第4話 居酒屋探偵サムライ・ハロウィンリベンジ
「忙し過ぎて落ち着いて飲めねえ。警備会社に業務委託をサッサとやれって話だろ!」
「また随分と荒れてますね?」
常連の刑事さんは大層御立腹であった。
まあ、基本的にいつも不機嫌ではあるのだが。
なにやら、本日は明確な原因があっての不機嫌らしい。
「渋谷でハロウィンを楽しんでいた市民が暴徒化したなんて事件が在っただろ?そのとばっちりが山形県警にまで飛んで来ててな」
「俺んトコにも案件として入って来てましたね。運転手が中に居るというのに軽トラを横転させたという事で器物損壊と傷害の容疑が掛かってるって」
本日の料理は寒くなったという事で身体が温まるキムチ鍋である。
しかし普通に白菜キムチを入れただけの寄せ鍋を作るのでは料理好きとしての矜持が許さない。其処で今回ご用意させて頂いたのは豚モツと大量のモヤシを煮込んだ博多風のモツ鍋であった。其処に仕上げとして大量の特製・壺ニラキムチをトッピングすれば出来上がり。一味唐辛子を一袋丸々と豆板醤を一瓶丸々使用したニラキムチは食べると胃が焼けると泣いて叫ぶお客さんが続出する人気商品だ。
イカの塩辛とカツオの酒盗を加えるのがコツなのでね。
ご家庭で試す方は間違っても一味唐辛子を一袋入れるのは止めておこう。さもなくば、私のように綺麗な婦警さんが涙と鼻水と涎を垂らしながら水を求めて彷徨う姿を視る事になる。
ホント、嫁の貰い手が居なくなるんじゃないかと思うような顔だったモンな。
あ、ストーリーどうぞ。
「警察が警備を緩めたらやって来たんだよな、ああいうお祭り騒ぎがしたいだけのバカが。だが俺等警察は組織単位で動くだろ?定められた警備の時間帯を無視して好き勝手に動く遊撃が出来ねえんだ。だからこそのこの探偵事務所なんだろうが、あの場にお前が居てくれたら軽トラの運転手は怖い思いをしなくて済んだんじゃねーかとも思うわけなんだよ」
「俺があんな連中を見かけたら即座に発砲しますけど?空に向かって三発でも撃てば大抵は散会して静かになります。それでも止まらないなら車に乗って暴れてる一名の膝でも撃てば良いだけだ。マスクでも被ってハリウッド映画の悪役に扮したら、銃口をビニール傘から出して撃てば硝煙反応で俺が発砲したと露見する事も無い」
暴徒化する人間の大半はその場の雰囲気に飲まれたと言いたがるが。
社会人になったのならば己を律する事を覚えておけと言われて怒られるだけ。
それで誰かを傷付け人生を狂わせてしまったならば殺されても文句は言えない。
ちなみに発砲すれば硝煙が自分の体に振りかかるので硝煙反応検査ですぐにバレる。其処でビニール傘で自分の体を覆い発砲する事が重要になるわけだ。こういう技術は民間の軍事会社に居た頃に嫌という程に叩きこまれた。これは暗殺というか捜査妨害に近いスキルである。
警察のお手伝いさんが捜査妨害を学んでいるんだから世の中解からんモンだ。
「お前、あの場に居なくて良かったわ…」
「どっちなんですか。そもそもあの規模の暴徒を鎮圧するんなら武器が無いと不可能です。俺は先輩みたいに素手でも戦えるわけじゃないんですし」
「体重が軽い奴はどうしても格闘が不得手になるもんだしなあ。だからと言ってお前に日本刀を渡す気はねえけど。なんかお前の場合、真剣だけでなんとかしちゃいそうだし…」
「斬って良いなら斬りますが。でも一人でも斬れば俺が殺されかねません。数を制圧するにはやはり数が必要です」
土鍋に高く積まれていたモヤシがしんなりとして全てが鍋に収まる。その塔の天井に乗せられていたニラキムチが鍋の味噌を紅く染めると今まで昼寝を楽しんでいた愛犬で番犬で看板娘のハナコがビックリした顔をして事務所から退避した。
犬には解らんだろう。
この豚骨スープと味噌にキムチが混ざり合う香りは。
「暴徒鎮圧なんてのは揉みくちゃになるもんだしなあ。やっぱ、其処でも体重の軽い奴は不利なんだよなあ。お前、ちゃんと食べてるのか?筋肉質なのは認めるがガリガリじゃねえか」
