第7話~居酒屋探偵サムライ 和醸良酒繋げし姿は官民共同~


 夜の田舎は昼間以上に賑やかだ。

 人間が主役の時間が終わり、自然が主役の時間が訪れるから。

さて、物語の舞台である当探偵事務所は警察機構の補助機関であり原則的に警察官しか利用出来ない。そして探偵事務所なのに私は居酒屋機能を事務所に組み込んだので日々お疲れのお巡りさんが集う『閉じた憩いの場』としても高評価をしていただいている。お巡りさんの仕事は当然守秘義務があるので任務中に知り得た内容が外に漏れないようにしなくてはならない。其処でウチの探偵事務所はアナログな意味でもデジタルな意味でも完全な密室を提供しているというわけだ。

 アナログ的に無理矢理入る為には戦車砲でも撃つしか事務所の装甲板を貫く事は出来ないし。

 デジタル的に無理矢理入る為には軍事防壁の亜種を突破出来るような人間にしか不可能だ。

 警察官は意外にも安全を必要とするのである。

 犯人からの逆恨みという意味でも勿論、情報漏洩だの警察法遵守義務だの。

 だからウチの事務所には多くのお巡りさんが集まる。

 案件を抱える刑事さんは当然として。

 お酒を飲みに来るだけの方だって大勢居る。

 変わり種の案件としては、一度亭主から酷い暴力を受け逃げて来たという奥さんを匿うシェルターとしてもウチの事務所を使った事もある。今現在、どのようなサービスが警察に求められているのかを吟味し精査し実施をした結果、切迫した喫緊の脅威が迫る被害者に避難所として使えるような施設である事が望ましいとされたのは、事務所が改築される三か月前の事だ。

 家庭内不仲の人間がネットカフェに足を延ばすように。

 今の世の中、避難所というのが必要なのは災害時だけではない。

 寧ろ、日常生活の中にこそ避難先は必要だ。そして当然、その隠れ家は強固な防壁で囲うべきである。警察は決して住民サービスを業務内に取り入れていないが、何をするべきなのかを取り入れていないこそ理解していたのだ。そしてこのパッケージは私のバックボーンが警視庁警備部である事も多少なりに起因する住民サービスであるだろう事は間違いがない。

 警察の最前線は日常。

 だからこそ、その日常の中にセーフハウスを設置したという側面は。

 見ないふりをするのが大変な程に大きくウェイトを占める。

 まあ、ウチに酒を飲みに来るのは決まって常連である地元の先輩なんだがね。

 クマみたいな体格でチワワみたいな気弱な現役の刑事さんだ。

「先輩、ウチの事務所は食べ放題飲み放題でも三千円ポッキリですけど。そんな毎日来てて良いんですか?仕入れた食材の大半が先輩の胃袋に消えて行くんですが?」

「此処は三千円ポッキリで寝泊まりも出来るしな。ベッドメイキング無しってのが頂けねえけど、それでも個室だしネット環境は揃ってるし料理も美味い。何よりコイン式の洗濯機と乾燥機が設置されてるのが便利なんだ。デカやってると帰れねえ事も珍しくねえし」

 事務所の隣には二階建てのガレージハウスがあり、其処の二階とロフトを客間として提供してある。簡易キッチンとボディメイキングルームを二階に備え、コイン式の洗濯機と乾燥機は一階ガレージ横の階段付近に設置してある。

 ウチは自宅兼事務所なのだが、婦警さんが来た時だけはガレージに出入り禁止になる。

 探偵なのに、下着泥棒の容疑で捕まっちゃうからであった。

「こんだけ電子操作が流行している時代にコイン式ってのが良いよな」

「ええ。動作というか挙動がリアルだ。歩合制というか入れた金額の分だけキッチリと働いてくれるというのが理解に速い。利用料金と維持費でトントンなんで、其処は俺の取り分ゼロという悲しい結果に終わってますが」

「ガレージはガレージで交機の連中の溜まり場みてえになってるしな…」

「トライアンフが珍しいから遊びに来るんです。酒も飲まず食事もせず、三千円支払ってガレージに篭ってずっと同僚の方とバイク談義してますもんね。まあ、アラカルトの提供ぐらいしないと罰が当たると思って唐揚げとか差し入れはするようにしてますが」

