第2話田吾作さんとゴン太

 奥さんを亡くしてからの心の支えは犬のゴン太だった。

ゴン太は雑種でこげ茶色のそこそこ体格のいい犬だった。

大人しいいい犬だった。

はふはふと息を吐きながら私にも撫でてと頭を押し付けてくるのが可愛らしかった。

「こいつ誰にでもこうなのよ。番犬にならねえわ」

 そう言って笑う田吾作さんはとても幸せそうだった。

田吾作さんとゴン太はお互いゆっくり年齢を重ね、老人と老犬になった。

杖を突きながらゆっくり歩く田吾作さんに合わせるようにちょこちょこ歩くゴン太。

田吾作さんが休憩すれば一緒に休むゴン太。

一つの焼き芋を分け合って食べたりもした。

とてもいいパートナーだった。

 私たちは田吾作さんとゴン太の散歩を見てああ今日も元気だなと安堵していたのだが心配事もあった。

 どっちが先かである。

もし、田吾作さんが先に召されればゴン太は太一郎さんか太美子さんのどちらかに引き取られる手筈が整えられていた。

 問題はゴン太が先に虹の橋を渡った時だ。

田吾作さんは心底落ち込んでしまうだろう。

落胆してそこから病気や痴呆になってしまったら。

それを誰もが心配していたのだ。

だから家族たちは出来れば田吾作さんからを望んでいた。

 だが、天の摂理は厳しいものだ。

ゴン太は冬の寒い朝に冷たくなっていたそうだ。

田吾作さんと同じ布団のなかで。

ゴン太は静かに虹の橋を渡っていた。

 田吾作さんは泣いた。

誰もが心配する中、ただ、泣き続けていた。

庭に出来た土饅頭に誰もなにも言えなかった。

うちの地元では犬や猫が死ぬと四辻に埋めるのだが田吾作さんは庭に埋めたかったのだろう。

気持ちはわかる。

私とて出来るならうちの墓に入れたがったがなんかダメなのだ。

田舎の謎ルールて腹立つ。

 それから、一人で散歩している田吾作さんを見るのが本当に切なかった。

たまに、ゴン太のリードを持っているときもあった。

ゆっくり歩く田吾作さんは寂しそうだった。

その傷が癒えることを私たちは願っていた。


が、田吾作さんやっちまったのである。







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