「吐くのが日常なんで食べても栄養が身体に行かないんです。俺を手酷く裏切った『若いんだから仕方ないよね☆』お姉さんの過失は重い」
「お前は世界的な英雄の筈なんだがなあ…。今じゃ内臓を病んでるアブねえオッサンだもんな」
「見た目だけは二十七歳で止まってますけどね」
博多の屋台で食べるモツ鍋という事で酒もまた九州のものを提供する。佐賀県は嬉野市に存在する五町田酒造が醸す酒で銘を『東一』とする吟醸酒だ。甘口が多い九州の酒には珍しい東北の辛口を思わせる端麗な飲み口が特徴であり、シャッキリとした中にほのかに薩摩芋や栗のようなコックリとする後味を残す佐賀県を代表する銘酒だ。
「山形県なのに山形の酒が出ねえのがこの店らしいよな」
「山形県の酒は何処の酒造の物も旨過ぎて慣れてしまうと他県の酒が飲めなくなるんです。その証拠に居酒屋を舞台にした漫画で紹介される日本酒で山形の地酒は必ず入ってますもん」
「山形は遊ぶところが無いと県民は言いたがるが、それ全然違うよな。俺も県外に出た筑波大出身だからよく解かる。遊ぶところが無いんじゃねえ。『山形以上に魅力のある観光資源が近くに無い』んだ。酒はコンクールを毎年受賞するような酒造がゴロゴロ存在する。料理はミシュランで星を取るような店がゴロゴロ存在する。果物は東京じゃ高値で取引されるようなモンを日常的に食べてるわけだし、温泉は殆どが秘湯レベルだ。何より米だってイチロー選手が山形のつや姫を好んで食べてるわけだろ?」
「だからこれだけの観光資源を持ちながら外国人観光客を呼べないのが俺は不思議でならないんですよね。今や世界中の方々が仕事を休んでトルコの泥風呂に入る事を楽しみにするような時代なんですよ?泥風呂入るなら蔵王温泉か肘織温泉に入った方がずっと健康的でしょ。山形は四季の移り変わりも顕著だから飽きるという事が無いんだし。意外な事に多言語化も進んでる地方なのにですよ?」
山形県民は恵まれ過ぎなのである。
遊ぶ所が無いのではない。
山形以上の何かに出逢う事が出来ない立地に我々は暮らしているのだ。
農家の友達に貰うラフランスがこの時期は美味しいが、東京じゃ一個八百円とか聞くのだし。
バカかと思ったモンだった。
買わず、ご近所さんから貰うモンだ。
果物とか、お漬物とかは。
「暴徒化してた連中も山形に来れば良かったのにな。あんなバカ騒ぎをしなくちゃ楽しめないのが不幸だ。この店のおみ漬けの旨さを一時間ぐらい説教してやりてえ」
「それ俺が漬けたんじゃなく、近所の婆ちゃんから貰ったモンですけどね。そのおみ漬けのように紫蘇の実を入れる地域もあれば刻んだショウガを入れる地域もあるみたいですけど。貰いもんですが、ウチは漬物にもこだわる居酒屋ですのでドンドン出して行きたいと思ってます」
漬物も山形という狭い土地の中で文化が分かれるのが面白い。米沢の雪菜漬けは芥子菜漬けに似てはいるがずっと上品で美味しいし、北村山のペソラ漬けは有名な大物歌舞伎俳優が大好物だと評する珍味だ。
山形の御年寄りが作るお漬物が金と同等の価値を持つ時代なのだと知るべきである。
芸能人の多くが蔵王温泉と漬物を求めて山形にやって来るのだから。
この前なんか普通にラーメン屋でタモさんと会ったし。
「事件は常に人と人の間で発生しますから、暴徒化というのは山形じゃ在り得ないっすね」
「そうでもねえ。もてなし酒の文化が在るから酔っ払い同士の喧嘩には事欠かねえ」
確かに山形において暴徒化するに近いのは飲み屋で騒いでいる大学生ぐらいか。一度、何を思ったのか飲み会の席で婦警さんをナンパして来た度胸のある大学生も居たモンだった。しかし彼女の旦那さんになるならば柔道の日本チャンプか剣道の日本チャンプにしか不可能だろう。綺麗な見た目は確かに認めるが、元アマチュア女子ボクシングの日本チャンプだからである。
救急車を呼んだ方が良いんじゃないかと男性陣は酔うのも忘れて大騒ぎしたもんだった。
私は救急車じゃなく霊柩車を呼べと思ったがね。
最早、雌ライオンと何が違うのか解からんような気性の持ち主だからな。