 警察官しか利用出来ない探偵事務所だが。

 お巡りさん、来過ぎであった。

 最早、放課後仲良しクラブと何が違うのか。

 白バイの皆さんは勝手に工具を使って勝手にトライアンフ・スピードトリプルを弄るし。

 警備課の皆さんは事務所備品であるミリタリーツールを眺めてはウダウダ話すだけだし。

 婦警さんに至ってはガレージ二階を複数で借りて女子会まで始める始末。

 ウチは探偵事務所であって貸別荘屋じゃねえ。

「お前が作る唐揚げは美味いからな。交機も喜んだろ?」

「喜んでるのかどうなのか。唐揚げだのクラブサンドだのを手掴みで食べながら『山形県警の白バイのベースを並列三気筒にするべきだ』とか『ならサムライのスピードトリプルをまずは実験機にしてしまおう』とかをずっと話してます。買った時、色は黒だった筈なのに今じゃ真っ白になったんだぞ!アンタの会社の同僚はどうなってんだ!また塗装の仕方もプロ並みに丁寧でビックリでな!」

 白バイ隊の皆さんが白バイカラーに勝手に塗ったのだった。

 おかげで凄まじくスタイリッシュな白バイが出来上がった事で私の探偵らしさも向上したのだが。

「連中、人間より単車が好きだからな…。多分、塗装した後にクリア吹いたりして遊んでたんだろ…。あのスピードトリプル、違法改造だけは流石にしてねえみたいだが」

「英国車なのにカワサキみてえな挙動になっちゃったんですが…?」

「サスも硬くしたか…。連中、いよいよ自分達で乗ろうとしてるな…」

「止めさせろよ俺のだぞ!先輩だけど此処は敬語無しで行くからな!」

「並列三気筒なんていうヘンテコなレイアウトの単車を買ったお前が悪い」

「あれもまあ、挙動がリアルですからね…。並列エンジンはシンプルだから頑丈ですし…」

 エンジンを回したら回した分だけ頑張ってくれる。

 そして人間の叫び声のようだと言われるエキゾーストもまた有機的で良い。

 本当に叫びたいのは愛機を勝手に弄られた私なんだけどな!?

「それで何を飲みますか?」

「明日は休みだし、キツいのにするか。デジタル的じゃなくアナログ的な酒で」

「じゃあアルコール度数、驚異の18・8度を誇る香川県の日本酒はどうですか?一般的な日本酒は15度か16度なんですけど。山廃なんて山形じゃあまり飲まないでしょう?」

「良いねえ。山廃仕込みってのがなんともアナログじゃねえか」

 香川県の有限会社丸尾本店が世に送る『悦 凱陣』である。

 端麗辛口が基本の東北の酒にはあまり馴染みの無い深いコクが特徴の四国の酒だ。

「ところで山廃仕込みってどんなのを示すの?俺、知らねえで良いねとか言ってるけど…」

「お酒造る時に仕込桶を櫂で掻き回す作業をせず、麹の持つ糖化酵素だけで仕込むヤツです。山廃は味がシッカリするんで美味しいですよ?その分、ムッチャ酔うんですけど」

 究極のアナログだ。

 コイン式洗濯機どころの話じゃない。

 人間、何もしちゃいけないんだから。

「世界初のロボットってのは、どんなんなんだろうな?」

「どうしました、いきなり。先輩はロボ物にあまり興味がないのだとばかり。ちなみに俺、世界初のロボットというか自動人形は何度も見てますけど?」

「アナログも良いけどロボットを開発してるわけだろ世の中は。俺だってシュワちゃんがショットガン撃ちながらバイクで追っかけて来る映画は何度も観てるぞ?あれ、ノーヘルだからそれこそ白バイに捕まると思わねえか?」

 そうじゃない。

 世界初のロボットがターミネーターのわけもない。

「あのですね?ヨーロッパの時計台内部に組み込まれてるオートマタが世界初の自動人形ですよ?なんで世界初のロボットが既にサラ・コナーを殺そうとしてるんですか。開発者も開発者で先走り過ぎでしょ」

