5.それぞれの道
「大変、お世話になりました」
桜が咲きつつある3月も後半。
通っている学校では、中等部の修了式も終わったようだ。
修了式に関してもリハビリのため欠席した。
まぁ、中高一貫校なので外部入試で入学してくる生徒を除けば、同じ顔が高等部に上がるので中等部の修了式に、特段の拘りは無い。
リハビリは、先生が驚きの表情を隠せない程に順調に進んだ。
流石に、事故以前のように何不自由なく歩けないが、杖を使えば歩いての移動が可能になるまでは回復した。
「じゃ、詩季くん。定期検診を忘れないように。足に強い疲労感を感じたら車椅子を使うこと。いいね?」
リハビリ期間中に、何回か無理をしようとして看護師さんに止められる事があったので、先生から強めの念を押されている。
「はい。無理をしないように生活をしようと思います」
最後に、長期間お世話になった先生と看護師さん達に、一礼をして西原兄妹の両親が用意してくれた車に乗り込む。
健じぃは、60を迎えた年に、運転免許を返納した。
昨今の高齢ドライバーの事故のニュースを見て、自分の運転で若い子の命を奪う位ならタクシー代を払った方がマシだし歩くそうだ。
「今回は、車を用意してくれてありがとうございます」
助手席に座っている、静ばぁが、運転している西原父にお礼を言っている。
後部座席には、西原母と陽翔くんが乗っている。陽葵さんは、僕の家で、引越しの準備をしてくれている。
今の家は、両親と妹と過ごした家で、両親と妹がイギリスに行ってからは、一人暮らしをしていた。
今回の足の事で流石に、一人暮らしはきつい事かつ、両親の2人は、日本に帰ってくる気配が一切ないので祖父母の家に、僕だけ引っ越す事になった。
幸運にも、祖父母の家の方が、学校に近いので通学の負担もかなり減るだろう。
それに、西原さんのお家も祖父母宅方面なようで、通院とか車を必要とする場合は、遠慮なく頼ってとの事だ。
本当に、至れり尽くせりで感謝しかない。
西原一家は、逆にこっちが恩を感じる程に良くしてくれている。
自宅に着くと、丁度、引越し業者のトラックが到着していたので、静ばぁが、対応してくれた。
元々、物欲が無かったので荷積みは、30分程度で終了してトラックは、祖父母宅に向かって走って行った。
祖父母宅では、健じぃが待機しているので、荷受けは任せる事にしている。
「この家ともおさらばですね」
「思い入れあるの?」
当たり前のように僕の隣に座っている陽葵さんが尋ねてきた。
10年以上住んできた家に愛着はある。
(結局、両親は、帰ってこなかったなぁ〜〜)
両親は、退院まで1度も会いに来てくれなかった。
入院した当初に、祖父母が、事情を説明してくれていたが、僕が嘘をついていると片付けられたそうだ。
祖父母から、母親とのメッセージアプリのトーク画面を見せて貰ったので間違いない。
僕からも、メッセージを送ろうかと考えたが、幼馴染達だけでなく、両親にまで嘘吐き呼ばわりされるのが怖くて送れなかった。
「寂しい思い出しかないです。後、引越し作業中に、何か僕の私物にイタズラしてないですよね?」
「何もしてないよ!あ、鍵返すね」
少し、シュンとした空気になったが、それを振り払うように、話題を変える。
一緒に過ごして、陽葵さんの素を見てきた人間として荷造り中に、イタズラをしていてもおかしくないと思うが、ここは信じるとしよう。
「じゃ、おばぁちゃんの家に向かいましょう」
お世話になった家を出て静ばぁが鍵を閉めると車に乗り込んで、祖父母宅に向かった。
ちなみに、鍵は、チャック付きのポチ袋に入れて郵便ポストから家の中に入れて置いた。
●●●
彼氏の誕生日の翌日に、彼氏と喧嘩した。
大喧嘩だった。
理由は、彼氏のために頑張って準備した誕生日パーティを彼氏がドタキャンしたからだ。
彼氏である、詩季のために、彼と同じ趣味を持っている男の子に話しかけて一緒にプレゼントを買いに行ったり、彼が喜んでくれるパーティを企画した。
何たってお付き合いして初めての詩季の誕生日だからだ。
ドタキャンされた理由を聞いたら、「気分が乗らなかった」と言うのだから、私や幼馴染の大海と莉緒ちゃんももの凄く怒っていた。
そしたら、翌日以降は、私の気を引きたかったのか、「話がしたいけど事故で入院したから病院まで来て欲しい」等とあからさまな嘘を吐いてきた。
さらには、先生までも巻き込んだのが、これまた腹立たしかった。
たけど、私は、彼氏である詩季の事が好きなので、私の家に来るなら話をすると妥協をした。
だけど、詩季は来なかった。
私の家にも学校にも来なかった。
詩季が、学校に来なくなって2か月が経った頃に、同じクラスの西原陽葵さんに、詩季のお見舞いに誘われたが、詩季が入院していると言うのは、嘘なので速攻で断った。
本当に、何を考えているのか解らなかった。
入院していると言う嘘に、先生だけでなくクラスメイトまで巻き込むなんて。
私は、腹が立ったので、詩季から連絡してくるまで放置する事にした。
これは、大海も莉緒ちゃんも同意見だった。
年が明けた1月。
詩季からの連絡が未だに来ない。
私達も流石におかしいと思い詩季くんに各々、メッセージを送った。
しかし、いくらメッセージを送っても既読がつかないし、私たちのグループからも退会していた。
大海からも莉緒ちゃんからのメッセージも既読がつかないと言う。
あの喧嘩が原因で、引きこもってしまったのなら家に、行けば会えると思ったが、何度家に行っても留守だった。
3月まで、何度も何度も時間が許す限り詩季の家に行ったがいずれも留守だった。
となると、私たちだけでは対処が出来なくなったので、お父さんとお母さんに相談しようと思った時に、4月に、イギリスに居る詩季の家族が一時的に帰国すると聞いた。
私たち4人の両親は、高校で仲良くなり同じ大学に進学して8人で会社を設立するほど中が良かった。
詩季の両親が、会社のイギリス支社設立のために一人暮らしをしているのを知っていたしそれを皆でサポートしていた。
さすがに、家族が帰国して来るのだからそのタイミングで詩季に会えてお話を出来ると思った。
この時、私は、かなり大きな希望の光を心の中で持ったのだった。
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