第8話 仕事の救世主

 とりあえず俺は二人を離し、解決の糸口を探る為それぞれ事情を伺う事にした。


 一番いいのはお互い仲直り&納得してそのまま進められるのが理想だが、あまりにも遺恨がある場合には最悪業者を変えるという事も考え無くてはならない内容だ。


 最終的な妥協点が業者の変更である以上、まず俺は業者の社長に話を聞く事にする。


「田中さん、変な事に巻き込んでしまい申し訳ありません」

「顔合わせまでは相手の事はわかりませんからね。一応解決する為にも過去に何があったのか伺っても宜しいですか?」


「はい……」


 二人から話を伺うと、全体増が浮んでくる。

 内容を簡単に言うとオーナーの嫁を結婚前に寝とっていた相手だったという訳だ。確かにそんな所に自分の物件のリフォームを頼みたくはないだろうと思う。


 ここは身から出たサビという事で、うちの会社を盾にして社長さんに折れてもらうしかないか……。


「ねぇ、ちょっといいですか?」

「安暮さん、初日から厄介な案件に巻き込んでしまって申し訳ない」

「それはいいのですけど、手伝いましょうか?」

「説得してみたいのか? 下手に引っ張ってオーナーとの信頼関係に亀裂を産むより、今回は社長に折れてもらって委託先を変えるしか無いと思うよ?」

「二人が仲良くなればいいんですよね?」

「それはそうだけど……」

「二人くらいであれば、問題無くできますよ?」


 そう言って、安暮さんは目を指差した。


「そこまで言うなら、一度だけ話してみるか? だけど、オーナーを無理に説得しようとはするなよ?」

「はい、大丈夫ですよ!」


 安暮さんは、オーナーの方へと歩いていくと一言挨拶だけを交わし、そのまま二人で社長の方へと向かう。俺は慌てて彼女を止めようとしたのだが……


「大人気ない事を言ってすまなかったね……」

「いえ、こちらこそ……」


 は?

 あいつは何をしたんだ?

 それまでの殺伐とした雰囲気からは一転し、まるでお見合いでもしているかの様な微笑ましい感じの様子だ。


「田中さん、ご迷惑をおかけしました」

「このまま進めていただければと思います」

「あ……お二方が良ければ、打ち合わせさせていただきますけど……」


 それから打ち合わせに入るも、違和感しか無い。双方の付き添いも拍子抜けした様な顔で順調に進んだ。


「君が言うなら、それでいい」

「精一杯、尽くします」


 ん? 何というか、背後に薔薇が浮んでないか?

 まぁ、順調に事が進んでいくのであれば俺は特に問題は無いのだが……いや、ちょっと待て。安暮の奴、交渉の前に目を指差していたよな。


「安暮、まさか使ったんじゃないだろうな?」

「書き換えているので、効果は切れませんよ?」

「それならまぁ……よくねーよ! ちょっと後で詳しく聞くからな!」


 やはり魔法を使ってやがった。

 効果は切れないとの事だが、そんな解決方法を使っていいはずがない。


 打ち合わせの後、昼食を取るため近くのファミレスに入り彼女に尋問をする事にした。


「それで……書き換えたって言っていたが、お前は何をしたんだ?」

「メンタルマニュキレーション。精神魔法なんですけど、憎悪の感情を愛情に書き換えたんです」

「精神魔法って、そんなのもできるのかよ」

「誘惑、書き換え、改ざん……この辺りであれば一度に多人数は難しいですが数名であれば可能です」

「……怖いな」

「軸になる感情がない事には出来ないのですが、今回はお互いに憎悪や罪悪感と言った感情がありましたのでひっくり返すだけで良かったんです」

「それで愛情というわけか……」


 直接害があるわけでは無さそうだが、あまり使わないに越した事はないだろう。


「憎悪の分だけ、相手に愛情が芽生える形になりますね」

「ちょっとまて、それって男同士ならどうなるんだ?」

「愛に性別は関係ありませんよ?」


 前言撤回だ。思いっきり害があるじゃねーか!

 だが、今回の件に限ってはそうでもしない限り話が纏まる事は無かっただろう。引っかかりは有るのだが、目を瞑るしか俺に出来そうな事はないな。


「そういえば……なんだけど、魔法ってテレビに出ていた奴らも使えるのか?」

「メレニス王が使えるかという事ですか? それならイエスです……」

「やっぱりか」

「ですけど、彼らはヒューマンなので魔法だけで言えば使えても大した事はないです。メレニス王のような一部の人間は別ですが、使えても家電程度の力がほとんどです」

「安暮とは人種が違うのか」

「私は魔法に特化した魔族なので。ですが一世代であればハイブリッドも可能です!」


 別の種族とも子供は作れるという事になるのか。ハイブリッドが一世代との事なので、血液型の様な遺伝の関係なのかも知れない。


「ですが、こちらの世界の人はヒューマンと呼ばれる種族に近いですが、少し違うのでどうなるかはわかりませんね」

「そうなのか?」

「ええ、例えるなら粘土の様に混ざり易く残り易い特徴があります」

「まぁ、クォーターなんかもいたりするからな」

「世界間での交配は実例がないので、なんともいえませんが試しに私と作って見ませんか?」

「ぶふっ!!」


 俺は食べていたパスタを吹き出してしまう。


「すまない。試しにってそんなノリで作るものじゃないだろう……」

「田中さんは男性ですし、ちゃんと機能しているのであれば問題ないかと?」


 以前から少し感じてはいたが、彼女の貞操概念はどこかがおかしい。それに、俺はチカちゃんとだって出来なかった俺のは機能していると言えるのだろうか。


「ともかく、この世界ではそんな簡単にするもんでも作る物でもない。これからも生活していくならそのあたりは理解しておいた方がいいぞ」

「そうですか……」

「あと、俺には大事な彼女も居る。頼むから俺に変な魔法はかけてくれるなよ?」

「あれ? そうだったのですか?」

「……。まぁ、そういう事だ」


 気のせいなのか、安暮が少し不機嫌な顔をした様に見えた。万が一彼女が本当に迫って来たとしたら……いや、いくら見た目がいいからとはいえ同じ会社の、それも何をしでかすかわからない様な奴とチカちゃんとでは比べるまでもない。たとえ彼女が普通だったとしても、俺はチカちゃんとの楽しい生活を選びたいと思った。


 反面俺は良くない事だとは思いつつも、安暮の力を使う事で今後の仕事が全て上手くいくのだと過ぎってしまっていた。そうすれば俺たちはかなりの高待遇を受けられるのではないだろうか?

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