10.再会~羽衣Ver~②
詩季にぃさんが、先生に名前を呼ばれて立ち上がった。
しかし、その姿を見て、私達家族や琴葉ねぇさん達は、目を疑った。
立ち上がった生徒は、お父さんが転けさせた髪が長い男の子。
杖をつきながら、教卓の方へゆっくりと歩みを進めていた。
私の感じていた予感は、あっていた。
声を聞いて、詩季にぃさんに似ていた。
背中から漂う雰囲気が似ていた。
だけど、大好きな詩季にぃさんだと確信が持てなかった。
足が不自由なのか杖をついている。髪が伸びて三つ編みを後ろで束ねて頭に、白色のベレー帽を被っている。
最後に会った時から、容姿が変わりすぎていたのだ。
だけど、先生に呼ばれて立ち上がった生徒をは、間違いなく詩季にぃさんだ。
私は、足が宙に浮いているかの感覚に襲われている。
本当だった。
詩季にぃさんは、嘘を吐いていなかった。
罪悪感?虚無感?
私は、言葉にできない感情を抱いている。
教卓の前に、立った詩季にぃさんは、教室全体を見回していた。
私と目が合った。
ニコ♪
一瞬、詩季にぃさんが笑った。
確信を持てた。
あの笑顔は、詩季にぃさんだ。私に向けてくれる優しい笑顔だ。
私の記憶の中にある笑顔と一致した。
「皆さん、おはようございます。白村詩季と申します。中等部から上がってきた人は、お久しぶりです。高等部から入学の人は、初めましてですね」
口調も変わっていた。
以前は、砕けた口調だったのが、今では丁寧な口調になっている。
「ご覧のように、脚が悪いので行事事などでご迷惑をお掛けするかもしれませんが、高校3年間よろしくお願いします」
「OK。白村、ありがとうな」
詩季にぃさんは、ゆっくりと自分の席に戻っていた。
「さっきも白村自身が言っていたが、脚が悪い。杖が無いと歩行が困難になる。だから白村とすれ違う際には、要注意だ」
先生が、詩季にぃさんに関しての注意を行っていた。
すれ違う際には、詩季にぃさんの杖を蹴飛ばさないようにだとか、移動の際に、困っている様子を見かけたら助けてあげるようにとか。
すれ違った際の注意を聞いた際には、お父さんの表情がかなり曇っていた。
そこから、明日の入学式に関しての説明が20分程行われ、新学年特有の通学路や生徒の体調等に、関する書類を先生から生徒に配布して、今日の全体としての流れは、おしまいのようだ。
「んじゃ、今日は解散になるが、新入生総代の白村は、明日の打ち合わせがあるから残ってくれ」
「かしこまりました」
「それじゃまた明日な」
先生の合図で、琴葉ねぇさんたち以外の生徒で、高等部からの入学した人は、下校して行き中等部から上がって来た人は詩季にぃさんに話しかけていた。
「復帰おめでと、待ってたで!」
「白村くん、何か手伝える事があったら言ってね」
「ありがとうございます。困った時は、よろしくお願いしますね」
詩季にぃさんの周りには、人が沢山居る。
私たちは、話し掛けるタイミングを掴めずにいたが、お父さんが動き出した。
「行くぞ」
お父さんに続いてお母さんと私、その後ろに琴葉ねぇさん達が付いて詩季にぃさんの元に行こうとする。
詩季にぃさんの近くに来たタイミングで、さっきまで、詩季にぃさんの周りにいた男の子2人が私たちの前に立ち塞がった。
「詩季に何の用ですか」
「また、さっきみたいに暴力――振るうおつもりですか?」
明らかに敵対心を向けてきている。
「おい、陽翔に、瑛太、この人は、詩季のお父さんだよ」
顔見知りの大海にぃさんが、事情を説明するが警戒心を解く素振りは、見えない。
「は?そんな訳ねぇよ。こいつ、詩季の杖を蹴飛ばして転けさせておいて我関せずな態度だったんだぞ?実の親なら心配して駆け寄るよな?」
瑛太さんと言う人が、お父さんを指差しながら攻撃性の感情を含んだ言葉を投げかけた。
「そ、それは、詩季だとは思わなくて――」
「へぇ〜〜容姿が変わってたから分かりませんでしたか?自分も子どもやらせて貰ってますけど、容姿が変わった程度で親に認知されないなんて寂しいですね?」
「お前、いい加減に――」
大海にぃさんが、瑛太さんの胸倉を掴んだ。慌てた、莉緒ねぇさんが止めに入る。
瑛太さんと言うの人は、凄い。
自分より2回り近く年上の人に対して物怖じをせずに立ち向かっている。
そこには、詩季にぃさんを守るという意思が込められているように見える。
「瑛太くん、もういいですよ。これ以上うるさくしたら高等部に上がって早々に、警告を喰らってしまいます」
2人を制止するかのように、詩季にぃさんは、立ち上がって封筒を持って静ばぁの前まで歩いていった。
その隣には、付き添うように、綺麗な女性がいた。
「静ばぁ、これ大事な書類です。記入お願いします。この後は見て行きますか?」
やっぱり詩季にぃさんだ。
人見知りな所がある静ばぁが、笑顔で受け答えしているのだ。
「な、何ですかこれは!」
私が声を掛けるなら今だと思ったが、背後から大きな声が聞こえて来たことで、ビックリしてしまった。
声の主は、大海にぃさん。
いや、そんな場合では無い。詩季にぃさんだ。
さっきまで、詩季にぃさんが居た所を見るが、詩季にぃさんは、さっきの綺麗な女性の人と陽翔さんと共に、教室を後にしていた。
「まさか、入学式前に、警告を出す羽目になるとは思わなかったよ、石川。中等部の先生の見立ては正しかったんだな」
大海にぃさんが、学校から警告と言うのを受けたらしい。
そう言えば、詩季にぃさんも瑛太さんに対して、警告どうこう言っていた気がする。
「HR中の進行妨害に、さっきの小原に対する暴力行為。今日だけで、2度も問題を起こしたな?1度は、見逃してもいいと思ったが、2度目は無理だ。」
すると、先生が大海にぃさんに10枚程の作文用紙を手渡した。
「こ、これは――?」
「今回の警告に対する反省文だ。期日は、来週1杯まで特別に待ってやる。本当は、3日以内なんだがな。入学式とかでバタバタするからな。もし、期日に遅れたら2枚目の警告を出す」
淡々と冷酷に、業務連絡をするかのように説明をする先生。
1度だけ見た中等部の先生とは大きく違う。
「ほんじゃ、期日に遅れるなよ〜〜」
先生は、教室を後にして行った。
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