4. 信頼かつ信用そして素

 入院生活も大分長くなっていた。


 相も変わらず、両親は、イギリスに居たまま連絡する寄越す気配が無い。


 今日は、久しぶりの外出の日だ。


 遊びに行くための外出では無い。


 学校に行くのだ。


 12月の寒さが身に染みる中、車椅子を陽翔くんに押してもらって学校に向かう。


 僕が通う中学校は、中高一貫の学校で、今日は、中学から高校に上がる際に必ず受けないといけないテストの日なのだ。


 定期テストに関しては、学校側の配慮で、病室に先生がわざわざ来てくれていたが、今回のテストはだけは、学校で受験しないといけない。


 今日のテストの成績で、高校のクラス分けが決まるテストなのだ。






 学校に到着すると、学校側の配慮で、1階の一室を試験で使わせて貰えることになっていた。


 足の件で、長期間入院しているので、久しぶりに教室に行けば、事情を知っているクラスメイトが多いとは言え、直前のテスト勉強どころでなくなり、大事なテストに支障をきたすかもしれない。


 そして、僕にとっても、クラスメイトに余計な心配を掛けたく無かった。


「この教室の隣には、多目的トイレがあります。一応、西原陽葵さんが、介護として同室で受験するんですよね?」

「はい」


 僕としては、陽葵さんには、教室で受験してほしかったが、学校側としても、試験監督として1人女性の先生を常駐させる事は出来るが、試験監督以外の事にまで、手が回らないとの事で、陽葵さんの同室受験を承認していた。


「では、試験準備しに行くので、開始時間まで待ってください」

「はい」


 試験監督の先生は、教室から出て行った。


「陽葵さん、一応、言っとくけどお手洗いに関しては、入り口前までですよ」

「解ってる――流石に、そこまでは、まだ無理」


 何となく、介護の線引きをした方が、陽葵さんの為になると思った。


 まだ、陽葵さんは、僕の足がこうなってしまった事への責任感は少なからず持っている。


 だから、僕が、線引きをしないとどこまでも、恩返しと言って介護してきそうだ。


 僕は、陽葵さんとは1人の友人として接したい。陽菜ちゃんを助けた恩とかで接して欲しくない。


 陽葵さんと接してきて、彼女の人柄は、僕にとって大変好ましい物だったから。


「陽葵さんは、タイツ履くんですね」


 少し、際どい質問をしてしまったと思う。


 これまで、僕の周りに居た女子(岡さん・高梨さん)は、冬でもタイツを履かない系の女子だったので、珍しいと思ってしまった。


 まぁ、口に出したのは反省点だ。ドン引かせてしまったかもしれない。


「そうだね、身体冷やしちゃうと体調に影響及ぼすからね」


 予想外に、陽葵さんは、普通に話してくれる。


「タイツ履いて体操ズボンもスカートの中に履いて、健康維持&男子の夢ガードしてるよ~~」


 何故か、自分のスカート中に、何を履いているかを暴露した後、自身の手でスカートを捲り上げて中を見せて来た。


 案の定、陽葵さんの言っていた通り、黒タイツに青色の体操ズボンが丸見えになっている。


 スカートの中に、体操ズボン履いているとは言え大胆な行動を取るもんだと思った。


 最初に出会った時は、おしとやかな女の子という印象だったが、こっちが陽葵さんの素なのだろう。


 これもこれで、面白いから良きかなと思う。


「自分の手でスカートの中を見せるという事は、陽葵さんは痴女なのですね」

「――ち、違うよ!詩季くんだから見せたんだよ。まぁ、体操ズボン履いてるしいいかなぁ~~て」


 陽葵さんは、耳まで真っ赤にしている。


「まぁ、スカートの中に短パン履いているとは言え女の子のスカートの中を見るなんて経験は、事故以外にありませんからね」

「おっお~~意外に、詩季くんもむっつりスケベな所がありますねぇ~~」

「――陽翔くんに連絡しますね」

「あわわ、待ってぇ~~陽翔だけには言わないでぇ~~」


 本当に、面白い女の子だ。


 おしとやかな一面もあれば、天真爛漫な一面を持ち合わせている女の子。


 僕の事を信頼かつ信用してくれている事が解る。むしろ、信頼かつ信用していないなら自分でスカートの中を見せるなんて行為を素でしないだろう。


「貴方たち、元気ですね。大丈夫なのですか試験は」


 陽葵さんとのお話が楽しすぎて、試験開始の10分前になっていた。


「大丈夫ですよ。準備は万端なので死角はありません」

「右に同じく」


 先生に向かって、「自信あります」宣言をしてのけた。


 陽葵さんも変わったと言ったが、僕も変わろうとして変われているのだろう。自分自身の自信を持てるようになった気がする。


「それに、試験直前の追い込みは、逆に頭を混乱させるだけなので、僕はしないようにしてます」

「右に同じく」

「貴方たち、本当に仲良しね」


 試験官の先生の生暖かな視線を感じながら、僕と陽葵さんは、試験準備を始めた。






「久しぶりの学校は、疲れましたね」


 僕は、病院に帰って来た。


 久しぶりの登校もあるが、入院以来最多の距離を移動したので、疲労感がすごいある。


 車椅子を押してくれた、陽翔くんは相当疲れただろう。


「陽翔くん、車椅子押してくれてありがとうございます。ついでに、陽葵さんも試験中のサポートありがとうございます」

「私はついでかよ、ついで!」

「だって、その方が、喜びそうじゃん?」

「ねぇ、私、Mじゃないよ。ノーマルだよ?」


 陽葵さんからの強い圧を感じるが、今日の疲労に関しては心地が良い疲労なので良しとしよう。

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