第10話 小さな救世主
「はぁ? 無茶いうなよ!!」
こんな幼女を家に泊められる訳がない。そんな事をしたらチカちゃんにドン引きされる事間違い無しだ。
「では仕方ないわね。マル、とりあえず東横という所に行きなさい。そこならあなたくらいの見た目でも違和感なく野宿が出来るはずよ?」
「おいおい、東横を勧めるなよ……」
「でも仕方がないんです」
確かに……マルを隠す為にはそうするしかないんだよな。
「あー、くそっ。期間はどの位た?」
「一週間……程あれば、彼女を受け入れる準備が出来ます」
「引越しでもするつもりかよ?」
「いえ、彼等の調査方法が解析出来れば魔法で回避する事が出来るのです」
「なるほど……安暮にはその手があるんだよな」
「はい。解析さえ出来ればマル自身も回避出来るのです」
色々な事が頭の中を過ぎる。
一週間、一週間か……
「わーったよ、一週間だけ匿ってやる。ただし、マルが言う事を聞かなかったら問答無用で追い出すからな!」
「という事です。マル、今日から一週間は田中さんの従者として過ごしなさい」
「承知しました!」
正直、了承はしたもののチカちゃんになんて話せばいいのだろうか?
見た目も人種も全然ちがうから、妹や親戚というには無理がありすぎるし、何よりマルはすぐにボロを出すだろう。
「田中、何か悩んでいるのか?」
「そりゃあな」
「マルも申し訳ないとは思っているのだ」
「まぁ、そう思うのならなるべく大人しくしていてくれるのが一番だ」
「わかった……」
マルの手を引き、電車に乗るだけで目を引いてしまう。きっと周りの奴らはどういう関係なのだと気になって仕方がないに違いない。時々握る手に力が入るのは彼女もそれを感じているからなのかも知れない。
意外にもマルは元々従者だったという事もあるのか、それとも安暮に俺の従者になる様に言われているからなのか大人しかった。
駅に着くと、外は真っ暗で店の明かりや街灯の灯りが帰り道を照らしている。ふと、マルが俺の手を強く握った。
「どうした?」
「話してもいいのか?」
「別に大人しくしろとは言ったが、騒ぎになる様な事じゃ無ければ、喋るなとは言っていないぞ?」
「そうなのか?」
「意外と順応性がないんだな?」
「マルは今まで、ミサキ様の従者しかしてこなかったからいざ田中に仕えろと言われても何をしていいかわからないんだ」
なるほど、彼女なりに色々と考えていたというわけか。
「それを言うなら、俺は従者なんかいた事がないぞ? 知り合いの妹が泊まりに来る位のちょっと気まずい感覚だ」
「そうなのか?」
「経験で言えばお前の方が先輩だな!」
「マルは先輩なのか……」
「だから、魔法を使うとか、目立つ事さえしなければ好きにしてくれればいい」
彼女は分かったと言った様に頷くと、少し表情が明るくなった様な気がした。
「まぁ、ここが俺の家だ。従者がいる様な家からしたら物置くらいの物かも知れないが、我慢してくれ」
そう言って鍵を開けると、マルは俺を止めるようにドアに手をかけ先に入る。すると狭い玄関にひざまづいた。
「えっと、ただいま……でいいのか?」
「ん? 少し足をあげてくれるとたすかるのだが?」
おれは言われるがままに足を上げると、俺の靴に手を添えた。
「な、なに?」
「主人の履き物を預かるのは従者の仕事だろう?」
「いや、そんなのいいよ。下駄箱だってあるし」
「それならそこにしまっておこう」
「普段はこんな事をしているのか?」
「いや、本来なら風呂に入れるまでが仕事だ。今日は勝手がわからないから、出来る様に教えてくれ」
「もしかして、家事とかしてくれたりするのか?」
「当たり前だ。マルしか従者はいないのだろう?」
もしかして、マルってめっちゃ便利なんじゃ……。
「そう言うなら、使い方を教えておくよ。まずは風呂だな……そこの洗剤とスポンジで洗ってから、栓をしてそのボタンを押せば沸く」
「あとは放置すればいいのか?」
そのあと、洗濯機やキッチンの使い方を教えると、マルは目を輝かせていた。
「それだけでいいのか? これならマルだけでも時間があまりそうだ」
「別にお前が全部する必要はないんだぞ?」
「そう言われてもマルにはそれしかする事がない。仕事を取られてしまったのでは暇なのだ」
「テレビみたりとか、マンガ見たりゲームくらいはしてていいんだぞ?」
「それは、仕事か?」
「仕事ではないから、無理にはしなくてもいいけど。マルにも息抜きは必要だろう? 何かしたい事はないのか?」
マルは少し悩むと、マンガの置いてある棚にめをやった。
「見た限り田中は勉強家の様だな。良ければその棚の書物でこの世界の事を学ばせて欲しい」
「……マルって結構エライ子なんだな」
「マルは側近の従者だからな!」
俺は彼女にノートと筆記用具を渡すと、かなり喜んでくれたみたいだった。それと同時に、彼女は意外とこの世界と異世界の今の状況がわかっているんじゃないかと気になった。
「マル……一つ聞いていいか?」
「構わない。今は田中の従者だからな」
「今、世界では何が起こっているんだ?」
「……」
踏み込み過ぎてしまったのだろうか。彼女はノートを書くてを泊めて考え込んでいる様だった。
「言えないなら、無理に言わなくてもいい」
「そうじゃない。何を話せば良いのかと悩んでいるだけだ」
そういうと、彼女はノートの最後のページを破り机の上で何かを書き始めた。
「田中はメレニスを知っているか?」
「一応……マルの世界の王なのだろう?」
「正確にはヒューマンの王だ。そして、マルの主人ミサキ・アングレシアの父、ゼノア・アングレシア王と対立している……」
「魔族の王、安暮は魔王の娘という事なのか?」
「いかにもヒューマンらしい発想だな。そう、彼等はそう呼んでいる」
だがら、安暮は隠れる様にしていたのか。
「でも、知っているだろ? 魔族とヒューマンはほとんど変わらない。魔法が使える事と、寿命が長いという事以外はこちらの世界で人種が違う程度の違いしかない」
「俺の知る限りでもそうだな」
「世界を繋ぐゲートを押さえたヒューマンは、マル達を滅ぼす為に、今ある力だけで無くこの世界の武器までも手に入れようとしているのだ」
「それって……」
「察したか? 魔族の次はヴォーヒューマン、田中達が攻められる番になるだろうな」
「……嘘だろ?」
「魔族の陰謀だと思うならそう思えばいい。ただ、現時点では、魔族を壊滅寸前に追いやったヒューマンが使える魔法の事は、この世界の奴等には伝えていないみたいだがな」
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