さて、常連さんである先輩にはワラビの漬物と枝豆の冷や奴で楽しんで頂く。
「お前って、その生意気なクソガキがそのまんま大人になったような見た目に反して素朴なモンが好きだよな…。おみ漬けもそうだし、この店に出て来る餅は黄な粉に黒蜜だし…」
「黄な粉に黒蜜じゃないと婦警さんが怒り狂うんですもん。でも甘いのにお酒が飲めるのは流石古来より大奥の女性に好まれて来た黄な粉餅ですよね。いや、決して婦警さんは大奥の女性と一緒にしてはならない生物なんですが。県警の婦警さんは小癪な事に綺麗な方が多いですもんね」
だが、彼女達の職務の大変さは頭が下がる思いばかり。だからこそ餅は搗きたてを出す事を厳守しているし黄な粉も炒り豆を挽いたばかりの物にしている。黒蜜だって職人さんから買い付けているほどだ。そんな手間暇を知ってか知らずか、彼女達は怪獣のように食べて怪獣のように飲んで、そしてオヤジ化して去っていく。
何故、私の周りには見た目は綺麗なのに中身が残念な女性が多いのだろう?
「ああ。婦警だけじゃなく山形県は美人も多い。お前もそうだが、ハーフ顔って言うのか?彫りの深い顔立ちの奴が珍しくねえだろ。お前の場合、アラブ系だからおっかねえんだけど」
「アラブ系というか中東系の顔つきだから外見年齢が二十代後半で止まったのかと。この容姿を利用して大学への潜入捜査なんてのは珍しい事じゃないですし」
「同じく小癪な事にパッと見だとモデルみてえだしな、お前は…」
「毎朝の食後に梅干しを御茶に入れた奴を飲んでホッと一息ついたら、畑の水撒きと切り干し大根作りを狼犬と一緒になってするモデルなんか存在して良いんですかね…?」
私の切干大根は一度茹でる作業を行わない。その方が寒風に晒されて旨味が凝縮する。食感は硬くなってしまうが、どうせ煮付けか鍋にしか使わないのだ。
探偵としての依頼が何も無い時、私とハナコは農家レストランを経営するお兄さんと狼に変身する。
ハナコの場合、手伝うというか大根掘りが楽しいだけなのだがね。
だからお前アンヨが真っ黒になっちゃうんでしょと怒っても、彼女は笑ってもっと掘らせて下さいと言わんばかり。人間嫌いが行き過ぎて犬と仲良しになるのは世界中の軍人さんに共通する事ではあるんだが。
傍に犬が居る環境だから今日も山形は平和だ。
私を自殺に追い込んだ連中をナトリウム爆弾で殺そうと思わずに済む。
「素朴も其処まで行くと病的だよな…。もうすぐ平成終るんだぞ…?」
「そもそもハロウィンに縁遠いでしょ日本人は。次はクリスマスなんでしょうけどそれが終われば正月を祝うじゃないですか。仏教なのか神道なのかキリスト教なのか解からなくなってる。俺は曹洞宗の仏教徒なんでハロウィンで騒ぐ暇があるならば禅を組めと言いたいですけど?」
「時代に逆行し過ぎだろ…。禅なんか何処で組めるのか解からねえし…」
「曹洞宗は禅宗なんで事前に連絡をしておけば何処でも出来ます。心の病気が危険域だった時、助けてくれたのはお坊さんでした。曹洞宗青年会という曹洞宗の若手組合なんですが」
震災の支援で知り合い、其処からコンビを組んで五年以上になるか。
亡くなってしまった方々の鎮魂を行う際の警備に私が就いてから、私が一番救われていた。
誰も憎むなと、彼は言った。
誰も怨むなと、彼は言った。
そして何より。
誰も許すなと、彼は言った。
「世の中がハロウィンだろうと俺はなんかお寺に行きたくなって来たんですが?」
「まだ盆には早い。あと半年以上先の話だ」
「いつだって寺院の門は開いていると俺の災害支援方面の相棒は言っています。信仰を支え、人々がよりよく生きる道を示すのが僧侶であるとも」
「警察方面の相棒である俺は御免だね。信心深さで事件は無くならねえ。暴徒に囲まれた軽トラの運転手が祈っても横倒しにされる運命は変わらねえ」
そう。
だから、誰も許してはならない。
遊び半分で人を傷付け、何を償うのかさえ理解出来ないような悪党は。
