3. 新しい友達

「詩季くん、頑張って。ゆっくり、ゆっくり」


 入院から2カ月が経過した時から軽めのリハビリを開始した。


 入院当時は、体中が痛かったが、原因は、打撲だったようで、1番のダメージを受けたのは右足なようだ。


 今は、病院から貸し出された杖を使っての歩行訓練や、リハビリ器具を使ったリしている。


「詩季くん、リハビリはどう?」


 合間の休憩時間に、陽葵さんがやって来た。


 入院してから天気が悪いなどの余程の事が無い限り2日に1回のペースでお見舞いに来てくれているので、完全に顔パスになっている。


 そして、僕と陽葵さんが交際関係にあると思われていたようで誤解を解くのにかなりの時間を要したが、解けたと言えるのだろうか。


 看護師さんからの、甘い視線が少々痛い。


「陽葵さん、今日もお見舞いありがとうございます」

「全然いいよ。てか、何で、敬語なの?」

「変わらないといけないので。今までの僕ではいけないので」


 今までの僕で居た結果がこれなのだ。


 別に、陽菜ちゃんを助けた事は、後悔していない。


 後悔していると言うか強い憤りを感じているのは、高梨さんを始めとする幼馴染3人に、嘘吐き呼ばわりされた事とこんな状況なのに関わらず、一向にお見舞いに来てくれない両親に対してだ。


 つまりは、今のままでは、目にも入れてくれないと言う事だろう。


 静ばぁも健じぃも僕の両親に対して連絡を入れてくれているようだが、「詩季なら大丈夫!」だとか「どうせ、寂しいから言ってるだけ」としか返ってこない様で、二人ともそんな両親にかなり怒っていた。


 これが、診断書を送ってもそんな反応なのだから、仕事 > 子どもなのだろう。


「学校の様子はどうですか?」


 入院のため学校を休んでいる。


 その間の学校の様子などは、陽葵さんや時間がある時に、陽葵さんに同行してくる陽翔くんに聞いたりしている。


「流石に、高梨さんたちも2学期始まって1カ月休み続けてる事を不思議がってる」

「それで、喧嘩の一件で不登校になっていると思っている」

「――もしかして、メッセージ?」

「そうです」


 僕は、メッセージアプリのトーク画面を開いて見せる。


「(ことは) 何、学校に来ないの?」 9/15 22:10

「(ことは) もしかして、喧嘩の事で拗ねてんの?」 9/17 17;23

「(ことは) 話聞いてあげるから、今から私の家来て!」 9/26 16:35


 メッセージが来るが、返信はしていない。


 最初に僕は、事情を説明して話したいと言ったのだ。そして、高梨さんは、それを断ったのに、何て、虫の良い態度だと思う。


「なに、先に断ったのに偉そうに――」


 普段の陽葵さんからは、想像出来ないような怒りが籠った言葉を発した。


「だよね、同じ気持ちを持っていてくれて安心しました」


 僕は、メッセージアプリの友達欄の幼馴染4人で作ったグループから退会するボタンを押す。


 続いて、石川くん・岡さんとの連絡先を削除していく。


 陽葵さんは、突然の行動に慌てている。


 そして最後、元カノと言う関係だろう高梨さんの連絡先を削除した。


「陽葵さん。良かったら連絡先交換しませんか?」


 入院してから頻繁に会っていたが、僕と高梨さんが交際関係にあった事といざこざがあったので、連絡先を交換するのは遠慮していた。


 既に、高梨さんから交際関係の解消を言われていたし、嘘吐き呼ばわりしてきた3人に対する信頼度もかなり下がっているのも事実だった。


 正直、あの3人との関りは親同士の繋がりが起因となっていたので、自己開拓で人間関係を構築した事はない。


 だったら、今のこの状況を起点にして、自分の手で、新たな人間関係を構築していければ良いと思った。


「わかった!」


 陽葵さんと連絡先を交換した。


 メッセージアプリの新しい友達欄に“陽葵”という友達が新たに追加された。


「陽翔とも交換する?」

「陽翔くんがよければ」

「大丈夫、陽翔も詩季くんと仲良くなりたがってたから!」


 陽葵さんは、そう言うと、さっき交換した僕の連絡先を陽翔くんに、送った。すると、直ぐに、陽翔くんから友達に追加された通知が届いた。


「新しい友達が、2人も出来ました」

「これから、仲良くしてね?」

「もちろんです」






〇〇〇


「白村くん、頑張ってね!学校に復帰したら出来る限りのサポートするから!」

「待ってるぜ、白村!お前と楽しい学校生活を送れる事を楽しみにしてる!」


 今日は、陽葵さんと陽翔くんが、お友達を連れてお見舞いに来てくれた。


 普段は、幼馴染3人と一緒に居た事で、話す機会が無かったが話してみるといい人たちで安心した。


 これは、皆も思っていたようで、幼馴染3人と一緒に居た僕は、話しかけずらい雰囲気があったようだ。


 反省ですね。


「「バイバーイ!!」」

「今日は、ありがとうございました!」


 1時間程、お話して連絡先を交換すると、西原兄妹を覗いたクラスメイトは、帰って行った。


「高梨さんたちは?」

「誘ってみたけど、どうせ嘘だがらって」

「やはりですね」

「まぁ、でも学校に来ない事は、不思議に思ってた。引きこもったと思ってるみたい」


 嘘吐き呼ばわりは、変わらずですか。


 ガッカリですね。


「ふ〜ん」

「どうしたの?あまり期待してないみたいな顔だけど」

「彼・彼女達に期待するのをやめました。期待するだけ無駄です。人は、期待するから予想通りに行かないとショックを受けるのです」


 これは、今回の件で、両親と幼馴染達に味合わされた感情だ。


 期待するから、ショックを受ける。


「まぁ、あの人たちは、僕に期待される存在では無くなったと言う事ですよ」

「じゃ、私たちは?」


 陽葵さんと陽翔くんが、ワクワクした様子で見ている。


「陽葵さんと陽翔くんには、期待してますよ。お友達として仲良くしてくれることを」

「ヤッター!よろしくな、詩季」

「こちらこそ」


 陽葵さんの様子を見ると、どこか不満そうな表情になっていたが、直ぐに元通りに笑顔になった。


「まずは、友達としてよろしくね!」


 陽葵さんと握手をしたが、「まずは」と言う言い方が少し気になる。


 まぁ、その意味も友人関係を続けていくうちに分かることでしょう。

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