第5話 居酒屋探偵サムライ・カレーでキル・ザ・サマー
基本となる出汁にショウガを多めに入れていちょう切りにした大根と鶏胸肉、それと切った水菜を浮かべて火にかける。土鍋でなくても行平鍋でも何でも良い。大根に串が刺さるまで火が通ったら、黒胡椒を挽かずに数粒と最後は塩で味を調えて完成。当店というか当事務所自慢の薬膳・大根と鶏肉の塩鍋だ。根茎を利用するハーブは全てがトンデモねえ栄養素を持つのでスープに使うのが望ましい。それはニンニク然り、ショウガ然りだ。
ただショウガによく似たウコンだけは油で炒めないと土臭さが残ってしまうのだが、それは最後に炒めたウコンを油ごとカレーなどに加えれば良いだけである。
「これは柚子胡椒で食べるようにします。病中食にも良いし、夏バテの時も良い。鳥の胸肉だけでなく、もも肉やササミを一緒に煮込んでも良い。鶏の旨味を吸い込んだ大根が主役なんですしそもそも薬膳鍋はスープを飲む料理ですから」
「シンプルなのに美味えな。風邪とか吹っ飛んでいくんじゃねえの?」
「黒胡椒は血液中の栄養濃度を高める作用がありますから。風邪もそうですけど、体力が落ちている時に良いですね。部活動後で疲れた時や訓練後に疲れている時にも鶏肉を使っているから良いでしょう。傷んだ筋繊維を効率的に修復する為、マッチョマンに成れます。ま、望ましいのは鶏のプロテインではなく大豆プロテインなのですが」
「豆ばっか食ってたら飽きるもんな」
その通りだった。
全ての運動に必要な能力はまず足腰の強さなので、走り込みとは言わずともウォーキングをした後にこの塩鍋を食べる事は好ましいと思っていた。基本的に良質な大豆たんぱく質を摂取するのがマッチョマンへの近道。史実、明治の人間は大半がマッチョだ。何故かと言えば、国民全員が働かなくてはならない時代であり、その仕事が肉体労働である事が多く、そして彼等の食生活が穀物と大豆を根幹としたマッチョマン仕様であるからなのだが。
「身体に溜まった毒素を抜きつつ栄養素を摂取出来るのが薬膳です。だからこそ出来るだけ強い薬効を持つハーブやスパイスを使うのが良いんですが…」
「強い薬草や香辛料は風味も強過ぎてなかなか食べる事が出来ねえぞ?」
「まあ、その通りなんですよね。本来この塩鍋には高麗人参を茹でた後に乾燥させた『紅参』という生薬が入るんですよ。けど風味が強過ぎるという事、紅参があまりに高価で手に入らないという事から手抜きしちゃったんですけど…」
高麗人参は一度収獲すると何年もその土地を休ませないとならないらしい。
それだけ土地の栄養を吸い取る薬草なのだから高級なのも頷けると言うものだが。
「此処、薬膳すら出す居酒屋なんだもんな…」
「元メディックの俺が大将なんで。つーか、居酒屋じゃないです。探偵事務所です」
「探偵事務所にしては酒も肴も全部が美味えんだけど…」
此処は警察官しか来てはならない探偵事務所である。
公立の探偵といえば聞こえは良いが、簡単な話、警察お抱えの情報屋だ。
しかしながら情報だけをサービスするのも芸がないと思い立った私は居酒屋として依頼人をおもてなしするという新機軸のサービスを盛り込んだ探偵事務所にする事を決意した。
今日も今日で常連さんの地元の先輩が。
毎回ボッタくられるというのに性懲りもせずやって来ていた。
「今年の夏はエルニーニョ現象が影響してか猛暑というか命の危険すら感じる炎暑が続きますから、特製のカレーを提供する事にしました。水を全く使わずに刻んだタマネギの水分だけで煮込むアフリカの『ドロワット』というカレーになります。その分、半端じゃない量のタマネギを使うので作る方は大変なのですが」
「こりゃ辛過ぎるんじゃないか?俺は激辛好きだから食えるけどさ…」
アフリカカレーは唐辛子の辛さが尋常じゃないのが特徴ではあるが、野菜を大量に煮込んだり大量の鶏肉を煮込んだりする事で旨味が凝縮されており、またバルバレという独自のミックススパイスを用いる事から爽快感のあるカレーに仕上がるのが特徴だ。そのバルバレにはチリペッパーやカルダモンが入っているので激烈な辛さと清々しい清涼感を持つのだが_。
