11.色んな表情

「詩季くん、大丈夫だった?」


 体育館に移動している最中に、陽葵さんがさっきの件を心配してきた。


 本当に、世話を焼く時は、とことん焼いてくる。親に甘やかされる事が少なかった僕にとってかなり新鮮だ。


「大丈夫ですよ。あの程度、どうって事ありません」


 嘘だ。


 本当は、少しばかりの怒りの感情を覚えているだけど、それを表に出してしまってはダメだ。


「ほんと?」

「本当です。心配してくれてありがとうございます」

「なら、いっか!」


 本当に、陽葵さんと居ると気持ちが落ち着く。


 心配をしてくれるが、必要以上に踏み込まないで、話してくれるのを待ってくれる。


 あまり、比べたくは無いが、高菜さんとは大違いだ。


「陽翔くんにも感謝ですね。荷物持ってもらってますし」


 陽翔くんは、僕の荷物を持って先に体育館に移動している。


「いいよ、陽翔のバカは、とことん使ってくれて」


 兄妹恐ろしや。


 そう言えば、久しぶりに妹の羽衣の顔を見たけど元気そうで何よりだ。どこかで、時間を作って話せないかなと思う。


 エレベーターに乗る。


 入学式が行われる体育館は、教室から少々距離がある。


 エレベーターを降りて体育館に繋がる渡り廊下を通ると、六甲山が目に入る。


「いい景色ですね」

「何度観ても、いい景色だよね」


 少しばかりの季節を感じて渡り廊下を渡り終える。


 僕の通う私立桜ヶ丘学院は、由緒正しき学校、いわゆる名門校と言うのやつだ。


 制服は、きちっと着ることが求められて、女子のスカート選択者の丈に関しては、東京方面に多いとされる膝上丈ではなく膝下丈と決められている。


 まぁ、元々、神戸地方の女子高生のスカート丈は同じようなものみたいだ。


「ねぇ〜〜詩季くん、どう、高等部の制服は?」


 陽葵さんが、クルッと回って見せた。


「似合っていますよ。スカート丈は、イジって無いんですね?」


 やはり、オシャレに敏感なお年頃とあって買ったばかりのスカートから校則ギリギリまでカットする生徒が多数を占めるようだ。


 なぜ、わかったかと言うと、スカートの丈の下の方に学校の紋章があり、カットする生徒は、そのギリギリをせめているみたいだ。


「うん、静子さんから、詩季は、清楚系が好きって聞いたから。それと――」


 バァッ!


 何時ぞやの光景を思い出す。


 陽葵さんが、スカートをめくって中を見せてきたのだ。


 まぁ、見せてくれると言うなら遠慮なく見させて貰うとするか。


 まぁ、体操ズボンをきっちり履いている。体操ズボンは、高等部仕様で、黒色に両足のサイドは、青色だ。

 春という事で、タイツを履いていない事だけが、前と違う。


 いや、それ処ではない。


 この後の返答の仕方で、会話の主導権が変わってくる。


「陽葵さん、陽翔くんへの報告か、学校側に報告して警告出してもらいましょうか?」

「あわわ、やめてぇ〜〜どっちもいや!ていうか、パンツ見せてる訳じゃないねんから良いやん!」


 慌ててスカートを元に戻した陽葵さんの反応は面白かった。


 この学校は、名門校だ。


 警告システムがある。


 重度の授業妨害や校則違反もそうだが、日本国の法律に触れる行為をした際にも出される。


 警告を出された際には、反省文の罰がある。反省文の枚数は、警告の数×10枚で提出期限は、3日以内。


 警告が3回出されると、1週間の謹慎(その間の単位は無し)。


 4回出されると1ヶ月の謹慎(勿論、単位無し)。


 5回で、退学処分となる。


 今は、無くなったが、昔に関しては、家柄同士のいざこざが絶えず起こっていた時に警告制度を導入して治安が安定したようだ。


 つまり、この学校の高等部以降の生徒にとってこの警告の回数は、用心深くなおかつ繊細な問題なのだ。


「体操ズボンだとしても、女性がスカートの中を異性に見せる行為が、まずいと思いますよ?」

「むぅ〜〜堅いなぁ〜〜詩季くんだってチラ見するふりしてガン見してたじゃん?」


 何としても会話の主導権が欲しいのか、はたまた、僕をからかって遊んでいるのか。


「僕も男の子ですからね。そう言うのが気になるお年頃です」

「ほらぁ〜〜やっぱりぃ〜〜」


 ダメだ。


 返答を間違えたらしい。


 陽葵さんが、調子に乗りかけている。本当に、2人きりになったタイミングだと陽葵さんのおふざけ度合いが格段に上がるのは何故なのか。


「もしもし、陽翔くんですか?」


 僕は、スマホを取り出して耳に当てる。


「あわわ、マジやめてぇ〜〜」


 陽葵さんの慌てようが本当に面白い。これも、散々からかってくれたお返しだ。


 まぁ、本当に電話している訳では無いのだが。軽くはったりをかましただけなのに、こうも面白い反応を見せるとは。


「電話してませんよ。陽葵さん、面白い反応見せますね」

「むぅ〜〜何か、本当に、悔しいんだけど!」


 頬っぺがお餅のように膨らませながら見てくる。


「あぁ、陽葵さんの制服姿、素敵ですよ」

「なな、急には言わないでよ!」


 そして、今度は耳まで真っ赤にして慌てふためいている。


 本当に陽葵さんは、色んな表情を見せてくれるので面白い。


「陽葵さん」

「なに?」


 狙っているのか?


 キョとんとした表情で上目遣いで覗いてくる。


「これから、仲良くしてくださいね」

「もっちろん。死ぬまで、仲良くするよ!」

「長すぎませんか?」

「一緒のお墓に入るから!」

「重すぎませんか?」


 陽葵さんからは、「連れないなぁ〜〜」という言葉と表情を向けられた。


「鈍感!」


 最後に、とびっきりの笑顔を向けられた。


 本当に、感情豊かな女の子だ。

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