9. 再会~羽衣Ver~
「おはようございます」
家に、琴葉ねぇさん達が来た。
「おはよ、入って」
今日は、詩季にぃさんや琴葉ねぇさん達が通う学校の高等部のクラス分け発表の日だ。
以前の情報で、詩季にぃさんは、この日から旅から帰って来て学校に登校するみたいだ。
「これ、学校の入館証です」
琴葉ねぇから、学校の入館証を手渡された。
何時もなら学校から渡して貰えるのだが、今回は詩季にぃさんが、既に受け取ってしまっているので、お父さんとお母さんに私の分が無いのだ。
だから、琴葉ねぇさんや莉緒ねぇさん、大海にぃさんのお家から借りる事になった。
「ありがと、助かるよ。詩季には、会ったらキツく言っとくから」
「お父さん、詩季にぃさんを怒らないで」
「羽衣、何か事情があるにしても他人に迷惑を掛けたらダメだよね」
「うん」
詩季にぃさんが、事情もなく姿を消すなんて考えられない。
きっと何かしらの事情があるに違いない。私たちが、イギリスで過ごしている間に、何かあったのかもしれない。
だから、詩季にぃさんの事を怒らないで欲しかった。怒ってしまえば、確実に詩季にぃさんは、私たちを拒絶してくるかもしれない。
「でも、お父さん――」
「羽衣、こんなにも周りの人に迷惑を掛けているんだよ。詩季は、悪い事をしたんだよ」
そんな訳無い。
何か事情があるに違いない。
詩季にぃさんは、そんな不義理をするような人じゃない。
そんな私の想いは、お父さんは聞いてくれない。
お父さんが、嘘だと流した事が、本当だったとしたらと考えると、身体の体温が一気に下がる程に、寒気がする。
「羽衣、こっちおいで」
お母さんに呼ばれて、2階の部屋に移動した。
「羽衣、どうしたの」
「詩季にぃさんが、居ないのは何か事情があると思うの」
私は、お母さんに自分の考えをぶつける。
「確証は無いよ。無いけどね――」
「詩季が、何も告げずに旅に出るとは、思わない」
お母さんは、私の言いたいことを理解したようだが、少し違う。
詩季にぃさんが旅に出たとは、思えない。
だって、昨日、部屋のクローゼットにキャリーケースなど大荷物を入れられるカバン類があったからだ。
「少し、違う。詩季にぃさん、旅なんて出てないと思う。昨日部屋見たら、キャリーケースとか置いてあった」
お母さんが、慌てて詩季にぃさんの部屋を確認して戻ってくる。
「確かに、置きっぱなし。どういう事。新たに買った――いや、詩季の物欲的にまだ使えるのに新しいのは買わないはず」
どうやら、お母さんも違和感に気が付いてくれたようだ。
「だから、何かしら事情があると思うの。詩季にぃさんが行方を晦ましてるのは。だから、再会した時に、詩季にぃさんの話を聞いてあげて欲しいの」
「そうだね。今のお父さんは、話を聞かないから。再会した時に、何とかする」
「ありがとう、お母さん」
お母さんが、味方に付いてくれたのは本当に心強い。
「お〜い、学校に行くぞ」
お父さんに呼ばれたので、車に乗り込んで学校に向かう事にした。
私たちは、集合開始時間ピッタリに登校した。
今日は、8時から8時30分の間に登校しないといけない。
8時に登校して、広間に掲示されているクラス分けを確認した。
詩季にぃさんと琴葉ねぇさん達は、全員同じ進学クラスに振り分けられていたのを確認して教室に移動する。
「お母さん」
「わかってる」
お母さんに今朝の事を忘れていない事を確認して歩いていく。
お父さんは、琴葉ねぇさん達と楽しくお話しているようだった。
ドスン!