「俺、エチオピアでマラリアの治療をしてた時に食べたんですけど。アフリカのカレーって日本になかなか無いと言いますか。いや、カレーが既に国民食の日本人が何を言ってんだって話ですけど、色んなカレー屋さんが存在するこの山形でもアフリカのカレーだけは食えないじゃないですか」
「成程な。世界で活動をしてきたサムライならではのカレーってワケだ。でもこんなタマネギばっかのカレーを家庭で作るとは思えねえぞ?あの不気味なタマネギを三つも使うんだろ?」
私が家庭菜園で育てた不気味なまでに成長した巨大タマネギであった。
その巨大なタマネギを三つ、みじん切りにして使うのだから大変である。鍋の半分以上、刻んだタマネギが入っているのだから。ちなみにカレーを作る際にタマネギが焦げるぜという方は炒めるのではなく熱して溶かしたバターと絡めるイメージで火力を調節するとタマネギの甘味と旨味だけを上手に引き出せますのでね。
「ちなみに激辛好きな警察官の中でも群を抜いて激辛好きだと言われている先輩にお聞きしたいのですが。貴方、普段どんな辛さのカレーを食べてるんですか?このドロワットも唐辛子を七本まるっと入れてるんですよ?」
「俺だったらこの四倍はいけるね。激辛こそ汗を沢山掻いて鋭気を保つ料理だろ?」
そんなん食ったら、普通の人間死ぬんじゃねえのと思った私。
だが先輩の言う事も理解は出来るのだ。
辛さをやり過ぎたグルメが、山形には無いのである。
「ただ辛いだけなら簡単に作る事が出来ますけど…?」
「それ激辛好きをバカにしてるだろ。辛いだけじゃなく、旨味があるからこそだ」
ブート・ジョロキアか、トリニダート・スコーピオンを使えば辛さを極めるには簡単だ。
それ食った人間の内臓、大変な事になるだろうけれども。
「流行の旨辛ってヤツっすねえ…」
「お前がよく酒のツマミに作ってくれるチーズが入った獅子唐があるじゃねえか。あんな感じのヤツでも俺は良いと思うけど?チーズ詰めて小麦粉付けて揚げるだけだろ?」
獅子唐ではなく、ハラペーニョである。
メキシコやアメリカではチーズを入れて衣を付けて揚げたハラペーニョが好まれる。
まあ、確かに味は獅子唐に近い。
獅子唐を刳り貫いてチーズを詰めて揚げれば、それっぽくはなるだろうが。
「ミヤギさんもダニエル君に激辛の物を食べさせてたら、ダニエル君は血気盛んになって毎回敵役からボコボコにされる事も無かったんだろうな」
「ミヤギ空手の極意は先を手を出す事を禁忌とし身を守る為だけに己を鍛える事ですし、そもそも今の世の中に『ベストキッド』知ってる方が居るとは思えませんけど」
師弟愛に燃える、傑作映画だ。
先輩と私の場合はコンビ愛というのが発生するが。
「カレーを名物にするなら挽肉が良いんじゃないか?肉の旨味が全体に広がるんだし。俺、この試作品のドロワット全部食べちゃったけど挽肉のカレーならまだ食べる事出来るぞ?」
「よくそんな辛いカレーをペロリと行けますよね…」
現役の刑事である先輩は汗一つ掻いておらず、ムチャクチャな辛さを持つ筈のドロワットをペロリと完食していた。舌が肥えていない先輩は単純に辛い料理だったり酸っぱい料理を好む。
三歳児のような味覚を持つ残念なお巡りさんなのだ、先輩は。
「ですが挽肉のカレーというのは凝縮されているので辛さより旨さが目立ちます。そりゃ旨くて何よりなんですけど、激烈な辛さで汗を流す事の出来るカレーを名物にしないとワザワザ俺の店に足を延ばす警察官が居なくなると言いますか」
「確かにキーマカレーは辛さより旨さが先に来るもんな」
肉をメインに考えるのも私らしくない。
薬膳を用いる店なのだから薬膳をバッキバキに使うカレーを提供してこそではないか。まあ、カレーは肉と野菜と米をバランスよく摂取出来る為に肉体を元気にするのは間違いが無い。史実として栄養の偏りが原因の病である脚気が死因の第一位であった出来たばかりの明治海軍では、定期的にカレーを食べるようになって栄養の偏りで死ぬというコントみたいな設定の不健康な兵隊さんが居なくなっている。
