第2章
6.行方は?
私は、
日本に居た頃は、羽衣ちゃんと呼ばれていて、イギリスでは、羽衣と呼ばれている。
私は、中学校に上がるタイミングで両親の仕事の都合によりイギリスで生活している。
私には、兄が居る。
詩季にぃさん。
大好きなお兄ちゃん。
血の繋がりが無ければ、お付き合い出来るように、猛アピールした末に何だかんだで、結婚まで漕ぎつけようとしている程、大好きだ。
詩季にぃさんは、日本に残っている。
大好きなお兄ちゃんと1年の内の数日しか会えないのは、本当に寂しいが、詩季にぃさんには、彼女が出来たみたいだ。
相手は小さい時から沢山遊んでくれた、琴葉ねぇさん。
お兄ちゃんに彼女が出来たのは、少しショックだったが、相手が琴葉ねぇさんなら納得出来た。
そして、私は、物凄くワクワクしている。
この4月に、日本に一時帰国出来る事になったのだ。
「羽衣、楽しみなんだな。詩季に会えるのが」
「勿論だよ! 詩季にぃさんと1年ぶりに会えるんだよ。何処の誰かさん達は、この1年帰国しなかったしさぁ〜〜」
「すまないって――」
お父さんは平謝りしている。
私は、本当にワクワクしている。
ただ、この時は、思ってもいなかった。日本に帰国して大好きな詩季にぃさんとお話出来て、琴葉ねぇ達とも仲良く遊べると思っていた。
○○○
「久しぶりの日本だぁ〜〜」
関西国際空港に降り立った。
諸々の手続きを済ませて、空港出口で乗客待ちをしていたタクシーに乗り込み自宅に向かう。
「早く詩季にぃさんに会いたいなぁ〜〜」
日本に帰ってきた事で、詩季にぃさんに会えるワクワクがかなり増している。
数時間タクシーに揺られれば家に着き、家に帰ったら詩季にぃさんに会える。
お母さんが、今日帰国する旨を送っていて返事が来ていたので、家で待っていてくれているはずだ。
もしかしたら、私の大好物を作って待っていてくれるかもしれない。
帰国したタイミングが、春休みに遠出をした人達の帰宅ピークと被った事もあり高速道路は渋滞に渋滞して予定時間より2時間程遅れて家に到着した。
家に着くと、タクシー代の支払いをお父さんとお母さんがしている間に、入口の前まで移動してインターホンを鳴らす。
詩季にぃさんが、扉を開けてお出迎えしてくれる事を期待してワクワク待つ。
しかし、何時まで経っても扉が開かない。
「羽衣、どうした?」
「インターホン鳴らしたけど、反応ない」
「何だぁ〜〜可愛い妹と両親の1年ぶりの帰宅やのに留守にしとんか?」
お父さんが、軽口を叩いている間に、お母さんが鞄の中から家の鍵を取り出して解錠して家に入る。
ポストとかは、確認しなかった。
詩季にぃさんは、しっかりしているので毎朝確認していると思ったからだ。
玄関には、詩季にぃさんの靴は無かった。
やはり留守にしているみたいだ。
一旦、自分の部屋に行くついでに、詩季にぃさんの部屋の扉をノックしたがやはり反応がなかった。
リビングに戻るとお母さんが、冷蔵庫を確認していた。
しかし、お母さんの表情は、暗かった。
冷蔵庫を確認したお母さんは、次に、ゴミ箱の中身を漁り出した。
「おいおい、どうした?」
突如、予測不能な行動をはじめたお母さんをお父さんは心配した。
かく言う私もどうしていいか解らずに固まっている。
急にゴミ箱を漁りだしたら誰だって焦るだろう。
「おい、
お父さんの制止を振り切って台所にある全てのゴミ箱を漁り終えると、何が何だか解らないと言った表情になっていた。
「静、どうしたんだ!」
「詩季……まともなご飯……食べてないかも……」
「はぁ、何でそうなるんだよ」
お父さんは、大分苛立ちを見せていたが、お母さんの苛立ちは、心配と言う気持ちから来るものだったようで、今のお父さんの返事は、お母さんを怒らせてしまうには、格好の油になってしまった。
「じゃ、冷蔵庫なりゴミ箱なり食器棚見て見なよ! まともに料理した形跡も無ければ、コンビニでお弁当買って来た形跡も無いんだよ。あぁ、普段から料理しないから解らんか」
「二人とも止めて。せっかく、日本に帰って来て家族全員水入らずで、過ごせるのに。詩季にぃさんが帰って来てこんな状況だったら悲しむよ」
私の訴えに、両親は喧嘩を止めて、状況の判断に移る事にしたようだ。