「俺等バッテリーは警察じゃ有名だが、お前には俺以外のキャッチャーが存在するんだよなあ。ヤキモチ妬いちゃうだろ」
「まあ、警察だけが正義の味方じゃありませんし…」
野球ってのは全く知らないから詳しい事は何も言えないが、投手は捕手の事が大好きであるというのが良いバッテリーの条件らしい。女房役という意味で、彼等の間に他者が入り込む余地は全く無いからだ。だから甲子園の放送なんかを視てると羨ましくなってしまう。
良い奥さんを貰うのは難しいが。
良い女房役を持つ事はそれ以上に難しい。
だが、かの有名漫画の国見君と野田君のようなバッテリーは。
警察という組織では意外と日常的に見る事が出来る。
バディシステムは。
それこそ、投手の捕手の関係性に近い。
「だから俺とお前が山形県警の国見と野田になるんじゃねえか?」
「俺と先輩は義経と弁慶だって皆にバカにされてるじゃないですか。義経は大変なんですよ?お魚屋さんとお肉屋さんを行ったり来たりです。仕入れと仕込みの合間を縫うようにして薬に手を出してるバカや派遣社員を苛めているバカをブン殴っているわけですし」
当探偵事務所は警察機構の補助機関。
簡単に説明するなら警察官しか利用出来ない探偵事務所だ。
しかしながら探偵だけをやるのも芸が無いとして私は居酒屋機能を事務所に詰め込んだ。
だからウチは探偵事務所の営業時間が終われば、居酒屋になる。
看板から灯りが消えたら暖簾が掛かる。するとお巡りさんが料理と酒を求めてやって来てくれる。普段、守秘義務という強固な盾を構えるお巡りさんでも酔えば貴重な情報を話してくれるという打算も在った。しかし本当の心根は大変な商売である警察官を支えたいという純粋な支援から始めた事である。
ま、毎日のように来るのは実家が百メートルも離れていないという地元の先輩だったが。
「本日のお品書き、また珍しいところが来たな?」
「旬の魚は海が荒れたら高くて仕入れる事が出来ませんからね。異常気象で旬もクソも無いんで豆腐や挽肉は提供する側として助かるんです。変わらない価値というのは目立たたないけど其処に無くてはならない。セカンドやショートみたいに」
「俺、ショートってなんで其処に居るのか不思議に思ってたクチだけど?」
「ショートは内野で余ってる奴じゃねえ」
変わらず、其処を護る存在がどれほど有難いのか。それは世を支える支柱だ。新しい物や目新しい物に興味が行くのは理解も出来るのだが、誰が生活を支えているんだって話である。地方が元気な国は豊かになるとの言葉は政治家に共通する理念ではあるが。
しかし地方が元気過ぎると中央が地方を苛めるのも世の常。
廃藩置県はそもそも中央集権を狙った政策だ。
「だが、油揚げのメンチカツってどういうことだ?」
「衣の代わりに油揚げを使っただけのメンチカツです。合い挽肉に刻んだタマネギを入れて、そのタネを油揚げに詰めて揚げるだけですね。ウチは薬膳を根幹にしてますので、ニンニクとショウガにクローブやペッパーという香辛料も沢山使ってはいるんですけど」
「二杯目の酒も、珍しく発泡系の日本酒だな?」
「なんせ山形県はスパークリング日本酒のパイオニアですから。元禄時代には上杉家御用酒蔵でもあった米鶴さんが出してる奴になります。鶴の恩返しがそもそも山形県のお話であるという事から鶴の一文字を社名に入れたらしいですが」
それでなくとも上杉家の上品さは鶴に喩えられる事が多い。
クソタヌキとしか縁のない私からしたら羨ましい話ではあった。なんせ会津松平家が本家である。武家としての家柄はバーちゃんの兄貴がインドネシア沖に潜水艦と一緒に沈んだ事で没落してしまってはいるのだがね。
が、クソダヌキ成分は子孫の私に間違いなく受け継がれていた。
メンチカツに使った合挽肉は安いアメリカ産なのだが、本日のおすすめを記した黒板にはチョークで『県産和牛の油揚げのメンチカツ』と、ウソを書いているからである。
だから香辛料を多量に使うのだ。
バレないように。
多分、鳥居元忠さん辺りは胃に穴が開いていたのではないのだろうか?