さて、どうしたもんか。
カルダモンは身体を冷やすスパイスなので積極的に使いたいのだが、なんせ世界で三番目に高価なスパイスだ。その高価なスパイスを違いの分からない男である先輩に提供するというのも何だか悔しい。
「それに辛い旨い料理ってだけじゃなく、医食同源としてもカレーは良いんだろ?」
「ええ。カレーが産まれたインドという国は高温多湿で常に病原菌が発生する土地なんです。其処でインドには『アーユルヴェーダ』と呼ばれる予防医学が古くから伝わっていまして、ターメリックとクミン、それとコリアンダーの種を基礎とする料理が産まれたらしいですね。クミンはビタミンだけでなくミネラルを豊富に含みますし、コリアンダーの種は体内の重金属を排出し駆虫効果も高いです。ターメリックはウコンとして日本でも有名な強力な薬草でして」
だからカレーは有効性の高いハーブを丸呑みしている様な物なのである。
インド近辺で医療支援をしていた際、私を含めた部隊の大半が高温と湿気でやられてしまった時は現地住民にカレーを振舞って頂き、逆に助けて貰った事も在った。そして褐色の肌を持ち小顔で美人なインドの女性と仲良くなり、若かった私は他所の国で青春していたもんだ。
「世界中を旅して来たお前だからこそ作れるカレーってのが良いんじゃねえの?インドでだけカレーを食べてたわけじゃないんだろ?」
「まあ、カレー程に世界共通で食べられる料理は他に無いですからね」
それだけ世界が一つに成ったという事なのだろう。大航海時代を経て、日本という特に独立していた文化でさえも世界均一になってしまったというか。
誰が悪いってペリーが悪い。
「それで、何処のカレーが美味しかったんだ?」
「そうですね。活動していた期間が長かったというのもあるんですが、南海のインドネシアという国で食べたカレーは美味かったのを記憶してます。大小様々な島それぞれで異なる食文化を持つんで、スマトラ島じゃインドカレーに似たカレーでしたし、ジャワ島ではヒンドゥー教や仏教の影響が強い為に肉の代わりに大豆の発酵食品を入れてました。ジャワ島で食べたそれが一番美味かったカレーっすね」
「肉の代わりに大豆の発酵食品?納豆カレーみたいなもんか?」
「流石に納豆カレーではないですし、大豆の発酵食品が押し並べて全て納豆ではないんですが、テンペという大豆の発酵食品は見た目は肉なんですけど食感が独特で美味しいんですよ。そもそもインドネシアは香辛料の国ですからね。複雑なスパイスの風味が鼻から抜けて、舌では優しい旨味を感じるのがジャワ島のカレーになるのではと」
意外な事にスーパーで売られているジャワカレーはかなり本場の味に近い。
中辛を使って炒めたタマネギと鶏肉と一緒に煮込めばそれこそジャワ島のカレーだ。
「んじゃ独自のミックススパイスを使ったカレーをオミヤにしてくれ。今度はお前がアーユルヴェーダ―で俺等警察官を助けてくれ」
「公務員だとしてもエアコンの設定温度を低くして怒られたりしませんからね?地域住民からエアコンの設定温度低いんじゃないのかのクレームに脅えて、それで熱中症に苦しんでる警察官なんか世界中探しても先輩の職場だけですよ?」
外気温が40℃近くになっているというのに律儀にもエアコンの設定温度を28℃に固定していた結果、先輩の職場は機能しなくなった。バカの集まりなのかと私は膝から崩れ落ちた。
「機動隊の猛者は流石に頑丈ですね。ですが、今の状況では小学生から体当たりされるだけで吹っ飛ぶのは間違いないでしょう。こんな気温でも道場に行くって、それサウナで蒸し焼きにされてるのと変わらないってのに」
「このクソ暑いのに道場で汗を流して経口補水液で命を繋いでるような状況だからな…」
脳味噌まで筋肉なのか。
大丈夫か、日本のお巡りさん(機動隊)は。