「あれか。決まった時間に踊ったりするヤツ。クルミ割り人形とか親指姫とかだろ?」

 世界初の自動人形であるオートマタは時計の中にしか存在出来ない。

 その理由は単純で_。

「時計師がカムを組み合わせて作ったのがオートマタなんで、厳密に言えばオートマタはロボットじゃなくて時計の一部なんですけどね。だから大がかりなカムを入れる事の出来る時計台にしか居ないんです。残念でしょうけど、オートマタは続編で液体ロボと戦いもしません」

「でもこの国のカラクリ人形ってのは世界初のロボットじゃねえのか?時計のカムに噛ませる事でしか動けないオートマタとは違ってカラクリ人形は意外と自律して動くぞ?」

 確かにそうだ。お茶を運んだり、弓矢で的に当てたり、時計のカムに噛ませなくては動けないオートマタとは違い、日本のカラクリは意外と自分で自分を律する事が出来ている。

「ぜんまい仕掛けとかじゃないんですか?それか平賀源内は既に江戸時代にも拘らずAIの開発に成功していたのかもしれませんよ?そんで製作した女の子型ロボットに偶然雷が落ちてしまい、超元気な眼鏡のロボットが産まれるわけですね」

「平賀源内とノリマキ博士は同一人物だったわけか。江戸時代にアラレちゃん居たらいろんな問題が解決しそうだもんな。ペリーの黒船だって持ち上げて地球の外に投げ飛ばすんじゃねえの?」

 アラレちゃんが江戸時代に居たら、多分江戸時代に日本は滅ぶと思うのだが。

 別にアラレちゃんじゃなくてもそうだ。

 アトム君だって江戸時代に存在していれば技術面で歴史を加速させ滅びを招く。

 ターミネーターだけが悪者なんじゃない。

 基本的に、現実世界の自律型ロボットは悪者が使う道具だ。

「アラレちゃんみてえなヒーローが居りゃ、世の中楽しいんだろうがなあ…」

「面白き事も無き世を面白くと高杉晋作も言ってます。幕末の英雄でさえ毎日がつまらないと思っていたんですから、未来を託された子である俺等は楽しむように努力しましょうよ」

「だって飲み屋の姉ちゃんからはバカにされるしスナックのママからはバカにされるし、良い事ねえんだもん。面白いゲームは粗方クリアしちゃったし」

「先輩は楽しみ方が下手くそなんですって。既存のサービスを利用して満足するのではなく、自分から遊びを生み出してこそですよ?」

 提供されるサービスに不満を言っても提供する側はそれがパッケージされたサービスなのだから変えようがないというものだ。ネットサービスは適時データの更新で時代のニーズに合わせたサービスを提供出来るから此処まで伸びたのだろうけど。しかしながらネット依存の人間は現実世界との境界線が解からなくなっている事が大半だ。ネットを優先し現実を疎かにする。それこそロボットと変わらない。

 デジタルデータで腹は膨れねえだろと私なんかは思うのだが。

「なんだっけ?お前、近所の短大生と一緒になって高齢の農家が持て余す畑で作物を作るようにしたんだっけか?」

「食費さえ苦しいのが短大生や大学生ですからね。食育にも繋がりますし農家の爺ちゃんや婆ちゃんは楽が出来ます。収獲したら沢山貰えるようにもしましたし」

 実行委員会方式で複数の運営機関によって成り立っているので誰かの悪意が入り込む余地も無い。耕作放棄の田畑はそうして再生していくのが一番だ。誰も不幸にならない。収獲した作物を学生に施す事は勿論、農家の方には土地の借り上げ金で収入が入るわけだし。短大側はその活動を活動実績として計上出来る。そして作っている作物はその全てがハーブとして認識されてあるような野菜なので地元イタリアンのシェフが直接買い付けに来るなんて事もある。

 アーティチョークやチコリ、ニンニクにローズマリーはそれこそアチラの料理に欠かせない。

「チコリだけは本職の農家の方に指導をして貰わないと作れないんですけど。それでもみんなで楽しくやってます。チコリの根っこを珈琲にしたものは血糖値を下げるんで糖尿病の予防にもなりますからね。アーティチョークとチコリの新芽を使ったグラタンをウチでもたまに出しますけど、あれは二日酔いを防ぐ薬草を二種類使ってるって事情もありまして」