こんなテキトーな主君を持ったら。
「最近は正義の味方も暇なんじゃないですか?町中に青パトが居ますけど?」
「嘱託の方々が頑張ってくれてるからこそ俺等警察官は殺人的な超過勤務をしなくて済んでるんだろ。まだ青パトが少なかった頃なんか俺の給料は時給換算すると三百円だったからな。超過勤務のし過ぎでサービズ残業するしかねえって時代が在ったんだから」
「働き方改革が貢献するわけですねえ」
「貢献しても縦割り社会なのは変わらねえ。だが、そうじゃなくちゃ警察は機能しねえ。だが、この御時世だからな。同僚なのに距離が遠いのが寂しくはあるわなあ…」
上司が父親代わりになるのが警察だからか。
きっとそうなのだろうと、私は油揚げのメンチカツを揚げながら首肯した。
上司への信頼関係とは敬う事が常日頃から出来ているかどうか。それを私に教えてくれたのも、この先輩だった。退職を控えたベテランさんに楽をさせる為にと動いて、それで年寄呼ばわりするなとワルガキ扱いされる先輩の姿は確かに署内全員が家族であるという警察の理念と合致する。しかし先輩の言う通りに最近では警察じゃ同僚同士でも敬語を使う風潮があるとは聞くが、それは余所余所しさを固持しなくてはならない時代という事なのだろう。ハラスメントでいつ内部告発されるか解からない時代でもあり、その内部告発は警察全体の風紀に関わる問題だからだ。
なんとも味気のない時代だ。
アメリカ産合挽肉にも劣るような。
パザパサな、時代だ。
「大丈夫、俺はずっと先輩の弟分です。小学校の頃からそれは変わりません」
「弟の方が活躍する兄弟って兄貴は辛いんだけどな…」
「俺は先輩みたいに素手で戦えませんし、足で証拠を集める事も出来ません。内臓を病んで動けなくなった探偵でしかない。暴徒化した住民を制するのはやはり警察官だ。其処に探偵が介入出来る余地は無い。ま、援護射撃として一キロ先からM40A5で狙撃しても良いんですけどね。あれは海兵隊御用達なんで、精度は間違いないですし」
「狙撃が出来る探偵の事を、世の中じゃ殺し屋って呼ぶんだけどね…」
警察官が活躍するような状況は好ましくないのだが、警察官しか活躍出来ないような状況が多過ぎるのが更に好ましくない。警察も自衛隊もその本質は戦闘職だ。暇である事が何よりも望まれる。それなのに警察ではサイレンが鳴り止む日は絶対に無いし、自衛隊では誰もが昨今の国際情勢の不安定さに胃を痛める毎日だ。
こんな時代だからこそ変わらない価値を持つ存在の有難さがよく理解出来る。
油揚げとか、挽肉とか。
旬とか悪天候とか、そういうので値段が変化しない存在。
縁の下の力持ちがどれだけ有難いか。
会社に行ってコピーして電話応対してだけの毎日だと嘆く警察職員の方も来る事は来るが。
そういう方々が何より有難い。
バックアップが充実しなくてはポイントマンは何も出来ない。
その結果が、ハロウィンの騒ぎだ。
「成程、此処で警備会社を警察の補助に使う可能性が出て来るのか…。確かに警察が動けない時間帯を委託してしまえば警備会社は儲かるし警察は余計な税金を使わなくて良い」
「お前へのイジメもまた、暴徒化なんだよな。空気に酔った。運転手が中にいるのに軽トラを横倒しにしたなんてレベルじゃねえ。なんせ自殺させておきながらサムライに勝ったんだと勝利宣言をしてんだからよ?」
「だから彼等彼女等は人殺しだ」
「ああ、人殺しだ」
乱痴気騒ぎをした結果、何を手に入れた?
他人様の人生を狂わせて、何を手に入れた?
油揚げのメンチカツを揚げながら思う。
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