「交機の白バイ隊も悲惨な目に遭ってますね。アスファルトからの照り返しで脛を火傷した隊員が続出したと聞きました。これ、アロエの果肉を冷やした湿布薬になります。火傷で傷付いた肌の再生を促し、体内に溜まった熱を放出するんで彼等に渡してあげてください」
「助かるよ。それと機動隊の連中には経口補水液を作ってやってくれ。お前が作る甘梅を入れた経口補水液はウチの職場で人気なんだ」
「ウチ、診療所じゃないんですからね?探偵事務所ですよ?」
「出来るだけ早く、新作のカレーを完成させてくれ探偵さん。でないとお巡りさんが続々と救急搬送されるという歴史に残るコントを演じる事となる」
確かにそれは困る。
ちなみに経口補水液にはレモンの果汁を入れるのが一番簡単に作る事が出来るクエン酸入りの経口補水液だ。私はレモンが無かったから甘く漬けた梅を使っただけなのだが、別に配合も適当にしている経口補水液だ。梅の持つ糖分まで計算なんぞして作っていられん。
「取敢えず、先輩には作り置きしていたこれを渡しておきます。新作のカレーというか試作の薬膳カレーになるので効果は充分かと。強壮効果で身体は動くようになるでしょうから、そしたら体温よりちょっとだけ低い温度のシャワーで身体を冷やせと。それと要救助者を助ける前に救う側が倒れてどうすんだとサムライが言っていたとも託を御願いします」
「薬膳なのか?普通にムチャクチャ美味そうなカレーなんだが…?」
気象庁が「気温高過ぎて日本列島ヤベエっす」の発表を出すと同時、仕込んでおいたのだった。誰の為かといえばそれは地域に暮らすお年寄りや、まだ小さな姪っ子の為であって、決して暑さ対策を我慢して自滅しているお巡りさんの為ではないのだが_。
「此方は俺等医療部隊が熱中症で倒れた際、インドの美人が作ってくれたムルグ・マッカーニです。それに各種スパイスを追加して薬効の強壮効果だけ中毒域ギリギリまで高めています。オールスパイスとニンニクとカレーリーフとスターアニスとセージと唐辛子と黒胡椒を全部粗挽きで粉にして混ぜ合わせたら、レモン汁と塩を加えたヨーグルトに入れて作るマリネ液に鳥の胸肉を漬け込んで調理してあります。ソースはトマトをベースにチリペッパーパウダーとカルダモンパウダーで辛さを生み出し、バターと生クリームでコクを出してますので」
「ゾンビも蘇りそうなチキンカレーだな、それ…」
当探偵事務所、大人気商品である。
最近、先輩が務める警察署の署長さんも来るようになったのだが、その署長さんがこのバターチキンカレーを好んで食べていた。強壮効果が高過ぎて夜眠れなく一品である。ご家庭で試そうなどとは思わないでほしい。
「最強の薬膳はカレーなんです。ですが、毎日カレーじゃ飽きるでしょ?なので先輩にはショウガ鍋だったりを提供するようにしてるんですが」
「そういや署で俺だけ熱中症へっちゃらだったけど。もしかしてこれ、俺はお前が作る料理を常食してるからなのか…?」
「先輩の弁当でさえ最近は俺が作ってますもんね。先輩の奥方様の弁当もです。世話になった近所の先輩に弁当を作るのは恩返しという意味でも望む所ではあるんですが、幼稚園から喧嘩ばかりしてた幼馴染の女の子に弁当を作る俺の気持ちを考えた事はありますか?味付けが濃いだの彩が悪いだの、奥方様は当探偵事務所にクレーマーとして登録されてますからね?」
「なんか、ごめんな…?カミさん、気が強いもんで…」
違う。
あの子は気が強いんじゃなく我が強いんだ。
だから昔っから反骨の心を持つ私とは喧嘩ばかりだった。
「もう今回、探偵成分無しで終わるじゃないですか。ウチは診療所でもカレーを提供する居酒屋でもないんですよ?最近、悪質な事件は無いんでしょ?まず警察署全体が熱中症に苦しんでるってのが一番大きな事件ですよ?」
「密室でどう見ても他殺の遺体が見つかったぐらいだな。背中を刺されて俯せに倒れていた」
それを早く言えと、私はこのポンコツ刑事を可哀想な目で見た。
探偵が探偵やらねえでどうすんだとの意思表示である。
「凶器はなんですか?」
「鋭利な刃物、とだけ言っておくわ。ま、十徳包丁だな」