「婦警の連中が食べてるあれか。芋みてえな薬草と高級な白菜みてえな薬草が入ったグラタンだったよな?」

 なんて語彙力の無い刑事なんだろう。

 だがしかし、アーティチョークは確かに茹でるとホクホクした食感だしチコリは凄まじく高級な白菜だと喩えて良いかもしれなかった。双方、肝機能を高め肝臓に溜まった毒を排出する作用があるのでお酒を提供する探偵事務所としては外せない看板メニューなのである。味付けはホワイトソースにベーコンとソーセージを入れるのが肝だ。ご家庭で作る場合はホワイトシチューの素で充分ですので興味が在ればどうぞ。

「そしてお前が学生に料理を教え、同時に店に来てた警察官が交通安全運動期間であるとか地域防犯の重要性とかをかるーく説教するってわけだな。最近じゃ警察OBがその農業に参加してるともいうじゃねえか」

「転勤続きで地域との交流が出来ない警察官こそをデザインしたいと考えたんで。学生には流石に話していませんから農家でもなんでもない変なジジイが混じってるぐらいにしか考えてないんでしょうけど、機動隊の隊長でしたからね。還暦過ぎなのに農作業をしてもヘッチャラな体力を持ってます」

「そしてOBだとしても警察官を地域に組み込む事で地域の治安維持は完璧な物になる、か。この辺は昔ながらの旧道と新たに開発された大きな道路が交わる。確かに子供が心配な地域ではあるからなあ…」

「加えて空き家も多い地域ですしね。防犯の観点から視て空き家は悪党の溜まり場になったりするので好ましくありません。ま、ウチの場合は警察官の溜まり場になってますけど」

 それもまた、探偵事務所として機能する為に改築を行う際に考えられた事でもあった。交番でも駐在所でもない、民間の施設に警察官を常駐に近いような状態で配置出来るシステムがあれば地域はどう変化するかの実験。事務所側は警察官しか利用出来ないがガレージハウスは誰でも利用が出来るという事で、最近じゃ非番のお巡りさんが珈琲を入れて地域の御年寄りと触れ合うガレージカフェなんて事も自発的に行っている。当然、そのカフェのお客さんで多いのは学生になったわけだが、その学生と地域住民との交流もまたガレージを開放した軒下の小さなカフェでは行われていた。

 遊びを作り出す、である。

 お孫さんであるのだろう幼稚園児の手を引いて地域のバーチャンが来た時なんか、新人さんから畏れられるベテランのお巡りさんが完全に鼻の下を伸ばして可愛がったりしている。地域の若妻会と婦警さんが協力してケーキを作った時なんぞ、私が事務所から追い出されたもんだ。

 愛犬で番犬で看板娘のハナコも元は軍用犬なので友達が居ない。

 だから、人が集まるようになって尻尾を振って喜んでいる。

「警視庁が目指した実験有効域にこの探偵事務所の実績が届いているかどうかは解かりませんけど、地域理解が無けりゃ公務員は何も出来ませんからね。特に警察では地域住民からの情報が金と同じ価値を持つ。それは探偵である俺もそうなんですが」

「だから此処をインフォメーションセンターとして機能させる為にも地域住民へのサービスが必要だったってわけだな。陽が落ちてなくとも此処はサツが集まる。そして山形県のほぼ中央に存在するからこそお前は案件が入れば単車で飛び出せるというわけか」

「なんでもかんでも電子化が良いわけじゃない。カムの組み合わせで人は動かないし、人が笑うのはプログラムによってじゃない。これは英国の大学教授が既に提唱してる事であるんですけど『ロボットは人間に絶対に勝てない』んです。物事を判断をする際、優先順位というか優劣無しで全てを並列に並べて判断するしかないから」

「並列三気筒どころの騒ぎじゃねえって事だろうしなあ。確かにロボットは無限大に広がる可能性に順列を付ける事が出来ない。経験で学べねえんだもん、仕方がねえんだが」

「それの解決策としてネットを介した電脳という技術が開発されました。一つのロボットだけじゃなく複数のロボットの脳味噌を繋げることで最適解へと導くとかそんなんですけど。それ