聞き心地の良くない音が、廊下に響いた。
1人の男の子?女の子か分からない子が倒れている。その近くに、杖も転がっていた。
髪が長いが、ズボンを履いている。
今は、女子生徒もスラックスを選べるので性別の判断が難しい。
倒れた子の近くを歩いていた女の子が、心配した様子を見せていたので、その子は女の子だと思う。
「おっと、ごめんなぁ~~大丈夫よな?」
お父さんに、ガッカリした。
自分が原因で、足が不自由な女の子をこけさせたのに、友達と雑談するような話し方で接していた。手の1つでも貸してあげるべきだと思う。
「大丈夫ですよ」
声を聞いて解った。
倒れた子は、女の子でなく男の子であるという事が。
ん?
私は、何か引っかかった。
聞き覚えのある声だった。
私が、倒れた男の子に声を掛けようと思った時には、杖をつきながら女の子に支えられながら歩いていた。
「羽衣、行くぞ」
お父さんに呼ばれるが、私は、男の子の背中が気になっていた。
背中から漂う雰囲気もやはり、似ている様に感じる。
教室に入ると、クラス分け発表の際に、個人の名前の隣に記されてあった席番号を確認して座っていた。
保護者は、後方または、廊下で立っていないといけないので、私達は、琴葉ねぇさん達の近くの後方に立っている。
奇跡的に、幼馴染が固まって座っていたので、もしかしたら、詩季にぃさんも近くなのかもしれない。
クラスには、進学クラスに振り分けられた生徒がどんどんとクラスに入ってくる。
しかし、詩季にぃさんの姿は見えない。
先程、お父さんが転かしてしまった子も進学クラスだったようで杖を席に引っ掛けて座っている。
やはり、あの子からは、詩季にぃさんに近い雰囲気を感じる。
「おう、瑛太おはよ!」
「ん、あぁおはよ」
「んだよ。つれない返事だな」
大海にぃさんは、お友達と一緒のクラスだったようで話しかけていたが、何だが気まずそうな雰囲気だ。
クラスの席が全て埋まった。
おかしい。
クラス名簿では、同じクラスだったのに姿が見当たらない。
やっぱり、杖をついていたあの子が詩季にぃさんだったりして。
お父さんもお母さんは、もちろんだが琴葉ねぇさんも動揺を隠せずキョロキョロとしていた。
「すみません、ここいいですかな」
聞き慣れた声を久しぶりに聞いた。
お母さんが、声の方向を向いた。
「お父さん・お母さん」
「お義父さん・お義母さん」
「健じぃ・静ばぁ」
予想外の人物の登場に、驚いた。
母方の祖父母が教室に入ってきたのだ。首から入校証をぶら下げて。
「どうしてここに居るの?入校証は、どうしたの?」
お母さんが、話しかけている。後ろで、お父さんが興味津々に、様子を伺っている。
「そんなもん、詩季に貰った他に入手ルートあると思うか。保護者だからなわしらは。それに、ここは教室じゃ。うるさくするなら帰れ」
健じぃは、お母さんに話しかけられた瞬間から機嫌が悪そうだ。
私も、健じぃが、私たちの前でここまで不機嫌なのは見た事が無い。
ガラガラ〜〜
前方扉が開けられて、担任の先生が入ってきた。名簿で見ていた名前は把握していた。
「おはようございます。
20代中盤辺りの若い男性の先生だ。
「皆さんと勉学と共に――なんて堅苦しい挨拶はやめにしようか。とりあえず、首席で高等部に入って来た人に一言挨拶してもらおうか」
「おう、瑛太かましたれ!」
大海にぃさんが、瑛太さん?(苗字知らない)を煽っていたが、反応していない。
「評判通り、うるさい生徒ですね、石川くん。先生の話は最後まで聞きましょう」
「そうだぞ、石川。中学までとは違うんやで」
「すみません」
先生に、瑛太さんに、注意された大海にぃさんはら大人しく席に座った。
「それでは、首席の白村詩季くん。一言お願いします」
「わかりました」
先生が、詩季にぃさんの名前を呼び立ち上がった生徒を見て、私たちは、目を疑ってしまった。
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