「十徳包丁?随分と所帯じみた凶器ですね。普通、背中を狙った刺殺なら刃渡りの長いダガーやドス、少なくとも出刃包丁なんかを使うもんですが。ガイシャに結婚歴はあるんですか?こんなの身内の犯行でしかありえませんよ?」
「いや、独身だ。遠くに離れて家族とは暮らしてるし交友関係も殆どねえ。誰が犯人になるのかが解からないぐらいにキャラの薄いガイシャになるか。他者と衝突するような意見を持つわけでもなく、他者を巻き込む様な信念も無く、ただ出稼ぎに来ていただけの中年男性だ」
「キャラが薄いのは山形に来てからですか?それとも元々ですか?出稼ぎ中は目立たず静かにしていようとか思う不埒な人間は少なくないもんですが?」
「それも調べてあるよ。元々、静かで大人しい男性だ。奪われた金品も無し。奪われた証券も土地権利書も無し。アパートはこの気温でスゲエ熱さだったらしい。一気に腐敗が進んだみたいでな。鑑識も困ってる。一応、これが写真と資料だ」
この暑さが急に出て来たのが気象庁発表の七月半ば。最近見つかって遺体の腐敗状況は鑑識が困る程に進行していたと考えれば犯行は七月中であると断定出来るか。
七月の、人が死ぬ危険性を帯びる暑さの中での犯行。
写真を並べて見比べる。
成程ね。
殺される理由は、彼自身には無かった。
殺す理由だけが、犯人側に存在しただけ。
「犯行現場、エアコンが付きっぱなしじゃないという事はガイシャ以外に誰かが部屋に居た。そして凶器は包丁。ガイシャは出稼ぎに来ていた中年男性。当時の気温は気象庁がヤベエっすを繰り返す異常な高温。出稼ぎに来るという事、そして派遣社員じゃないという事、其処から視えるのは会社の幹部級であると判断して良い。高給取りを殺して得をする人間は誰かを思えば自ずと犯人は見えてくる。高温が腐敗を進行させる事は中学生でも解かる事ですしね」
「…働いてた企業か!」
「違うとしても彼が死ぬ理由は仕事にしか存在しません。携帯電話の履歴にも女性関係の物が一切ありませんし、資料を視る限り彼自身大きなプロジェクトの中枢だ。ライバル企業であれ、自社であれ、彼は企業に殺された。友人が居なくても会社の人間ならアパートの部屋にあげるぐらいするでしょ彼のような優しい真面目な男性ならば。俺は相手がアンジェリーナ・ジョリーの場合しか部屋になんかあげませんけど」
「アンジェリーナ・ジョリーだったら、もう仕方ねえモンな…」
「俺は検察に連絡を。先輩は企業の捜査を始める準備を始めて下さい」
「すっげえぞお前!んじゃ、ちょっくら署に連絡してくっから!」
暑くなると増えるのが蚊と暴走族だが。
悪人も活性化するもんだ。
だからこそ警察署がダウンしている事に憤慨しているのだが。
「これから忙しくなるな。そのバターチキンカレーを食わせて梅風味の経口補水液を飲ませて警察はカムバックだ。なんかもう、お前が居なかったら俺等全員が納税者から殺されてそうだったけど」
「今日はお酒を出してませんでしたか、これが最初の御酒で最後の御酒です。此方、暑さを殺すカクテルとして知られるモヒートになります。キューバ発祥のラムベースのカクテルなんですが、砂糖と塩が入ってるので経口補水液と同じく水分を大腸ではなく小腸で吸収します。確かに暑さを殺しますが、飲み過ぎると暑さ以上に俺等が酒に殺されるんでお気を付けください」
「それ、浸透率が高いカクテルって事だもんな…。だが、氷とミントとラム酒とソーダって組み合わせは見た目も涼しげで良い」
「薬膳カレーである特製ムルグ・マッカーニ、梅風味の特製経口補水液、お手製のアロエ湿布、どうせ飲むのは先輩だしこんなもんで良いだろでテキトーに調合したモヒート。お客様、本日の御食事代、合わせまして八万円になります」
「またボリ過ぎだろ!それとこんな危ねえカクテルをテキトーに調合すんな!」
「八万円になります」
「払わねえぞ⁉」
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