1-11
2日連続で異能力者と会ってから1週間、あれからは特に変わった事はなく、異能力者と会う事もなかった。
バイトにも変わらず行こうと思っていたが、それは課長に止められた。なので特にやる事もない1週間を過ごしていた。
今更、RPGを1から始める気にもなれず、FPSは向いていないのでやるゲームもない。家にある小説は早々に読み終わってしまった。
唯一楽しめたのは、アハトが買ってきていた配信者のライブ配信を視聴する事だ。自分でやる気はなくても人の反応を見るのも楽しいものだと気づかされた。
そのアハトだが、朝から何処かへ出かけていって、帰ってくるのは夜で家にはほとんどいない。何をしているのか聞いても、仕事としか答えてくれなかった。
学生服を毎日着ているので、やっぱり学校に通っているのだろうか。何をしているのか気になったので、今日はアハトを尾けてきている。
決して、邪な気持ちや暇を持て余しているからではなく、同居人の事を少しでも知りたかっただけである。……本当にそれだけだ。
それにしても、彼女は一体何処へ向かっているのだろうか。時間は既に午前9時過ぎ、全日制の高校なら始業時間はとっくに過ぎている。
彼女が今いるのは駅前商店街。駅直通スーパーが幅を利かした事で、客が離れて廃れてしまい廃墟が多く出てしまった。なので昼間から道は暗く、人通りも片手で数える程度としかすれ違わなかった。
後ろから見える彼女の顔は相変わらずの無表情で、こんな場所に何の用があるのか検討もつかない。
見つからないように隠れながらついていくと、突然道の真ん中でアハトは止まった。辺りを見渡す訳でもなく、ただ棒立ちしている。
その状態から数十秒後、前から1人の男が歩いてきているのが確認できた。見た目は火の玉男のようなチャラい金髪の男で、手にはバットが握られている。
「貴方が1人目の刺客、という事で合っていますか?」
刺客とアハトは言った。彼女は誰かに狙われているから毎日出かけていたのか?もしそうなら、同居人である自分も狙われる可能性があるので、予め言っといて欲しいものだ。1週間外に出ていないので、襲われる心配もなかったのだが。
「嬢ちゃん、お前に恨みはねぇ。だが、何故だかしらねぇが、お前をぶっ飛ばさないといけない気がしてしゃーねぇんだ!」
男は意味不明な事を叫びながら走り出す。迷惑客とは違って、今度は素手じゃない。何製のバットかはわからないが、殴られればタダでは済まない。
「くそっ!」と悪態を吐き、アハトの元までクロは走る。前回と違い、アハトとの距離は男よりもクロとの方が近いので今度は余裕がある。
なのでアハトの手を掴むのではなく、直接男と合間見える形を取る。
「誰だ、お前!」
「先輩」
アハトのボソッと呼ぶ声がする。しかし、声色に驚きは感じられない。まるで想定済みと言いたいようだ。これは舐めた新入りに、良いように使われているだけなのではないだろうか。
心の中で少し苛立ちを覚えるが、それよりも今は、目の前の敵をどうにかしなくてはいけないと切り替える。
得物はバット、腕を伸ばして振ったとしても、精々届く距離は1メートル程度。タイミングを合わせて後ろに飛べば、余裕を持って避ける事ができる。その後、隙ができたところを殴るなり、蹴るなりすればいい。
そうやってタイミングを測っていると、またもアハトが後ろから声をかける。
「先輩、その男は異能力者です。気をつけてください」
既にクロは、普通ならバットが届かないところで後ろに飛んでいる。実際にバットは空を切った。しかし、腹を強い衝撃と痛みが襲う。
後ろに飛んでいた勢いが更に増し、そのままアハトの元まで吹っ飛ぶ。アハトは受け止められなかったようで、そのまま2人で商店街の真ん中に倒れこむ形となった。
「先輩、痛いです」
「殴られた俺の方が痛いよ!」
「先輩が何も考えず、突進ばかりしているのが悪いと思います。少しは異能力者かもしれないと疑ってください」
その通りすぎて、耳が痛い。殴られた腹はもっと痛い。殴られたと思われる箇所の服は破れていないが、服を捲ると赤黒くなった傷跡が露わになる。
確実に避けたと思っていたが、傷跡の形からバットが当たったのだとわかる。治るといっても痛いものは痛いので、お腹をさすっていると、後ろからドンと前に押される。
倒れた時にアハトの上へ乗ってしまっていたので、重いと言われ振り落とされてしまった。
「先輩は退いていて下さい。相手が異能力者なら弱い先輩より、私の方が戦えます」
アハトはそう宣言してクロを庇う形で男の前に立つ。手を胸の前で合わせながら。
『霊装展開』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます