旅ウサギクウちゃん、東海道をゆく その2

 クウちゃんは、自分のテリトリーに入られるのが嫌いです。

 なのに、毎朝、お掃除のお母さんに侵入されます。


「お母さん、入っちゃだめだよ!ここ、クウちゃんの場所なんだから!」

 クウちゃんは、お母さんの周りを走って阻止します。

「掃除だよ。クウ」


 チューブを取り上げて、草をはらいます。

「そ、それ、クウちゃんの、クウちゃんのだからあああ!」

 クウちゃんは、困ったように周りを飛び跳ねます。


 それから、お母さんは、トイレのシーツを取り換えて、ふきふきし始めます。

 そして、それを乾かすように、立てかけてしまいました。

「ダメ―!そんなことしちゃダメ―!クウちゃんの!クウちゃんのだってばあ!」


 下に敷いてるインド綿の敷物も取り替えます。

 はじっこを持ち上げて、お母さんは言います。

「クウ、邪魔だから退いて」


 クウちゃんは、重力に負けて、トタッタと外に向かって移動させられます。

「あああああああああ!クウちゃんのが、クウちゃんのがあ」


    ― 絶望のクウ。


 破壊者、お母ゴンによって、街は壊滅状態です。


 さて、伊勢神宮のお話しでした。

 伊勢には有名なグランピング施設があります。全体的にポップでアメリカンな雰囲気。

サイトによっては、川の傍にあり、カヌーがついていたりします。

ロフトから滑り台で一階に降りれるようなキャビンには、庭にカラフルな遊具まで付いています。

 子供たちは大喜び。


 この夢のワンダーランドにクウちゃんもお泊りです。

 ペットと泊まれるのは、シンプルなコテージでした。お風呂はありませんが、トイレはついています。玄関を出ると、広いデッキになっていて、このデッキ、周りがビニールで覆われています。ちゃんと半屋内のようになっていて安心でした。ここにはクウちゃんを出してもいいとの事。でも、木の角っこをかじるのが好きなクウですから、野放しにはできません。荷物、クーラーボックス、いろいろで防御。敷物を引いて、ゲージを開けてみました。


「ん?ん?」

 クウちゃんは一歩も出ません。


「出ないねえ」

「出してみよう」


 クウちゃんは慌てて戻ります。

「なんか、怖がってる」

「犬かもしれないな」

「犬?」

「昨日、ここに犬が泊まってたんじゃないか?」

 クウちゃんの本能が、危険を察知しているのかもしれません。


「んー、こういうこともあるのかあ」


 クウちゃんがちょっと可哀そう。なので、お母さんは珍しく、クウに特別サービスです。

「大好きなカリカリ棒を入れてあげよう」

 クウちゃんは、ゲージの中でカリカリカリカリ遊んでいます。

「まあ、しかたない」


 お父さんとお母さんは、火おこしに入ります。

 このキャンプ場の近くに道の駅があるのですが、ここに美味しそうなサザエが売っていたのです。

 お母さんは、サザエに目がないのでした。

 伊勢志摩のサザエですよ、奥さん!

 これを炭でじわじわ焼きます。

 自分の出汁で貝の蓋がグツグツ泡立ってきました。

 サザエが、食べごろですよー!と言っています。

 ここに、数滴お醤油を垂らしての、竹串でするんと抜き出すのですよっと。

 ぷりんぷりんで最高!

 特に、このワタの部分がですね、うまみと苦みが相まって、何とも言えんのですわ。


 もちろん、日本酒です。


「悪いね。クウちゃん。今日は、お母さんばっか楽しんじゃって」








  

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