を見せてこようと(もちろん、短パン履いている)したので、見せられる前にデコピンしておいた。


 陽葵さんの僕に対する警戒心の無さは、少しどうにかした方がいいと思うのです。


 僕も性欲のある男の子なので。


「何してたんだよ。まぁ、うるさくしてないから問題は無いけどな。それとは、別件だ」

「何でしょうか?――あ、もしかして、先生僕に気が――すみません、僕はノーマルですので――」

「白村、お前、1回黙ろうか。話が進まない」


 僕は、入学初日に生徒指導室に呼び出されるようなことをした覚えはない。なら、何で呼ばれたのか解らない。


「一体、何の要件でしょうか?」

「昨日、校門前での出来事を聞きたい」

「なるほど、そっちでしたか」

「一体、何だと思っていたんだ」


 納得した。


 校門の外での出来事なので、お咎め無しだと思っていたが、一応、事情を聞いておこうと言う所か。


「はい、そうですね。僕の家庭のいざこざです。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」


 ここは、潔く謝っておく事が大事だろう。下手に、言い訳をすれば、変に詮索をされかねない。


「まぁ、白村の家庭事情に関しては、中等部の先生から粗方聞いていてな。昨日の件とは、関係無しに1度話をしときたかったんだよ。あくまでキッカケだ。生徒指導室は、防音もしっかりしていて外に漏れる心配も無い」


 なるほどね、そういう事か。


 生徒指導室なのは、僕のプライベートを配慮してくれての事だった。


 なら、必要な情報に関しては、開示する必要があるだろう。


「ある程度の事情なら、白村の祖父母から聞いている。そこで、1つ確認だが、昨日、校門前に居たのは――」

「実の両親です」

「入校証に関しては――」

「僕は、絡んでいません。僕の保護者としては、祖父母の分しか貰ってませんから」


 教員として、学校の安全を守るという意味でもこれは、はっきりさせて起きたいのだろう。


 他人の入校証を使って学校に入るのは、列記とした校則違反であり、不法侵入という法律違反だ。


「恐らくですが、高梨さん・岡さん・石川さんの保護者のを借りたのでしょう」

「確かにな。昨日、白村の母親が首に掛けていた入校証は高梨のだったな」


 すると、守谷先生は、頭を下げてきた。


「すまなかった。白村は、白だと分かっていたが疑ってしまった」

「仕方がありませんよ。守谷先生は、教員として必要なお仕事をされただけですから」


 警備員さんは居るが、学校の治安を守るのも教員の役目だ。


 守谷先生は、先生として当たり前の仕事をしたに過ぎない。


 そこから、中等部の先生から引き継いでいる家庭の事情に関してのヒアリングを少々行い、僕は解放されるかと思ったがされなかった。


「お前、西原陽葵と付き合ってんのか?」

「いえ、お友達ですよ」

「まぁ、お付き合いするならドロドロな恋愛するなよ。これが、1番クラスが泥沼化する要因だからな」

「解ってます」


 これは、僕に対しての守谷先生からの忠告けいこくかもしれない。


 昨年の夏頃に、高梨さんと別れてから、まだ日が浅いのだ。僕は、その火種を持っているのだ。


「そう言えば、校外学習の班は決まったか?」


 4月の中頃に、校外学習がある。高等部に上がっていきなりだとは思うが、新たなクラスで団結力を高めようという意味合いらしい。


「先生に呼ばれたのですから余った所に、入れてもらうしかありませんね」

「――悪かったよ。でも、西原兄妹なら待っていてくれているんじゃないか?」

「だと良いんですけどね」


 今回の校外学習の行き先は、三宮だ。


 三宮で班別自由行動を1日行うと言う物で、各班で決めたテーマに沿った所に行かないといけない。


「今回の校外学習、白村は、気を付けろよ。主任からは、特例で白村が入る班の班員はバスの使用も認められている。費用は、学校が持つ」


 学校側からの配慮には、本当に感謝したい。


 右脚が不自由な僕が班に居るという事は、僕の移動スピードに合わせていたら、それだけで時間をロスしてしまう。


 なら、そんな存在と一緒の班になる事は敬遠されかねない。それを防ぐためにこう言った特例を設けてくれたのだろう。


「ご配慮に大変感謝致します。班員との相談にはなりますが、なるべくバスは使わない方向で行きたいと思っています」

「強いねぇ〜〜」


 僕は、生徒指導室を出て、荷物を取りにHR教室に向かう。


 陽葵さんは、僕の面談が終わるまで待ってくれているだろう。


 校外学習の班は、明日にでも話し合えばいいだろう。


「お待たせ致しました。では、帰り――」


 僕は、教室に居た人物を見て少しばかり驚いた。

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