お父さんが、詩季にぃさんの部屋を確認しに行って、お母さんは、日本に残っていた友人たちに電話を掛けていた。
10分程経つとお父さんが、リビングに降りて来た。
「パパ、どうだった?」
「家具とかはあるけど、詩季の私物類がほとんど無い」
今のここは、修羅場だ。
皆が、皆、今の状況を理解出来ていない。
「ーーねぇ、向こうにいる時、私の両親からーー」
「それは、無いだろ。ただの、あいつの我儘だ」
「ーーねぇ、なんの事?」
「「あっ」」
お母さんは、何か思い当たった節があったようだが、お父さんが、それを真っ向から否定している。
お父さんとお母さんは、何かを隠しいる。私は、それを問い詰めた。
事情は、こうだった。
昨年の8月頃に、母方の祖父母から詩季にぃさんが、事故に遭って入院していると。
そして、右脚が不自由になってしまうと連絡が来ていたようだ。
「そんな、ふざけた話しは、無いだろう。ただ、1人が寂しいから嘘をついてるだけだ」
お父さんとお母さんは、詩季にぃさんが、吐いた嘘だと片付けたようだ。
しかし、私は、何か違和感を覚えている。まず、詩季にぃさんが、そんなすぐバレる嘘は吐かない。
「もぉ〜〜本当に、どうなってるのよぉ〜〜」
お母さんは、相当、混乱しているようだ。今にでも泣きそうな表情になっている。
ピンポーン♪
インターホンが鳴り、私たち家族は、一物の期待をして玄関の扉を開けるが目の前に居たのは、両親のお友達達だった。
「やっほーて、空気じゃないけどどうしたん?」
琴葉ねぇさんのお母さんが、再会を喜ぶようにハイテンションで話しかけてきたが、一瞬で、心配の表情になった。
「何で、そんな大事なこともっとはように言わないの。馬鹿なんか!詩季くんのこと本当に好きなんか!」
「本当に、何考えとん?一大事だって事がわからんのか!」
「もっと早く言っとけば、もっと早くに、警察に捜索願を出すなり出来たんやで!」
「静、お父さんとお母さんは、知ってんの?」
琴葉ねぇさん、莉緒ねぇさん、大海にぃさんのお母さんがブチ切れてそれぞれの子どもにビンタを1発お見舞してそれぞれのお父さんが静止していた。
事情は、こうだ。
琴葉ねぇさんと詩季にぃさんは、詩季にぃさんの誕生日に喧嘩した。
そこから、詩季にぃさんが、学校に来なくなり、 不審に思い、家を訪れたが反応ない。
メッセージに関しても、半年近く取れていなかったそうだ。
そして、それを報告せずにいた事に、それぞれのお母さんが大激怒した事で、家の中は、カオスな状況になっている。
「お父さんとお母さんに電話してみたけど、応答ない」
母方の祖父母が、日本における詩季にぃさんの保護者を務めてた。
そこに、連絡がつかないという事は、もう、お手上げだ。
「そう言えば、大海。詩季くんの長期間の欠席で学校はそんなに慌ててへんかったんやろ」
「うん」
「本当だな?」
「おい、少し落ち着けって大海が怯えてる」
それぞれのお母さんの剣幕にお姉ちゃん・お兄ちゃん達は、怯えて震えてしまっている。
「もしかしたら、学校は、詩季くんとコンタクト取れてるんじゃないかな」
「――!!」
お母さんは、藁にもすがる思いなのだろう。スマホを操作して学校に電話を掛けた。
「――はい。――はい、そうですか!ありがとうございます!はい、高校からもよろしくお願いします」
学校との電話の最後に、お母さんは、少し安堵の声をしていたので詩季にぃさんの所在が分かったのかもしれない。
お母さんが、連絡を終えてスマホを閉じる。
「先生は、詩季と会ってるみたいで、高校に上がるタイミングから学校に登校するって」
「そうか!」
お父さんは、安堵の様子で声を胸を撫で下ろしていた。
かく言う私もずっと冷や汗をかいていたのだ今すぐにでもお風呂に入りたい。
「それで、詩季、旅に出てるみたい」
「――は?」
「学校の先生曰く、「長旅終えて、高一から登校します」だって」
「あぁ〜〜だから私物がほとんど無かったのか!」
この時の私達は、大事な事を見落としていた。
詩季にぃさんの行方がわからなくなって大きく混乱していた事が大きな要因だろうが、この時、しっかり確認しておけば良かったと近い将来に、後悔する羽目になるのだった。
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