少女生贄
ほらみろ、血を分けた子供をあんなに殺してしまった挙げ句に奴は地獄に堕ちたのだ。
ほんのつま先ほど唆しただけであんなにも!ああ面白いああおかしい。
化け物は嬉しそうに大きな口を開けて、赤子の声でキャラキャラ笑う。
コンビニでご飯を買ったのは碇紗だけだった。史織はカロリーメイトかゼリーしか食べないし、レーコは食物を接種しないからだ。
碇紗が弁当一つとおにぎりとパンをそれぞれ五つくらい買ったので、史織はずいぶんと健啖家だなと感心した。
史織の部屋に入るなり碇紗は部屋を眺め回し
「布団……枕くらいは買ってくればよかったですね」
碇紗の言う様に、史織の布団は酷い有り様だった。新しい布団と並んでいるからなおさら悪い。
「ズカズカ上がり込んで口出さないでくれる。あなた、慈悲をかけられてるのよ」
史織はレーコをまあまあと宥め、ごめんなさいと小声で言った碇紗に気にしなくていいよと声を掛けると布団に座った。
「で、家に入れないだとか喚いてたけど、詳しく説明してくれる」
レーコちゃんはずっと辛く当たるつもりなんだなぁ、と史織は碇紗のことが心配になったが、碇紗は慣れたのか涼しい顔だ。
「どこから言えば良いのかわかんないんですけど、とりあえず、シオリさんは上鳥院を知っていますか?」
「え、ああ、魔術師の家系?的な?」
「そう、あたしの家は明治初期にアメリカから日本に渡ってきた魔術師の家系です。分家ですけどね。江戸から明治にかけて、力の衰えた魔術師の分家が再起を図って日本に流入した時期がありまして、うちもその一つということです」
「ほぉ~」
魔術師って衰退とかあるんだ、など余計なことを頭に浮かべながら真面目に碇紗の話を聞く。
「ですが結局、自分たちの長年居た場所で廃れるような家ですから、日本に馴染めないなり誰もあとを継がなかったりで潰れる家も多かったらしいのです。そう考えれば上鳥院は成功した方の家なのですが」
「へぇ凄い」
「それが、最近になって突然別の魔術師の一族が力をつけているんです。何らかの強力な後ろ盾を得たのでしょうね。由布院という家系が特に顕著に……このままでは後ろ盾の無い上鳥院家は別の派閥に吸収されるか途絶えるか、どちらにしろ先がありません」
話が見えてきた。つまり…
「レーコちゃんに後ろ盾になってほしい……ってこと?」
「いえ、いや、そうですね。半分はそのような解釈で正しいです」
半分?ではもう半分とはなんだろう。
「ある御方があたしの祖父に告げたのです。レーコ様と私が契約を結ぶ……その、私がレーコ様に隷属する見返りとしてその御方は上鳥院の繁栄を約束すると……」
隷属?史織は自分の右手の痣に視線を落とす。
「なにそれ。なんでテイサが私に隷属すると『おんかた』は繁栄を約束するの?それにさっきは同盟なんてぼかした言い方してたけどあれは何?」
「あ、あの御方が出した条件に、家で最も歳の低い子どもをレーコの眷属とすることが含まれてまして。同盟と言ったのは外ですから……契約だ隷属だとはあんまり言えないじゃないですか」
常識があるようでないような変な子だな……史織とレーコは一瞬目を合わせた。外で騒いだのも計算づくだったのだろう。こうやって話をする隙を作るための。
碇紗が史織の掌の痣を指先でつつ…と撫でる。初めて、史織は痣があるところの感覚がかなり鈍いことに気がつく。
「でもレーコ様がいると言われていた場所に向かったら、シオリさんと一緒に山を降りるところで……慌てて家に指示を仰いだら、シオリさんと交渉するようにと」
「……呆れた。そんな馬鹿な約束を信じるような奴が居るなら滅んで当然よ。とっとと真っ当な社会に戻って無知で暗愚な人間として幸せになりなさい」
「レーコ様に隷属できなかったらあたしは家に帰れません」
だから?という顔で碇紗を見つめる。史織はどこまでもピリピリとしていく空気に気圧され、まいってしまいそうだった。
「家に戻れないなかったら生きていけません。無駄死にになってしまいます。そこら辺に捨てたって構わないですから、どうか痣をつけてくださいませんか」
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