13.嘘
「――詩季、やっと出てきた」
本当に、会いたくない人は、こうも会いたくないタイミングで出てくるのだろうか。
今日は、久しぶりに学校に来たりしたので早く家に帰ってゆっくり休みたいのだ。
「何でしょうか?」
「何でしょうかは、無いだろ。家族が日本に帰ってきたのに家に居ないとはどういう事だ?」
話し掛けて来たのは、僕の両親だ。
僕が、大怪我をしたのに、呑気にイギリスでお仕事をしていた両親だ。
両親だと思いたくないが、直接的に血の繋がりがある以上仕方がない。
「何ですか」
陽翔くんが、僕の前に出てきた。陽葵さんは、何時でも助けを呼べるように、両親には見えない位置にスマホを持って電源ボタンに親指を置いている。
「陽翔くん、後ろに下がって貰えますか?」
陽翔くんにお願いをする。
一応は、家族と子どものやり取りだ。陽翔くん達を必要以上に巻き込みたくは無い。
「僕、貴方方に、何か、悪いことでもしましたか?」
両親に悪い事なんてした覚えはない。むしろ、された側だと思っている。
さっき、自分たちが帰ってきたタイミングで、どうちゃらこうちゃら言っていたが、僕が大怪我を負って入院していた時に傍に居てくれなかったのはどっちだよと言う話だ。
1日だけでも、顔を見に来てくれたら、それだけでも嬉しかったのにだ。
西原さん一家は、最初は責任感からだったと思う。
だけど、接していくうちに、西原さん一家の人となりを知り、今では、家族同然のお付き合いになった。
「今までどこに居たんだ?」
「何故、答える必要があるのでしょうか?」
「俺たちが、どれだけ心配したのかわかってんのか!」
(じゃ、何で大怪我して入院した時は、僕の事を心配してくれないんだよ)
声には、出さないで心の中でそう思う。
今の父親は、自分本位に見えてしまう。
自分にとって都合の良い時だけ親ヅラして都合の悪い時は、見て見ぬふりをする。
いや、今ではなくずっとか。
イギリスに引越す事になった時、色んな理屈を捏ねて僕だけ日本に置いてきぼりにしたのも父親だ。
「――」
「何処で、何をしていた?」
「――」
「黙ってないで、答えなさい!」
「――」
僕は、何も喋らない。
この
だったら、必要な言葉を喋る時が来るまで黙っているのが正解だ。
「まぁいい。まずは、謝るのが先だろ?」
この
僕は、心の中で押し殺す事が出来なくなり、口に出して、この
「先に、謝るのはそっちですよ」
しかし、予想外の事が起きた。
我慢が出来なくなったので口調が荒れるかと思ったが、丁寧な口調のままだった。
(良かった。冷静なままだ)
これが、僕の心を落ち着かせるきっかけになったのだから不幸中の幸いだ。
「はぁ、何言ってる。謝るのはそっちだぁ?意味わからん」
ここも変わらないな。
短気で、自分の思い通りに物事が進まないとイライラを隠せない。
「大掛かりな嘘も吐いて」
「嘘ついてませんよ」
「は、杖をついて足が不自由アピールか?先生や学校の皆まで巻き込んで、恥ずかしくは無いのか」
あぁ、本当に何も知らないんだな。
僕の事を見てくれていないんだな。
僕は、今、どう言った感情を持っているだろう。
怒り?悲しみ?軽蔑?憎悪?
いや、これらの感情全てを併せ持って感じている。
言わば、
この感情は、絶対に表面に出してはいけない感情だ。
何とか、押し殺して話をしていかないといけない。
「信じないのは勝手ですけど――僕は、何一つ嘘をついてないです」
僕は、はっきりと言い放った。
何ひとつ嘘をついていないと。
幼馴染達だけでなく、
まぁ、いい。
僕の家族は、健じぃと静ばぁだけだ。
妹の羽衣とは、何処かで話したいと思うけど今は、その余裕はない。
「詩季、いい加減にしろ」
バタン!! カラカラ〜〜
痛い。
立てない。
最初は、状況を理解できなかったが少しの時間が経過したタイミングで状況を把握出来た。
「お前、いい加減にしろよ。陽葵、急いで詩季の手当を」
「わかった」
額から血が出ているのだろう。地面には血が流れている。
痛みを堪えて、顔を上げて状況を確認する。
陽翔くんが、僕の前に立って陽葵さんがしゃがんで上げた顔をおでこ部分に布を当てている。
「詩季くん大丈夫?」
「大丈夫では無いですね。血が出ていますし。とにかく杖を――」
「杖の前に手当しないと」
陽葵さんに支えられて、何とか状態を起こして額の応急処置を行う。
幸運な事に、額は擦り傷程度で済んでいるので病院には行かなくて良さそうだ。
「お、おい――」
「近づくな!」
「何事です――白村、大丈夫か!」
騒ぎを聞きつけたのだろう。守谷先生が、仕事道具を入れた買い物カゴを地面に落として近寄ってくる。
「守谷先生、大丈夫です。ただの擦り傷ですので」
「そうか」
守谷先生は、立ち上がると陽翔くんの前に立って陽翔くんを僕の傍まで下げさせた。
「今すぐ立ち去ってください。でないと警察を呼びます」
「ま、待ってください。私たちは、白村詩季の家族です」
父親が、機能不全になっているので母親が対応している。
「家族という証明が出来るなら、入校証を確認させて貰えますか――って、今、貴方方が付けているのは、他人のですね。これが、どういう意味かおわかりですよね」
守谷先生からは、生徒を守るという姿勢を感じられる。
「本当なんです。これ、公的な身分証――」
「すみませんが、他人の入校証を使っている時点で悪質と判断――」
「何ごとなの?」
声がした方を見ると、西原母が車から降りてきていた。
目の前の出来事に夢中で、車の音に気が付かなったみたいだ。
「お母さん! 詩季くん、車に乗ろう。陽翔」
「わかってるよ」
陽翔くんに、抱えられて急いで車に乗り込む。陽翔くんは、僕の隣に乗り込んだ。
陽葵さんが、守谷先生にアイコンタクトを取ってから助手席に乗り込み西原母が車を発進させた。
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