8.再開~詩季Ver~

「詩季くん、髪、結ってあげるからここに座って!」

「おい、陽葵。時間あるんだからゆっくりしてあげな」


 今日も今日で、陽葵さんは、朝の6時30分に家に来ていた。今日は、陽翔くんも一緒だ。


 ちなみに、僕は6時に起きていた。


 二人が来たのは、朝食を食べ終えたタイミングだった。


 制服に着替え終わって、タイミングで髪を整えてくれるようだ。いや、結ってくれると言っていたので昨日と同じ髪型にするのだろうか。それとも、別の髪型にしてくれるのか。


「いいよ、陽翔くん。では、陽葵さん。お願いします」


 椅子に座ると陽葵さんは、後ろにやって来て、ブラシを使って髪を梳きだした。


「昨日と同じで良い?」


 良かった。髪型は選ばしてくれるようだ。


「昨日と同じでお願いします。後、解き方も教えてください」

「え、何で?」

「陽葵さん、僕は男の子で三つ編みの解き方とか全くわからないのですよ。昨日も、お風呂入る前に、解き方わからなくて、手間取ったんだから」


 昨日、三つ編みを後ろで結う髪型で1日過ごしたが、お風呂に入る前に、解き方が解らず、静ばぁに手伝って貰って何とか解けたのだ。


「ひ~ま~り~?」

「ごめん、ごめん、しっかり教えるからぁ~~」


 陽葵さんもうっかり忘れていただけで、怒ってはいない。


 むしろ、陽葵さんに髪を結って貰った方が過ごしやすい。


「はい、出来た!」


 昨日と同じ髪型にして貰った。


 時間は、7時20分過ぎ。


 登校は、8時30分までに行かないといけない。


 7時45分に、西原母が、車で迎えに来てくれる事になっている。


 足が不自由になってしまったので、車で送って貰えるのは本当に有難い。


 西原母からは、毎日でも送り迎えすると言ってくれたが、僕は、丁重にお断りした。


だけど、行事など保護者同伴で学校に行ける際には送り迎えをさせて欲しいと言われたので、そこは、お言葉に甘える事にした。


「詩季、これあげる」


 静ばぁは、白色のベレー帽を手渡してきた。


「静ばぁが大事に使ってるやつですね」

「お守りがわり」

「わかりました」


 僕は、静ばぁから貰った白色のベレー帽を被った。


 その時。


 ブー♪ブー♪ブー♪


「お母さん、到着したって」

「では、学校に向かいましょうか」


 荷物は、陽翔くんが持ってくれた。


 僕は、杖を器用につきながら、家を出て車に乗り飲んだ。


「おはようございます」

「詩季くん、おはよう。陽葵に髪遊ばれてるね」

「いえいえ、伸びていたので楽になりましたので感謝です」


 西原母にも、髪型をイジられてしまったが悪い気はしない。


 僕の隣には、陽葵さんが座って助手席に、陽翔くんが座って学校に向かう。


「詩季、私達も後で学校に向かうから」

「無理しなくていいよ?」

「無理してないから。お願いします」


 学校に向けて出発した。


 学校では、車で登校する際には、事前連絡をしてその場合には、駐車場から登校して良いようになっている。






 学校に到着した。


 陽葵さんに手伝って貰いながら車を降りて、校舎に入る。


 僕の隣に陽葵さんが歩き、陽翔くんが後ろから着いてきている。


 職員室の前を通ろうとした時、一人の生徒が職員室から出てきた。


「よぉ、高等部になって早々、王様気取りか?」

「あら、小原瑛太こはらえいたくんではないですか」


 僕の前に姿を現したのは、小原瑛太こはらえいた


 僕が本気を出すまでは、学年TOPの常連だった男の子だ。


 隣には、小原くんの彼女の桜井奈々さくらいななさんが立っていた。


「何か、口調変わった?」

「そんな事より、何の用件でしょうか?」


 口調云々は、どうでもいい。


 小原くんの要件が気になる。


「白村、やっと本気出したな」

「そうですね。僕は天才なので必要な時が来るまでは、手を抜いていたのですよ」


 小原くんは、僕が手を抜いていたのを見抜いていた言わんばかりの言い草だった。


「それにしても、よく、僕が手を抜いている事がわかりましたね」

「一瞬見えたんだよ。俺が解けなかった応用問題をお前が解いていたのを」

「そうなんですね。ストーカーですか?」

「そんな訳無いやろ。ただ、偶然見えたんだよ」

「故意にやる人ほど偶然を装うとも言いますが?」

「んな訳ねぇよ。信じてくれよ」


 小原くんとは、話したことが無かった。お見舞いにも来ていなかったが、話してみると面白い人だと思った。


「小原くん、よろしければお友達になりませんか?」

「直球やな」

「桜井さんもお友達になりましょう」

「奈々は、わた――」

「大丈夫ですよ。人の彼女さんに手を出すつもりもありませんし、桜井さんは、小原くん以外の男になびかないでしょう」

「そうだよ!」


 何故か、陽葵さんが反応している事は不思議だが、何時もの調子だろう。


「ええよ、俺もお前みたいな面白い友達が欲しい所やってん。高レベルで競い合えるな」

「瑛太が友達になるなら私も」

「やりました。西原兄妹以外で初めて自分からお友達になれました」


 僕は、二人と握手とそして連絡先の交換をした。


「にしても、初めて自分からとは?」


 桜井さんが、不思議そうに小原くんに尋ねていた。


「奈々ちゃん、詩季くんは、あの幼馴染集団――」

「あ、なるほどね。理解した」


「呼び方も下の名前な、詩季!」

「私も下の名前でいいよ、詩季くん!」


 瑛太くんと奈々さんと別れて自分の所属するクラスを確認するために、廊下を歩いて行く。


 コン♪ コン♪ コン♪


 杖を突く音が、廊下に響き渡る。


 前方から複数組の親子が通って来たので道を開けるが、一人の男の人が、僕の杖を蹴ってしまったのでバランスを崩して倒れてしまった。


 ドタン!


 片手に杖を持っているので、倒れた時の受け身が取りにくいのは、頭では解っていたが身体で上手い事対応できず倒れて身体を強打してしまった。


「大丈夫?」


 陽葵さんが、心配してくれている。陽翔くんは、先にクラス分けを見に行っている。


「おっと、ごめんなぁ~~大丈夫よな?」


 この声に聞き覚えがある。


 メッセージでも日本に一時帰国するとか言っていたか。


 倒した相手が、自分が捨てた息子だと気が付いていないのだろう。


「大丈夫ですよ」


 イラついた気持ちもあったので、杖を蹴り飛ばした男の顔をも見ずに立ち上がって前に進んで行った。


 男の招待は解っている。


 僕を見捨てた父親だ。隣には、母親が居た。


 妹の事は、心配だがこの二人は、もう僕の親ではないのだから。


 容姿諸々が変わっただけで、息子と認識しないんだ。


 そもそも、仕事>子ども人間なのだ。


 何たって、僕が事故で右足が不自由になったのに帰国せずにイギリスで仕事しているような人間なのだから。



―― 後書き ――


第5話・第6話、少し内容を変更しました!


そちらも、是非、確認してみてください"(-""-)"

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