も限界がある。何故なら電子の海は有限だ。既に携帯電話の番号でさえ足りなくなってる」

「アナログな力を伸ばしておかねえとなんにも出来ない人間になるって事だよなあ…」

 人間が楽をする為の新技術。

 だからこのまま行けば、人間は何も出来なくなる。

 ドラえもんの映画にも在ったようにだ。

 だが私はサムライの呼び名が定着した探偵。

 鍛えた身体とド根性だけで自分が使うツールは充分の、時代遅れな男である。

 ま、最近は病気のせいで戦闘が出来ないようになってしまっているのだが。

「でもこの探偵事務所の問題点が浮上して来たよな。サツが集まる以外にだ」

「ウチに問題なんか在りますか?今日も今日で美味しい料理と美味しい酒をご用意させて頂いてますし事件は何も起きてない。ハナコはハナコで楽しそうに畑をパトロール中ですよ?」

 ウチの看板娘は事務所裏手の畑の警備主任である。魔が差したのであろう鹿さんを食い散らかし、凄惨な殺人現場のような有様になった事もあるが警備の腕は確かだ。勿論、事務所側に怪しい人物を発見すれば即座に飛びつく。

「此処が警察の補助機関とはいえ、警察と民間との間には垣根が在るべきだろ。意地悪で一線を引いてるわけじゃねえ。民間人に情が入らねえようにだ。俺等の判断基準は法律だけだ。為人とか人間性とかで判断出来ねえし、それは絶対にしちゃならねえ。よくテレビであんな優しい子が事件を起こすなんてとか近所のおばちゃんが喋る様子を放映するけど、そんなの関係ねえだろ。やっちまった事が無い事にはならねえ。警察との垣根が無くなればその辺を勘違いする民間人が現れる危険性がある」

「其処はもう痛し痒しですね。官民協働を目指すとしてこの事務所を設立した警視庁警備部が俺に期待する事と警察法を順守しなくてはならない先輩との祖語というか差異というか。其処がどうしても危うく容認出来ないというならば音楽性の違いという事でコンビ解消です。俺はこのまま探偵を続けますんで先輩はイルカの調教師にでもなってください」

「なんねーけどさ…」

「本気で危ないのは俺の活動を真似する小悪党が現れた場合でしょう。実績泥棒は二番煎じであっても構わないと思います。俺がこういう事が出来るのは財界と政界にパイプを持つ為ですし警察への信頼が在るからこそ地域住民も協力してくれるわけです。しかし、真似をしたがる人間は本質を理解せずに活動の表面だけをなぞるから結局地域の負担になってしまう。自分達が主役であり、地域を主役と考えていない為です」

 地域の負担になるような支援は無い方が良い。

 災害現場に現れるNPOが活動実績を得る為に訪れている事は被災地の方々に共通する認識だ。だからウチの事務所が起った。

 遊び心は必要だが。

 真面目に遊ぶ必要があるし、それ以上に品良く遊ばなくてはならない。

「事実として、此処に来る綺麗な婦警さん目当てで変な大学生が来たなんて事もあるしな…」

「あんときは先輩方が睨みを利かせてくれたので助かりました。ハナコに食い殺されてもおかしくなかったもんですから」

「美人に声を掛けず、美人から声を掛けられるようになれって事だわな。俺みてえによ?」

「先輩の場合、飲み屋の姉ちゃんに限定されますけどね…」

 夜も更け、遠くの音がすぐ傍にまでやって来る時間。

 事務所隣のガレージでは近所の方々とお巡りさんが楽しく芋煮会。

 先輩は静かに度数の高い日本酒を飲み、私は黙々と白身魚を捌く。

 夜は昼間以上に騒がしい。

 人間が主役の時間が終わり、自然が主役の時間が来るから。

 だが結局、どの時間帯でも警察と探偵は主役には成れない。

 正義の味方はいつの時代もこの世界の裏方でしかない。

 だけど、どの業種だって裏方が一番楽しいってモンだ。

「さて、悪党は何処で何を企んでるんだろうな?」

 そう言って先輩は笑い。

 私は笑わなかった。

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