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「私からすればほんの一瞬だったけれど、君からすれば久しぶりなのでしょう。そちらに帰ってから元気にしていました?私とこうやって会話ができている以上、無事という訳ではないのでしょうね」

 

 真っ暗闇の中、彼女が座る立派な玉座以外何もない空間で、クスクスと笑いながら真っ赤な髪を揺らす。見た目は幼さが残る少女のような姿でありながら、その振る舞いからはどこか妖艶さを感じられる。


 彼女が自分を吸血鬼にした本人、別の世界で名を馳せる真なる吸血鬼の中の王。その名をエリザベス・トゥーリ。異世界では名を知らぬ者は居ない魔王である。


「お察しの通り。ボコボコにやられた上に、トゥーリから貰った力に体の制御を奪われてるよ」


「こちらに居た時も未熟者だったけれど、まさか自分の力に言葉の通り溺れる程だとはね。しかもこの感じだと、全力からはほど遠い力しか解放できていないんじゃない?」


 何もかもを見透かしたような真紅の目でこちらを覗く。魅了の魔眼を併せ持つ彼女の目は、魅了が効かない自分からしてもとても綺麗に感じる。


 彼女に弱味を見せる訳にはいかず、狼狽える様を見せる訳にはいかないが、彼女が言っている事は何も間違ってはいないので返す言葉もない。


 それを見てトゥーリはまたクスクスと笑う。きっと彼女には何もかもお見通しなのだろう。お見通しの上でこちらに返答を求めるのだから、相当タチが悪い。


「まあ、その辺のお話はいいでしょう。それより今はこうして会話が出来ているのだから、何か聞きたい事はないの?例えば、そうね……君がいなくなってからこちらの世界がどうなったか、なんて知りたくない?」


「知りたいよ。でも、わかるだろう?俺はそれを知るのが怖い。知りたいけれど知りたくない。そんな中途半端な奴だって、お前はそれをよく知ってるだろ」


「そうね、君はそうやって逃げ続けてきたものね。じゃあ代わりに今の話をしましょうか。君が今抱えているどうしようもならない問題を解決するとしましょう?」


 トゥーリはそう言って手を差し出す。彼女はいつだってこうやって気まぐれに手を差し伸べる。それが善意から出た言葉なら、魔王などという称号を得ていない。


 よって彼女に対する答えは1つ。差し出された手を払い除け、覗き込んでいた瞳を逆に睨みつける。トゥーリの助けを借りない事を示す為に。


「俺は今困っていない。吸血鬼の力が勝手に敵を倒してくれているから、感謝しているぐらいだ」


「そう?てっきり私は「このままだと皆殺しにしてしまいそうだから力を止めてくれ」なんて情けない事を言ってくると思っていたのだけれど。精神的には少し成長したという事かしら」


「そ、そうだ。そんな事は一切思っていない。止めたいと思ったら止めるさ。俺の事は良い。お前は結局どんな用があって俺に語りかけたんだ」


「さっきも言ったでしょう。君は警戒しているようだけど、私としては君を助けてあげたいだけなのよ?君は私の半身のようなものなのだから、自分に優しくするのは当然でしょう」


 彼女はそう言って笑顔を見せる。これが本心からの提案なのかどうかは正直わからない。見せられた笑顔からは、無邪気だとも何か含みのある笑顔だとも捉える事ができた。


 心を読む事ができる異能力もあるらしいので、こういう時に心を読む事ができれば、どれだけ他人の事を信頼出来たのだろうと心の底から羨ましく思う。


 現代社会において、人を殺す事しか能がない吸血鬼には邪悪を排除し続けるしかない。その為には例え罠であったとしても、今彼女の手を取る事が最善だと足りない脳みそをフル回転させてそう判断する。


 それを彼女は見透かしたように払い除けられた手を前に差し出し、今までとは違った笑顔を浮かべる。その笑顔はわかりやすく楽しげな笑顔であった。


「さぁ、お楽しみを始めましょうか」

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